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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第二章 その日の難逃れ
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探しもの。


「ねぇ酉。申が組織に入った時に牢に入れられてたっていうのは本当の話なのかしら」


日暮れの終業間際に、酉が資料を借りに情報棟に現れた。貸し出しカウンターに資料を置いた時、卯は耳にしたことをそのまま問う事にした。カウンターの上で、ねことにょんが資料にじゃれついている。


「そうだねぇ。本当の話だよ。……でもまぁ、情報棟にある資料や辰クンに聞けば真偽は分かる筈だけど」


ねことにょんを払いながら酉が付け足した言葉に、些か棘を感じる。『情報棟の長なんだから、知りたい情報は自分で調べろ』と調査の長は暗に言った訳だ。


「誰から聞いたの?」


「……午よ」


指摘は尤もだったので、言い返せなかった。詰まった言葉が、そのまま態度に出てしまう。


「そっかぁ。彼は申クンの事、ずぅっと猜疑してるからねぇ」


しみじみと何かを懐かしむように、酉は相槌を打った。


「今から、時間はあるかな?」


手続きの終わった資料を抱え、酉は卯に訊く。



×



卯が情報棟のセキュリティと戸締り、報告書の確認等を終えるまで、酉はカウンター近くの読書スペースに脚を組んで座り、借りたばかりの資料に目を通していた。にょんがその資料の背表紙を首を傾げるようにして覗き込む。


「閉めるから出なさい」


声をかけると、酉は資料からゆっくりと顔を上げ、


「7階の窓、開いてない?カーテンと棚で隠れてる所だと思うんだけど」


そう聞いた。


「私の話を聞きなさいよ」と言い返しつつ、側にいたねこを指摘された場所に送る。


『空いてたねこ』


ぽん、と戻ったねこが『閉めといたにゃ』そう答えた。


「……ありがとう」


ねこを撫でてお礼を云うと、『とうぜんねこ』と、ねこはドヤ顔で胸を張る。


「オレのお陰だよね」


「…………そうね」


いつのまにか資料を仕舞い込んだ酉が首を傾げ、感謝の言葉を待っていた。それに対して「礼を言うわ」とつっけんどんに返した。



×



終業時間の過ぎた組織本部は灯りが最低限まで落とされ、薄暗い。手っ取り早くロビーを通過するのではなく、最上位幹部のみが使用を許された廊下を通るようで、周囲に他の気配が無かった。


「牢に入っても幹部になれるのね?」


情報棟から目的の場所へ向かう道中で、卯は再び酉に問う。肩に乗ったねこが、眠そうにポケットの方へ移動した。


「そりゃあ、実力を示してくれたからねぇ。有能な人材は使うに限るでしょ」


当たり前の事だよ、と酉は答える。コツ、と二人分の足音が、廊下に響く。


「それに、彼には枷がある」


「……」


少し前に酉が話した、彼の『枷』の話を思い出した。今日みたいに、二人きりの時だった。


「そこに関しては機密……というわけでもないけど、分かりやすく言えば人質なんだけどねぇ」


まあ、あまり効果は無さそうだけど、と小さく溢したところで、


「午クン、君もこの話に付き合ってみるかい?」


そう、後ろを振り返った。釣られて卯も後ろを振り返る。


「流石ですね」


少し離れた場所で、王子のような男が柔らかく笑みを浮かべた。


「足音、消せてなかったよ」


「消してませんでしたからね」


コツ、と午が卯と酉に向かって歩き出した靴音を聞いて、酉の靴音だと思っていた音が、午のものであった事に気が付いた。


「貴方もそれが分かっていて、敢えて自身の足音を消したのでしょう」


「まあね」


そう答えた酉が一歩踏み出した時、足音はしなかった。よく見ると、濃い色の足元の影の中に酉の靴が少し沈んでいた。


「……私を揶揄って遊んでたって訳?」


「そうかもしれないね」


繕わずに酉は答えた。「君、まだ幹部としての自覚や経験が足りてないみたいだし」


「…帰るわ」


くる、と卯が踵を返して歩き出そうとしたが、


「っ!?」


まるで床に接着されたかのように、足が全く動かない。勢い余って転びそうになったのを、酉が支えた。


「帰す訳にはいかないよ。折角捕まえたんだから」


足元に視線を遣ると、酉の足元にあった濃い影が床を伝って伸び、卯の足元に繋がっていた。


「諦めてください、卯さん」


午は慰めるように、そして何処か諦めたように卯に微笑みかける。


「僕達が揃った時点で、彼の思惑は達成されてます」


ほら、と午が掲げるようにして見せた腕には、卯の足元と同じように、濃い影のようなものが巻き付いていた。


「鍵は揃ったし、目的地に急ごうか」


そう酉は告げる。不思議と、嫌な予感はしなかった。



×



一瞬、目眩がしたと思った時には別の場所に着いていた。いつのまにか肩に乗っていたにょんが、卯から降りる。


「予想より遅かったな、酉」


随分と上から低い声がした。


「午クンが警戒して中々来なかったからねぇ」


卯がふと顔を上げると、いつか来た娯楽施設の最奥にある辰の部屋だった。お香の香りが、知らずに緊張していた身体をほぐしてくれる。


「仕方ないでしょう。貴方が僕に声を掛ける時は面倒な案件ばかり持ってくるんですから」


拘束されていた腕を軽く振り動作確認をしながら、午は答えた。卯もそっと足を動かしてみる。問題なく動いた。


「まあ座れ。巳が茶を用意しておるぞ」


ほれ、と辰が指した方をみると、長い卓に巳が人数分のお茶を用意しているところで、


「やぁっと揃いましたね!待ち草臥れてしまいましたよ!」


その席の一つに戌が座って、長い尾を振って待っていた。



×



「実は戌クンもねぇ、少し問題があるんだよ」


巳の淹れたお茶を手に、酉は言う。


「戌が?」


確かに凄く素直で変態的な思考がダダ漏れなのは問題があるかも?と思いながら、お茶に口を付けた。


「おっと?その目線、もしやワタクシの事褒めてます?」


「戌クンにはねぇ、『()』みたいに前職が居たんだ」


身を乗り出した戌を押し留め、言葉を続ける。


「前職?」


私みたいに戌にも前の幹部が居たのね、と思いながら頷いた。


「創設以来、卯さんや戌さんみたいに入れ替わったのは、あとは()と、未さん、申さんですね」


お茶を優雅に飲み、午は補足する。


「ふぅん?」


意外と入れ替わっているようだ。卯の前の卓に居座っていたにょんが、小さく欠伸をした。


「それは?」


酉が、にょんを尖った指で指した。他の幹部達も、にょんの方に軽く視線を向けたが、にょんは気にせず身繕いをしている。


「『にょん』よ」


「へぇ」


興味なさそうに返事をした。興味が無いのなら聞かないで欲しい。


「話は戻るけど。戌クン、すごく素直だろう?」


「そうね」


尻尾を振る戌を、午が押し留める。そういえば、以前子が戌について言っていた。確か、


「……『嘘が吐けない仕様』?」


「そう。……もしかして、先に子クンから聞いてたかな?」


頷き、酉は辰の方を見るかのように僅かに顔を向ける。


「あれは、『戌の罪』だ」


「『虚偽報告を行った』事への罰だ」辰は憮然としたような、呆れたような声で云う。


「『戌の罪』って言っても、ワタクシ全く関係ありませんけれどねー」


完全なとばっちりです、と戌は卓に伏せる。(倒しそうだったお茶を午と巳が持ち上げて回避していた)


「それと、戌クンは仮面を付けていないだろう?」


酉は戌の方を指す。言われてみれば、戌はマズルや眼帯を着けているのを見たことはあるが……初めの会議で仮面着けてなかった?


「あれは借り物のお面ですよ」


(ワタクシ)』の仮面()()()()んです、と戌が不機嫌そうに卯の疑問に答える。気が付くと、茶器が全て片付けられていた。


「前職の戌クンが、()()()()()()()()()()()()んだよ」


『仮面を返していない』とは、どういうことなのか。卯は思考を巡らせてみる。きっと、彼らはそれを答えてくれないだろうから。


「仮面を返してもらう為に、君達が必要でね」


酉は情報棟から借りた資料を、真っさらになった卓に並べる。


仮の面(オレ達)はまだ、()を見つけていない」


真剣味の混ざった声に、卯は顔を上げる。


「だからこそ、情報棟の長の卯クンと探知能力の優れた午クンが揃う必要があるんだ」


タイトルに意味をかけ過ぎると、ぐちゃぐちゃになりますね。(というネタバラシ)


通じにくいかもしれないので自己満足。

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