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とある城での殺人  作者: 土居
1/2

#1 城での会合と食事会

話の都合上江戸時代が舞台ですが、それにしてはおかしな所が多々あると思います。その点については目を瞑って頂けると幸いです。

キリストが生まれて1600年と少し経った頃、日本で言うと徳川家康が幕府を開いて少し経った頃に、太平洋に面した街に立つ小さな城があった。その城の規模を考えると、街は大変に発展していたといってよかった。この街の活力の源は商業である。城の主、松平在金は、地理的な利点に目をつけ、商業を奨励したのだ。


「今日の準備は出来ておるか。」

 ある日の朝、在金は城の使用人に尋ねた。この日は家臣が集まり藩のことについて議論を交わす日である。また、その後には盛大に宴会を開くのが慣例となっている。

「はい、準備は万端でございます。平氏も良い酒が市場にあったと誇らしげでありました。」

「そうか、それは楽しみであるな。そなたも最後にもう一度、確認を怠らぬようにな。」

 活気のある返事の後、使用人は頭を下げ去っていった。今日の集まりの本来の目的は政策の議論であるが、この集まりは定期的に開いているものであり、今回は早急に話し合うべきことは殆どなかった。したがって、在金の関心は宴会で平氏、平溶介の作る料理にあった。


 会議の40分ほど前から、参加者たちが城へと到着しだした。

 最初に現れたのは川上家平である。彼は主に財務を担当しており、在金に最も長く仕えている家臣であることから彼の信頼も厚い人物である。

「おお、家平か。今日は早いな。どうしたんだ?」

「いえ、少し仕事が早く終わっただけですよ。」

「そうか、まだ始まるまで時間があるから、ゆっくりしておいてくれ。時間になれば呼びに行かせる。」

 彼は深々と頭を下げて、城の中を進んで行った。

 次に城を訪れたのは天北楽太郎である。彼はこの国の軍事を取りまとめている人物で、今日集まる重臣たちの中では一番若い。先の戦乱の世では多くの功績をあげたそうだが、時代が変わりその実力が発揮されることは今のところない。また戦いの名残か、腕にはいくつもの傷が残っており、右頬には目立つ傷が存在している。

「在金殿!今日の宴会の料理は何でありますか。」

「それは秘密だ。その前に、会議の方を頑張るがよい。」

 彼を迎え入れた城主はそう言ったが、太平の世が訪れた今となっては、楽太郎が話し合うことなど殆どない。よって彼は宴を楽しむためだけに来ているのであった。

 彼の到着からほどなくして、2人が同時にやってきた。原井早吉と乾和雄である。早吉は司法を、和雄は公共事業や様々な雑務を担っている。彼らは在金と挨拶を交わし、議題について最後の確認をしているようであった。

 最後に現れたのは武田七平である。彼はこの街の商業政策を担当している。つまり、この街の発展において最も重要な人物の一人である。また、最も重要な役職を任されているということは、在金からの信頼が一番厚いことを示している。

「七平か。もう皆集まっておるぞ。部屋はいつものところで行う。私は他の者を呼びに行かせるから、5分後くらいに来てくれ。」

 七平は返事を返すと、まっすぐ会議の部屋へ歩いて行った。


 会議は大きな波乱なく進行した。最後の議題は力が強大化しつつある商人たちへの対策であった。楽太郎が部下から聞いた商人への不平不満を伝え、七平に改善を促したり、家平が商人への税率を上げるという提案をしたりした。それらに対して七平は、

「この国の活力の源は商人たちであります。彼らから多額の税を取ったり、彼らの活動に規制をかければ国は駄目になってしまう。国のことを思えばそれらは出来かねます。」

 と応えた。家平が何か言いかけたとき、在金が口を挟んだ。

「お前の言い分も分かるが、この国を治めているのは我々武士なのだ。武士より商人が強くなることはあってはならない。だから家平たちの願いも少しは聞いてやってくれ。商人たちの主張もあるが、そこを上手くやるのがお前の仕事だろう。」

 と言ってこの場を収めたが、七平は納得のいかない表情を見せた。彼の表情を見て、自分たちの願いの多くが叶わないと悟った二人は、明確に不満を顔に出した。

 皆の間に沈黙が走ったのを見て、在金が口を開いた。

「今日の会議はここまでにしよう。今日出た課題は、それぞれしっかりと形にして後日私のもとへ報告してくれ。」

 在金は空を見てから、

「時間もちょうど良いようだし、飯は今から30分後からにしよう。いつもの部屋で準備しておるから、各々自分で来てくれ。」

 そう言うと彼らは返事をし、互いに話すことなく部屋を出て行った。


 食事の準備が8割方終わったところに和雄がやってきた。とはいえ、使用人たちはまだせわしなく働いていた。既に入室し、入り口から最も遠い席に座っている在金が言う。

「おお、君が最初か。準備ができるまでもう少しかかるがまあよい。好きなところに座れ。」

「では私はこちらに。」

 そう言って和雄は在金の右隣に座った。

「いつもはあやつが最初なんだがのう。やつももうすぐ来る…と話をすれば、」

 そう言って在金は顔を入り口の方へ戻した。目線の先には楽太郎が立っている。

「おや、私が2番目ですかな。さては和雄殿も料理が待ちきれんかったのですな。」

 彼は笑いながら和雄の反対側、つまり在金の左隣に座った。

 そこから少し間をおいて、準備が完了する直前に七平、早吉が続けてやってきた。七平は楽太郎の隣、早吉は和雄の隣にそれぞれ腰を下ろした。

 準備が全て終わったようで、使用人たちは次々と部屋を出て行った。それから少し経ったが、最後の一人は姿を見せない。我慢出来なくなった楽太郎が口を開いた。

「まだ家平殿はこないのですか。もう腹が減って仕方がない、もう食べ始めましょう、在金殿。」

 彼をなだめるように七平が言う。

「私が呼んできましょう。もしかしたら居眠りでもされているのかもしれません。」

 七平が立ち上がろうとしたとき、入り口に人影が現れた。

「おお、もう皆揃っておったか。すまない、待たせたな。早く食べよう。」

 そう言って彼は在金の正面、つまり七平と早吉の隣に座った。

「さて、本日の料理について説明させて頂きます。」

 料理人の溶介が淡々と食事の内容について語っていった。彼の説明が終わると毒味役の若者が入ってきた。彼は全ての料理を一口ずつ口に入れてゆく。

「毒は入っておりません。」

「お主の顔を見るに、今日の料理も美味いようであるな。」

 楽太郎は彼にそう問いかけた。

「確かに美味しゅうございます。」

 彼はそう返すと、溶平は彼に感謝を伝えた。


「では、始めようか。日頃の不満は忘れて、今日は皆で楽しんでくれ。」

 在金がそう言うと、杯に酒が注がれ始めた。それが終わったのを見て彼が言った。

「それでは、乾杯!」

そして皆が酒に口をつけた。

 平和な宴が始まったように見えたが、それはこの一瞬だけのことであった。杯が卓上に落ちる音がした。音の方を向くと、零れた酒が料理にかかってしまっている。目線を上げると、七平の姿が映る。彼は苦しそうに咳き込んでいる。

「どうした七平殿、咽せてしまったのか?」

 そう問いかけたのは和雄である。しかし七平は次の瞬間倒れて横になった。手で首の辺りを押さえ、悶え苦しんでいる。いち早く事態に気付いた家平が叫んだ。

「毒じゃ。毒が盛られておる。」

 在金はすぐに医者を呼びに行かせたのち、七平に駆け寄った。

「しっかりしろ。お前にまだ死なれては困るのだ。」

 そんな彼の言葉も届かないかのように、七平の顔はみるみる青くなり、やがて気を失ってしまった。脈は止まり、ようやく医者が到着する頃には既に手遅れとなっていた。


「七平がなぜ……一体誰がこんなことを……」

 七平の亡骸が運び出された後、在金はそう呟いた。

「我々がなんともなかったということは、やはり杯に毒が塗られていたのでしょうか。」

 早吉が言った。それに対して家平が答えた。

「そうであろうな。毒味の彼も何もなかったようだし、酒には毒が入っておらんかったのだろう。となると犯人は杯に毒を塗れた人物であるな。では……」

 彼の疑うような目線は料理人の溶介に向けられた。

「いえ、私は決してそんなことはしておりません。皿たちは使う前に入念に洗っております。それに私は七平様を殺すような恨みもございません。」

 溶介はそう弁明したが、家平の追求は止まらない。

「口で言うのは簡単だ。しかし、七平を殺せたのはお前しかいないではないか。」

 困り果てた溶介を見て、平吉が言った。

「そうとは限らないと思いますぞ、家平殿。この事件はしっかり捜査をする必要があるように見える。私の所にそういったことが得意な者がおるから、彼に任せるのはどうだろうか。」

 皆はそれに同意した。

「では我々も一旦ここから出ようではないか。部屋の中の物には触らんようにな。」


 それからしばらくして早吉の呼んだ人物がやってきた。そのとき彼らは食べられなくなったご飯の代わりに、とりあえず用意された握り飯を食べていたところであった。

「私、この事件の捜査を担当します、富岡誠二郎と申します。どうか捜査へのご協力、よろしくお願い致します。」

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