見た目は大人、中身は?
リアルパートです!
「ただいまー」
18時45分頃、駅から車で15分ほどで、周辺にはほとんど家だけという住宅街エリアにある実家に到着。
この家が建ったのはもうだいぶ前、俺が10歳くらいの頃だったかなー。
東京でこのサイズの家を買うといくらするんだろうとは思う駐車場付き5LDK。1階には広いリビングダイニングと母さん用の部屋があり、2階には俺と妹、父さんの部屋と両親の寝室がある。
まぁ、今は俺の部屋は誰も使ってないんだけど。
「おかえりー」
「いや、お前かよ」
そして俺の「ただいま」に答える真実。
うん、むしろお前も今は「ただいま」が正解だからな?
「おー倫! よぐ帰ったな!」
あー、実家の匂いだなーとか考えつつ、玄関を抜け、リビングに向かうとそこには俺もいつかこんな感じなるんだろうなーと思わせる初老の男性、父さんがエプロンをつけて待っていた。
3年くらい前に一次定年となった父は、すっかり勤務時間も短くなり、今はだいたい17時半には帰宅しているという。
ん? 父さんの仕事?
そりゃ俺が教員で妹が市役所職員なんだからね、お堅い職業、銀行員だよ。
地元の地方銀行で、数年前までは支店長も務めていた人でもあるからな。
まー、家だと普通にいい父親というか、フランクな人だけど。
俺や真美より、ちょっと強めに訛りがあるのも懐かしいな。
「おう。これお土産ね」
「おー、いつもあんがとな!」
ちなみに父さんが好きなので、だいたいお土産はいつも雷おこし。東京駅でも買えるし、お手軽でありがたい。
「お父さん何か手伝うことあっかー?」
「いや、あど揚げるだけだから大丈夫だ。お兄ちゃんとゆっくり話してなさい」
「はーい」
そんな会話が聞こえたので、俺はとりあえず荷物を持って2階の自分の部屋へ向かうことにする。
ちょこちょこと後ろから真実がついてくるけど、この感じはほんと昔からかわんねーな。
なんというかね、結局俺も真実もまだ子どもがいないから、いつまでたっても家族にとって妹が一番小さい子扱いなんだよね。
こいつも自覚あるのか知らないけど、いつまでこのままなんだろうか?
ま、この感じはこの感じで、帰って来たって感じするんだけどねー。
そして8か月ぶりの自分の部屋。
ベッド、机、漫画ばっかりの本棚と、大して面白みのない部屋は当然変わり映えなく。
「つか、なんでお前も俺の部屋きてんの?」
「えー、別にいいべって。お父さん言ってたね? お兄ちゃんと話してなさいって」
「いや、まぁ言ってたけど」
俺の部屋のベッドに腰かける妹に何とも言えない視線を送ってから、まぁいいやと割り切り俺は持参したキャリーケースから衣類を取り出してクローゼットの中にしまっていく。
しかしずっと閉めてたから、若干カビ臭いな。
あけっぱにしとこっと。
そんなことを思いつつ作業を進めていると。
「そいえばさ」
「ん?」
「お兄ちゃん、最近何かあった?」
「んー? いつも通り楽しく生きてるよ」
「え、でも今までネックレスとかつけてねがったじゃん」
「あ」
おっと、こいつ意外と目ざといな……!
あとで家族揃った時に話そうと思ってたのに。
「バレたか」
「え、ついにお兄ちゃんにも春がきた!?」
「まぁな」
「え、どんな人どんな人!? 写真は!?」
え、食いつきすごいなこいつ!
バッと立ち上がってそばにやってきた真実の勢いに気圧され、俺はポケットにいれていたスマホを取り出し、写真フォルダを起動させてこの前の華厳の滝で撮っただいとのツーショット写真を表示させて手渡した。
「この人」
「えっ! うっそ!? めっちゃ美人! なんで!?」
なんでって……いや、君兄を何だと思ってるんだい?
まるで奇跡を見たかのように驚く真実に少し呆れる俺。
「昔からの知り合いだったんだよ」
「むむむ?」
「ほら、俺ずっとやってるゲームあるじゃん?」
「あ、LA?」
「そそ。一緒に遊んでる仲間たちいるんだけどさ、そこでオフ会やって、出会ったんだ」
「えっ! こんな美人さんもゲーマーなの!?」
「そういうこと。まぁ、同業者でもあるんだけど」
「えっ! しかも先生!?」
「うん。夏の大会合同チーム組んだ」
「同じ部活!?」
「うん。しかも割と家も近い」
「嘘!? なにそれ!?」
隠すことでもないのでつらつらとだいについての情報を伝えると、面白いほどに妹は驚いてくれた。
先生なの!? って驚いてくれたあたりから、ちょっと面白がって情報を追加していってしまったほどである。
「いや~……こんな綺麗な人がお義姉ちゃんになったらって考えたら緊張しちゃうなー」
「気がはえーよ」
まぁ俺もそれはね、期待してるというか、そうなるといいなぁとは思ってるけどさ。
「って、お兄ちゃん……」
「ん?」
急に、真実の声音が変わった。
何か恐る恐るというか、不信感があるというか、そんな声。
「彼女は何人いんだ……?」
「はい?」
「え、だってこの可愛い人とも写真……」
「あー」
他の写真も探そうとしたのか、いつの間にやら真実は俺とだいのツーショットから別な写真へと画面を変えていた。
今画面に出ているのは、ゆめとのツーショット写真だった。
「これはこの前のオフ会の時のだ。みんなゲーム内の仲間だよ」
「え?」
「ほら、男もいるだろ?」
そう言って俺は真実の手から自分のスマホを抜き取り、大谷資料館でみんなで撮った集合写真を見せてやった。
「あ、ほんとだ。でも、女の人多いんだねー……って、うわ、何この人、めっちゃイケメン!」
「あー、うん。そいつはカッコいいよな」
誰に対する言葉かは言わずもがなだが、うん、顔はたしかにめちゃくちゃカッコいいんだよなぁ。あーちゃん☆は。
でもそいつは、お兄ちゃんおすすめできないよー?
「そのメンバーのうち、8人は学校の先生だぞ」
「え、何? 学校の先生はゲーマーじゃないとダメになったの?」
「いや、断じて違うけど」
俺の言葉にまるで本気でそう思ってそうな顔をされてしまい、俺は思わず笑ってしまった。
まぁね、たしかに普通に考えて、ほぼ学校の先生だけのギルドって、異質だよな。
「ん、ってかさ」
「んー?」
「俺がやってるゲームの名前、知ってたんだ」
「あっ。えへへ~。サプライズしようと思って」
「ん?」
えへへー、ってお前もう今年24だろ、ってツッコミかけたけど、よく考えればこいつより1歳年上のゆめもよく使ってましたね。
ならセーフ……いや、うーん……。
兄として、注意すべきか……?
とか思ってると。
「私も始めましたっ」
いや、なんで敬語……って。
「えっ!? マジ!?」
おいおい聞いてないんですけど!?
え、いつの間に!?
「ふっふっふ。密かに今年お兄ちゃんが東京さ戻ったあと、始めましたっ」
いやだからなんで敬語……?
ん、でも、待てよ。
「あれ、そしたら俺が使ってたノートでやってんの?」
「甘いぞワトソンくん」
「なんだそのノリ」
ちなみに、俺は帰省しても活動日くらいはなるべくログインをするようにしていたんだけど、その時使ってたのは妹と兼用のノートPCだったのだ。
昔からゲーム好きなのは知られてたから、その時は真実も理解を示してくれていたんだけど、いやまさかね。
基本俺がやってる横で見る専だった真実がなー。
「ちゃんと自分用の買いましたー」
「まぁ、そういう流れだよな」
「前のPCも動画流したりしながら使ってっからすぐ使えるし、今日から一緒にできっべ」
「いや、一緒にってお前サーバーどこなの?」
「え?」
「いや、たまたま一緒のサーバーになるとか、1/48だぞ?」
「な、なんですって!?」
いや、この顔マジでその発想はなかった! って顔じゃねえか!
「と、とりあえず持ってくっから、待っててっ」
「はいはい」
まったく、なんだって今さら始めたんだか……。
あいつ俺が始めた高校生の頃とか、欠片も興味示してなかったくせに。
と、ちょっと考えている間に2台のPCを持って戻ってくる真実。
ま、こいつの部屋目の前だしな。
片方は前々から俺が使っていた黒のノートで、もう1台はシルバーのPCのようだった。
おそらく買ったのもLAを始めた頃なのだろう。
性能が良さそうで羨ましい。
そして俺は自分の机に黒のノートを置いて、真実が自分の部屋から小さな折り畳み式のテーブルを俺の後ろに置き、そこに座ってそれぞれPCを起動。
あれ、この状況、なんかデジャヴだな……。
でもたしかに背後からLAを起動する時の音が聞こえてくる。
「どれどれ」
自分の方のログインを済ませ、01サーバーに〈Zero〉を降り立たせた後、席を立って妹側のPCを覗き込む俺。
キャラクター選択画面を見ると、どうやら02サーバーのようだった。
うん、惜しいな。1つ違いだ。
いや、1つ違うも2つ違うも、サーバーの違いは全部同じだけどさ。
「あー、残念。移転しないと、俺んとこはこれないぞ」
「えー、なにそれー。頑張って育ててきたのにー」
「いい年してふくれんなって」
「慰めろー」
「何歳児だお前」
両頬を膨らませて、拗ねた様子を見せる妹にあきれ顔をしつつ、しょうがなく昔のように頭をぽんぽんとしてやってから、俺は自分の方のPCでブラウザを開き、LAの公式サイトを開いた。
そこで移転希望掲示板というものの存在を教える俺。
残念ながら現在01サーバーから02サーバーに行きたい、という希望は見当たらないようだったが。
まぁ、01サーバー来たいって人は多いからなぁ。
なかなか厳しいか。
「とりあえず、ここに自分のキャラ名書いて、01サーバーに行きたいって希望出しとけばいいよ」
「わかりましたよう。……あ、備考欄って理由も書けばいいの?」
「ん? あー、まぁ俺は使ったことないけど知らないけど、他の人もなんか希望理由書いてる人いるし、書いてみればいいんじゃね?」
「おっけー」
「しかし、お前何この名前」
交換希望キャラの名前を書き込むと、どうやら真実のLAでのキャラクター名は〈Hitotsu〉と書いてあった。
ひとつて、なんじゃそりゃ。
「え、ほら、私の漢字、読み方変えっと?」
「え、しんじつ?」
「ほら」
「いや、何が?」
「いつも?」
「は?」
「繋げて言ってみっよー」
「しんじついつも……? あ」
「ねっ」
「どんなつけ方してんだお前……」
「アニメキャラの名前に漢字当てて読み方変えただけの人には言われたくありませーん」
「やかましいわ」
脳内にはね、青い服に蝶ネクタイをつけた、いつも何故か事件に遭遇しちゃう少年が浮かんだけど、これ以上はやめておこう。
まぁたしかに、昔から好きだったっけな。
小さい頃よく探偵ごっことかしてたしなー。
「でもさ、お兄ちゃんがゼロだから、数字の0だべ?」
「はい?」
「私は一つ、つまり数字だと1だべ? ほら、0と1、兄妹っぽくね?」
「じゃあ〈Ichi〉とかでよかったんじゃねーの?」
「それは使用されてました」
「試したのかよ!」
とまぁ、兄妹でふざけた会話になってしまったが、とりあえず真実の書き込みが終わったようで。
「あとは連絡来るの待つだけだ」
「来っといいなー」
「うちのサーバーは人気だからな、あんま期待しないほうがいいべ」
「そかー……お兄ちゃんがこっちさ来てくれてもいんだよ?」
「残念。彼女がいるので行きません」
「なんだとー。妹より彼女取るってのかー」
「あたりめーだろ、何年振りだと思ってんだ」
わざとらしく怒ったふりで殴りかかってくる妹を「はいはい」と制止しつつ、俺が久々の彼女なんだぞアピールをすると。
なぜかピタッと攻撃をやめる妹。
む、どうした?
「……長かったもんなー」
「いや、そこでしんみりすんなっ!?」
「いやぁ、妹として心配だったのだよ。お兄ちゃん就職してから、何の話もなかったし」
「それはわるうございましたね。……そういう真実は、何もないのか?」
「何言ってんの。何年も彼女出来ない兄の負のオーラを受けてる私に、出来るわけねねー」
「いや、俺のせい!?」
そう言って笑う姿に、なんて妹だと思いつつ。
「ただいまー!」
やたらとでかい声が、一階から聞こえてくる。
「あ、お母さん帰って来た」
「じゃあ、下いくか」
「掲示板連絡ありますよーにっ」
「はいはい」
お互いPCを開いたまま、俺たちは階下へ移動し、正月以来の家族再会へと向かうのだった。