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気まずい距離感

リアルパートです!

Prrrr.Prrrr.

「おう」

『こんばんは』

「おつかれー」


 あの後なんとも気まずい空気の中、俺と田村は無言で採点に取り組み、先に採点を終わらせた俺は残業2時間程度で学校を後にした。


 家に着いたのは20時前。

 夕飯を作る気力もなく、適当に買ってきた夕飯を食べた。

 昨日一昨日とだいの美味しすぎる手料理を食べていたせいで、なんとも寂しい夕飯だったがしょうがない。


 その後は風呂に入って、少しだけログイン。分かっていたけど、だいはいなかった。

 加えて月曜は元々ログインするギルドメンバーも少ないため、募集されていたスキル上げに応募し、90分銃スキルを上げて、今がだいたい23時。


 そしてログアウト直後に、寝る前に電話してもいいかとだいから可愛いお願いが来て、今に至るってわけだ。


 しかし、付き合ってから別人のように可愛いなあいつ。

 いや、付き合う前から可愛かったんだけど。


「採点進んだ?」

『うん、とりあえず明日返す分は』

「よく頑張ったねー」

『馬鹿にしてるの?』

「あ、す、すみません……」

 

 あれ? 電話してもいいって言っといて、それ!?

 甘えたモードは!?


『でも、採点よりも部活が疲れたわ』

「あーそうなー。明日は俺も筋肉痛かも」

『ちゃんとストレッチした?』

「あ」

『ダメよ。もう若くないのよ?』

「お互い様にな」

『何か言った?』

「い、いえ、なんでもありません」

『よろしい』


 あれー!? 『もうっ』とかそういう反応じゃないの!?

 甘々な会話を期待してたんだけど、違うんか!?


『今日はどんな日だった?』

「え、あー、いつも通り、かな?」

『そっか。私は、ちょっといつもより上機嫌だったかもしれない』

「え?」

『優子に言われちゃった。「先生何かありましたか?」って』


 おお、それは俺のせい(おかげ)かな!?

 少しずつ、俺のイメージ(甘々電話)に近づいてきたぞ!


『いつもより優しい気がするって』

「あー」

『失礼しちゃうわよね』

「なんかちょっと想像ついたわ」

『なんでよ』

「だい、けっこう顔に出るもんな」

『は?』

「昨日一昨日と、めっちゃ可愛かったし」

『え、ちょ、ちょっと! やめてよもう……』


 はい甘えたモードなりましたー。

 こいつ、チョロいな。


『だって、幸せだったんだもん……』


 がはっ

 これは諸刃の剣だったか……!


「次に会うのは明後日か」

『……今だって会いたいし』

「頑張ろうぜ?」

『……うん』


 ああ俺も幸せだなぁ。


「明日もがんばろーな」

『うん、おやすみなさい』

「おう、おやすみ」


 結局は甘え声になっただい。

 しかし、寝る前になんと幸せな時間か。

 彼女が出来ただけで、こんなにも日々の色が変わるとは、驚くばかり。


 明日も頑張れそうと思ってベッドに横になる。


 でも、電気を消して部屋を暗くした時、市原のあの顔が浮かんできた。


 目下の問題は、消えたわけではない。

 明日、あいつとどんな顔して話せばいいのだろうか?

 いや俺が気にすることじゃないんだけどさ!

 

 市原がいくら可愛いからって、俺に好意を示してくれてるからって、教え子に手を出すわけないし、そもそも俺には彼女(だい)がいる。

 教師と生徒。顧問と部員。


 それだけの関係で、それ以上でも以下でもない。


 だが、1年の頃からまとわりついてきた市原が可愛かったのも事実。

 俺だって教師である前に男だし。

 って、それじゃダメだろ!


 本当なら、はっきりとダメだぞって言ってあげるべきだったんだ。

 だから、このもやもやの責任は、俺にある。


 俺のせいだから、『どんな日だった?』と聞かれても、だいに相談できなかった。


 どうしたものかと悩んだまま、眠りにつくまでは、けっこう時間が、かかった気がする。




「おはよーっす」


 翌日の朝のSHR。俺は平常運転で2年E組へとやってきた。

 ちらほらと遅刻している奴はいるみたいだが、市原はふつうにいた。


 ちなみに市原の席は教卓の目の前。席替えで希望してきてから、ずっとそこ。

 なので嫌でも目に入る。


 ちらっと市原に視線を送ったら、笑顔が返ってきた。

 でも、なんというか、目が虚ろなんですけど!?


「おはよ、倫ちゃん」

「お、おう」


 交わした言葉は、これだけ。


 その後はいつも通りの連絡をして、生徒たちは授業に入る。

 俺も、別クラスへ授業に行く。


 なんとなくしこりが残ったまま、俺は部活の時間までもやもやしたまま、業務を行うのだった。




 幸い今日が晴天のおかげで、昨日の雨の影響はなく練習はできた。

 俺がグラウンドに着いた時、今日も今日とて部員たちはマイペースに練習中だ。


「市原、今日はちょっと投げよう」

「う、うん」


 アップを終えたのを確認し、俺はなんとか普通に接することを意識しながら、市原にボールを渡してマウンドに行かせる。

 ああもう、なんで(大人)がまるで元カノと接するみたいに気を付けなきゃいけないんだ!?


「どうしたそらー、元気ねーぞー?」

「そ、そんなことないですよ!」

「そうねぇ、なんか変ね」

「そら先輩が元気ないとか、また雨降りそう」


 赤城の言葉を否定した市原に、黒澤と柴田が追い打ちをかける。


「あ、もしや倫ちゃんそら先輩に何かしたんじゃ?」

「な、何かって何だ何かって」


 にやにやした顔で萩原が言ってきた言葉に、一瞬びくっとしながら俺は努めて平静を装う。

 ちらっと市原に視線をやると、なんとも言えない顔をしていた。

 市原の顔は元がいいだけに、そういう顔をされるとなぜか罪悪感が募る。


 ああもう、やりづれーな!


「一人3打席な」

「あいよー」


 とりあえず何とか投球練習をさせて、俺はマスクだけつけてキャッチャーに入る。

 練習試合に響くとかなると、だいにも申し訳立たねぇからな、なんとかしないとな……!


 だが。


 カキーン カキーン カキーン カキーン カキーン カキーン……


「あ、あれー?」


 ある意味、予想通りではあった。


 どうにも力のないボールばかりの市原は、赤城、黒澤、柴田と滅多打ちを食らう。木本と萩原は、なんとか抑えてたけど。


「おいそら、どうした?」

「2週間のブランク~?」

「う、うーん、そうかもしれないです」


 練習を終えて、赤城と黒澤が市原に心配の声をかける。


 しかしこれは重症だな……。

 原因はたぶんというか、昨日のせいなんだろうけど、俺がどうこうするべきなのか、なんというか気まずくて何を言えばいいか分からない。


 本調子の市原なら、赤城以外は容易く抑えられるのだ。

 それほどまでに市原はうちの絶対的エースであり、彼女の実力をもってすれば、公立校の相手なら簡単には打たれないと、思う。

 だがこの調子だと、まずい。


 まずいんだが、原因が原因だけに、余計にどうしようもなさが募る。


 あーもう! どうしろっつーんだよ!!


 でも、こんな感情を、生徒たちに当てられるわけもなく。


 チーム全体が不安な空気に包まれたまま、その日は練習を終えるのだった。

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