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青天の霹靂

リアルパートです!

  7月4日日曜、午前1時42分。

 まるで学生時代のように、こんな時間になっても俺とだいは狩りを続ける。

 ペースがいいから、もう1つくらいスキルが上がっても不思議じゃなさそうだ。

 俺がそんなことを考えていると。


「ゼロやんはさ」

「ん?」


 背中越しにかけられる、だいの声。

 すっかり余裕がでてきたのか、もう話しながらプレイしても問題ないみたいだな。


「なんで私とずっと一緒にいてくれたの?」

「え?」

「だって、初めてフレンドになったときも言ったけど、私面白い人間じゃないし」


 淡々とした声。

 どう答えたものか、俺は考える。


「ゼロやんならもっといろんな人とプレイできたでしょ?」

「あー」

「私はゼロやんがいなかったら、今くらい強くなってないだろうし、助かったけど」

「うん」

「なんでずっと私といてくれたの?」

「そうだなー」


 ちょうど1匹倒したので、俺は目を見て話したくなったので、だいの方へ振り返ろうとする。

 だが。


「あ、しばらくこっち見ないで」

「え?」


 だいの制止が入る。

 え、なんで? え、ダメなの!?


「私がいいって言うまで、振り向くの禁止」

「は、はい」


 だが、想像以上に強い口調でだいは俺にそう告げてくる。

 なんだ? 深夜テンションでの会話だから、恥ずかしいのか?


 たしかになんで7年も一緒にいたのか、か。面と向かって話すにはちょっと恥ずかしい話ではあるけど……。

 うーん、でも俺としては真面目な話だから、目を見て話したかったな。

 だがだいが望むなら、そうする(振り向かずに話す)まで。


「俺がだいと一緒にいたのは……最初は甘えだった」

「甘え?」

「うん。甘え。何も言わなくても一緒にいてくれたじゃん。それがありがたくて、嬉しかった」

「どういうこと?」

「そりゃ最初は上手いフレンドができたって思っただけだったけどさ」

「うん」

「だいは、いつも俺のこと待っててくれただろ?」


 あ、さすがに恥ずかしいのか、こいつ黙りやがった。

 

 でも、俺も深夜テンションのせいか、今なら色々、今までの感謝を言える、そんな気分になっていた。


 さすがにこんな会話をし出したので、狩りは一時中断だ。

 コタンの丘の荒野で、〈Zero〉と〈Daikon〉も向かい合って静止している。

 俺はだいに、背中を向けてるけど。

 だいは今、どこ見てんだろうな。


「前も言ったけど、俺がだいと出会ったのは、亜衣菜と別れた頃だったからさ。俺は亜衣菜のこと知ってる大学の奴らと距離を置いて、独りになってた頃なんだよ」

「……うん」

「亜衣菜と別れたこといじられるのが嫌だから、リアルの奴らとはあまり関わりたくない。でも、やっぱり独りは寂しい。結局俺は、LAに逃げるしかなかったんだ」


 LAの中なら、リアルの奴は踏み込んでこれない。俺と亜衣菜の想い出が、きれいなままだったしな。

 逃げ場所として、こんなにいい場所はなかった。

 

〈Cecil〉(未練)がいた世界でもあるんだけどね。


「でも、勢いでギルドは抜けちゃってたし、ほんとあの頃の俺、抜け殻みたいだった気がする」

「そんな風には、思わなかったけど……」

「そりゃせめて文字だけは元気にするわ」

「そう、なんだ」

「そんな時にだいに出会った」

「うん」

「だいは、リアルの俺のことを知らないから、俺の傷をえぐることはない」

「うん」

「しかも、いつでも俺のこと待っててくれる」

「うん」


 あ、今度は認めてくれた。

 ちょっと嬉しい。


「それが嬉しくて、居心地がよくて、そんな存在に甘えてた」

「そう、なんだ」

「頼ってくれてるのもわかってたし、すげー素直に俺の言うこと聞いてくれるし。うん、だいとフレンドなってからの、あの頃のLA生活はほんと楽しかった。あ、もちろん|【Teachers】の活動《今》も楽しいけどさ」

「うん」

「だいはなんで一緒にいてくれたのって思ってるみたいだけど」

「うん」

「むしろ俺の方が、お前(〈Daikon〉)にいてもらったんだよ」


 俺がログインする度にメッセージをくれただい。

 俺があれしよう、これしようと提案すれば、全て従ってくれただい。

 段々と気さくに話せるようになっていっただい。

 一緒に【Mocomococlub】に入ってくれただい。

 俺が採用試験に受かったと言ったら、自分のことのように喜んでくれただい。

 就職してからプレイ時間が減っても、変わらず俺といてくれただい。


 振り返れば、俺のLA生活は、〈Daikon(だい)〉との思い出で溢れている。


 今まで自覚してなかったけれど。

 こんな話をするまで気づいてなかったけれど。

 俺にとってこの7年は、亜衣菜との日々を上書きしてくれる日々になっていたんだな……。


「こんな気の合う友達、リアルでもいねぇよって思ってたよ」

「そっか」

「お前に会うために、俺はログインしてたんだ」

「……うん」

「まぁ、リアルを知った時はびっくりしたけど」

「それは! ……お互い様でしょ」

「いーや! 俺はお前を男だと思ってたんだから、お前以上だ!」

「はいはい」


 ほんとに、ほんとにびっくりなんだよ。


 亜衣菜と別れて何年だよって話だけど、俺の中には女々しくもずっと、亜衣菜(片想い)が残り続けてたんだから。

 他の女性と関わりたいとか、ずっと思ってなかったんだから。


 でもだいが女と知っても、俺はだいから離れる気にならない。


 いや。違う。

 離れる気とか、そんなもん微塵もない。


 俺はまだ、だいのそばにいたい。

 ずっと、だいのそばにいたい。


 ほんとに、びっくりするくらい、俺はこいつのことを考えている。

 いつの間に、こんな風に思わされたんだろうな。


「俺はだいと、いるべくしていたんだ。助かったって言いたいのは、俺の方だよ」

「そっか」

「ありがとな」

「ううん。私の方こそ、ありがとう」

「うん。……なんか、変な感じだな」

「うん、変な感じ」


 何とも言えない気恥ずかしさをごまかすため、俺は愛想笑いをした。

 でもだいは無言。たぶん、真顔なんだと思う。

 

 そして俺たちの間に流れる、しばしの沈黙。

 クーラーの音と、コタンの丘の少し寂しい雰囲気のBGMがやたらと耳に残る。

 

 こんな静寂の中なのに、もう俺の頭の中は、だいでいっぱいだ。


 やばい、今俺、めっちゃ告りたい。

 好きだって言いたい。

 これからも、そばにいて欲しいって言いたい。

 

 ああもう!

 この前好きな人がいるとか、聞きたくなかったよ、ほんと……。

 それ聞いてなきゃ、今間違いなく告ってるわ!



 モニター上では、変わらず〈Zero〉と〈Daikon〉が少しの距離を置いて向き合っている。


 でも、これが、俺とだいの距離感だよな。


 そう思うと、少しだけ、舞い上がった自分の中のトーンが落ち着いた気もした。

 いや、それでもだいのことで頭はいっぱいだけどさ。


 何を言えばいいか分からないまま、俺はぼーっとモニターを眺め続ける。

 俺の頭の中は伝えたい言葉(好き)で溢れてるのに、それを言葉に出すことができない。


 情けなくて、なんか笑えてくる。


 だが、感傷的になる俺の耳が、タイピング音に気づく。そしてその音の終わりとともに今度は目が、モニターの変化を伝える。


 音と引き換えに現れたのは、1行の青い文字(パーティチャット)


 そこに並んだ文字の意味が、俺には理解できなかった。






〈Daikon〉『ずっと貴方が好きでした』






「え?」


 そのログに、俺は気の抜けた声を出してしまう。

 全身の血の気が引いたような、それでいて血液が沸騰するような、よくわからない感覚が、身体を支配する。

 

 こいつ、何言ってんだ?

 え、誰に言ってんだ?


 自分の理解を越えた出来事に、俺はだいの言いつけ(振り向き禁止)を破って、振り返る。


「好きです。私は、ゼロやんが好きです」

「え?」

「私と、付き合ってください」


 俺が振り返るのと、言葉はどっちが先だったのだろうか。


 振り返った視線の先には、熱っぽい瞳でこちらを見つめるだい。 


 彼女の言葉に、俺の脳が真っ白になる。


 真剣な彼女の眼差しと見つめ合う。

 大混乱する脳とは裏腹に、俺は、固まる以外の行動が、取れなかった。

明日(2020/6/5)も1話掲載とさせていただきます!

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