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パンドラの箱

リアルパートです!

「あ、意外と軽い」

「あ……」


 あからさまに挙動不審な俺に近づいただいが、俺の手から箱を奪い取る。

 完全に困惑状態の俺は、持っていかれるがままに、箱を渡してしまった。


「大事なもの?」

「違うよ!? その、うん、捨てるつもりだったんだ。うん、ほんとね、忘れてただけで、捨てるつもりだったんだよ?」

「だから何が入ってるのよ?」


 要領を得ない俺に、だいは完全に呆れ顔で俺を見ていた。

 いや、でも言えないよね……!


 亜衣菜(元カノ)との思い出の写真とか、もらった手紙とかが入ってるとか、言えないよね……!

 

「そ、その中にはあらゆる災厄が込められておるのじゃ……! あ、開けてはならぬぞ……!」

「何それ? どこのNPCよ?」


 完全にテンパった俺に言えたのは、それくらいで。

 いやでも俺にとって、いや、きっとだいにとってもそれは災厄には違いないだろう。


「災厄って、こんな軽いんだ?」


 呆れたように笑いながら、だいが軽く振った箱からは、軽いものが動くような音がした。


 うん、亜衣菜のお手製アルバムが中で動いてんだろうね……!


 うーん……これはもう、腹をくくるしかないか……!!!!!


「うーん、なんだろ?」

「ごめん!」

「えっ? な、何よ急に大きな声だして」


 覚悟を決めた俺は、まず全力で謝罪することにした。

 そんな俺の声にだいが少し驚いた顔を見せる。


 でも、隠すよりはマシ、だよな……。


「それを捨てようと思ってたのはほんとだから。捨てるの忘れてた俺が悪いんだけど、その中身を見たら、きっとだいは嫌な気持ちになると思う」

「え?」

「だから、ごめん」


 俺の言葉にだいの表情が曇る。

 ログインしっぱなしのPCから流れるホームタウンののどかなBGMが、今はとてつもなくシュールだった。


「……そっか」

「うん」

「そうだよね、ゼロやんも男の人だし……えっちな本の一つや二つあってもしょうがないよね……」


 はい!?


「いや、そういうのではないよ!?」


 え、そう思ったの!?

 っていうかしょうがないって何!?


 まさかの誤解に、俺は慌ててだいの言葉を訂正する。


「え、違った?」

「いや本だとしたら軽すぎるだろ! っていうか今の時代そういうのはネットでいくらでも……ってああ違う! 何でもない!」

「ふーん……」


 し、しまった!!

 余計なことを!!!!!


 まさかのここで発揮されただいの天然に、思わずツッコミをいれつつ墓穴を掘ってしまった俺。

 だいの表情に浮かぶのは、完全に軽蔑の色です。ごめんなさい。


「いや、ほんと、そういうのじゃないんだ」

「じゃあ何よ?」


 まるで出会った頃のような、刺々しい声が心に刺さる。

 だが、耐えねばなるまい……!


「亜衣菜との、思い出というか……」

「え?」

「ごめん。残してたことすら忘れてたんだ。いつか決心がついたら捨てようって思って、ここに越してきてからずっと、置きっぱなしだったんだ」

「……そっか」

「うん、ごめん」


 バリッ


「えっ!?」


 バリバリバリバリバリッ


 なんということでしょう。

 俺の「ごめん」を聞いただいは、何を思ったか俺が施した封印を解き始めたではありませんか!


 だが、それを止めることも出来ず、俺はただただその様子を眺めるのみ。


 亜衣菜と別れて、ここに引っ越してくる前にしまったものだから、その封印が解かれるのは、6年ぶりくらい。


 そして、封印(ガムテープ)解かれた(はがされた)災厄|《段ボール》をテーブルの上に置いただいは、ためらいもなくその箱を開けた。


「あ、可愛い……」


 この光景をどんな気持ちで眺めればいいのだろうか?

 だが、箱の中から取り出したお手製アルバムを見て、だいは一言そう呟いた。


 そのアルバムの表紙には、フェルトで作られた男の子と女の子が貼られていて、上部に『りん&あいな』となるようにフェルト生地が貼られている。

 それを見た瞬間思い出す、それは俺の二十歳の誕生日に亜衣菜が作ってくれたやつだ。


 正直今の俺からすれば、それをだい(彼女)に見られるというのは、拷問以外の何ものでもないんですけど……!


「可愛い……」


 そしてさらにパラパラと中身を見だしただいは、収められた写真を見て一言。

 どのページを見てるかわかんないけど、その頃だと、俺はたしか亜衣菜と同じ茶髪に染めてた頃だろうか……。


「亜衣菜さんも、昔から可愛いね」

「え、あ、はい……」


 いや、「はい」じゃねえだろ俺!?

 っていうか亜衣菜さん「も」って何!?

 え、まさか最初の可愛いって、俺に対してだったの!?


「ゼロやんも若いね。茶髪なのすごい違和感」

「そ、それはたぶん二十歳くらいの頃だから、もうだいぶ前だし……」

「でも、すごく仲良かったの、伝わってくる」

「いや、でも昔のことだし……」

「それでも、この頃は仲良かったんでしょ?」

「え、いや、その……まぁ、うん……」


 答えづらいわ!!

 いや、たしかにその頃はまだLAを始める前だから、普通に出かけたりとか、いたって普通の恋人同士だった頃だとは思うけど……。


「別に、過去に嫉妬したりしないわよ」


 俺の様子に何を思ったか、俺に呆れたような顔で苦笑いを浮かべるだい。


「……嘘。やっぱりちょっと羨ましいとは思うかも」


 と、思わせて即座にちょっと拗ねた顔になったり。


「……私が知らなかったゼロやんを知ってるのは、やっぱり羨ましい」


 そう言っただいの表情は小さな子どものようで可愛いのだけれど、その分なんというか、罪悪感が募る。


 そしてだいはパタンとアルバムを閉じて、今度は封に入った手紙たちを手に取った。

 その封には、女の子らしい丸文字で『りんりんへ』と書かれている、昔亜衣菜からもらった手紙たちですね……!


 しかし、俺だって昔だいから「6年前から好きな人がいる」って言われた時、同じこと思ったんですけど……。

 ……俺のことだったけど。


「この頃って、幸せだったの?」

「え?」


 手紙を手に取り、中身を見るでもなく、淡々とした口調でそう尋ねるだい。

 いや、今付き合ってる人の前で、それを答えるのは、流石に……。


「聞かなくても分かるわよ。写真の中の二人、幸せそうだったもの」

「いや、うん……」

「……というかさっきから何なの? ずっとうじうじして?」

「いや、だってさ……」

「何よ?」

「彼氏んちに元カノとの思い出が残ってたとか、嫌じゃないのかよ?」


 いい加減だいが何を考えているか分からない俺は、思い切ってそれを聞いてしまった。

 俺だったら、たぶん嫌だから。

 俺の知らないだいを見るのは、分かってても、嫌だから。


「別に」

「え?」

「亜衣菜さんと付き合ってたのを知った時はちょっとショックというか、そういうのもあったけど、実際に会ったら雑誌で見るより可愛いし優しいし、好きになってもおかしくない人だと思ったもの」

「え、知った時って……?」

「まさかゲームの中で好きな人の元カノの話聞くなんて思ってなかったわ」

「あ、あの日ね……」


 それはまだオフ会前、俺がだいだけでなく、ジャックもぴょんも男だと思ってた頃、もこさんに〈Cecil〉の名前を出されて、亜衣菜の話題になった日のこと。

 もう2か月くらい前の日のことか……。


「でも、今は嫌かどうかって言われても、別にって感じなのは本当。というか、昔の亜衣菜さんの写真見て、なるほどな、って思うとこもあるし」

「え、どういうこと?」

「それは秘密」

「え、なんで!?」


 いや、マジで何考えてるのか全然わからん!?

 え、どういうこと!?


「亜衣菜さんと付き合ってたのって、大学1年の頃からなんだっけ?」

「え、あ、うん。1年の秋頃から、大学4年なる前の春休みくらいまで、かな」

「聞かせてよ」

「え?」

「亜衣菜さんと付き合ってた頃の話」

「いやいやいや! え、なんで!?」

「聞きたいから?」

「え? それ、聞きたがるもん……なの?」

「こんなの見せておいて、今さら?」

「いや、それだいが……!」


 お前が自分で封印を解いたからやないかい!!


 っていうかマジかっ!?

 え、彼女に、元カノとの話、するの!?


「私には、ゼロやん以外に付き合ったことがある人がいないから」

「う、うん」

「他の恋愛ってどういうものなのか、知りたい」


 その瞳が、真っ直ぐに俺をとらえる。

 夕飯作ってる途中だし、作ってからでいいんじゃないかとか、とてもじゃないけどそんな風にはぐらかすことができる雰囲気ではない。


 これも、俺が蒔いた種のせい……か。


 亜衣菜との過去、ね。


「はぁ……」


 一度大きくため息をつきながら、俺はだいと出会ってからなるべく思い出さないようにしていた記憶の蓋を、開けることにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Tabネタ通じた(笑) [一言] ゼロやん、【助けはいりますか?】w と冗談はさておき、過去編スタートですね!
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