子供は夜にこそはしゃぎまわる
ニーナは大人が誰もいない、という世界を意外と楽しく受け入れていた。
彼女の隣にボスコが戻って来たからかもしれない。
ニーナはフィッツ達大人がパーティと繰り出した後、初めて寂しいと感じて涙を流してしまったのである。
リュカはとっくに寂しいと泣いている。
ニーナは彼を慰め、お父様に手紙を書こうと彼に手紙を書かせた。
そして、自分も。
フィッツの領地の黒犬とボスコの仲違いや、ラバーナのパンプルームでの意味不明としか思えない貴族のグルグル歩きなど。
リュカと一緒の時のニーナは、姉と義理の兄への手紙を書いていても何の感情も湧かなかったが、その手紙をローザに持って行ったそこで彼女はガツンと孤独感に打ち砕かれることとなった。
ローズはにっこりとニーナに笑い、どちらへ送りますか?と聞いてきたのだ。
ニーナに答えられるはずは無い。
ミアとフォルスは行方不明だ。
新婚旅行でどこに行ってしまったのかニーナにはわからないのだ。
ニーナはフィッツだったら知っているわと、貴婦人の笑顔をローズに見せつけてからボスコの元へと走った。
昼間はニーナを追い払おうとしたボスコだったが、ニーナの両目から涙が零れるところを見た途端に、ニーナの涙が完全に乾く様な顔をして見せた。
犬でも顎が外れるぐらいの驚き顔が出来るのだと、ニーナはボスコの間抜け顔に感心してしまったほどだ。
さらに、ボスコの所に行った自分を叱りつけたくなるぐらいに、ボスコは今まで以上の世話をニーナに施し始めたのだ。
べろんべろんべろん、抱きつき抱きつき、べろんべろんべろん、だ。
ニーナが暑苦しいとボスコを蹴ってしまいたいくらいの、ボスコによる犬独特の愛情攻撃だった。
「でも、あなたが隣にいてようやくわたくしに戻れた気がするわ。」
ぶふん。
ボスコの鳴き声が不満そうであるのは、それはニーナが少年に扮装してしまったからであろう。
フィッツの子供時代のシャツに半ズボン、そして、大きなキャスケットを被り、止めのようにして頬には炭を擦り付けたのだ。
ニーナはボスコと一緒に隣の家の裏口を見張れる場所に隠れていた。
街路樹の周囲は小さな花壇のようになっていて、小さなニーナが隠れるには最適であり、真っ黒なボスコがべちゃっと伏せていれば影にしか見えないのである。
ぶふん。
「あら、わたくしが男の子の格好をしているからじゃなくて、あなたはわたくしがしていること自体を怒っていたという事なのね。」
子供が寝ている筈の深夜十時。
キィと微かにドアの開く音がして、大人の人影が二つ隣家の裏口から現れた。
マントを頭から被っているが、体型から男と女であるのは間違いないだろう。
ニーナは伏せているボスコの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「よし、あの吸血鬼達の正体を暴くわよ。」
読むものが無いからと古い新聞を漁っていたら、確かにラバーナでこの一週間に三人もの男性の遺体が見つかっているという記事をニーナは見つけた。
見出しにはラバーナに吸血鬼出現とあった。
ニーナは臆病でもあるのだが、ゴシックホラーは好きなお子さまでもある。