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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第二章 その日の難逃れ
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月の話。

久々の更新。


後書きの前半、必読。


 仮の面組織本部内東部、『情報棟』にて。


「……――」


ぼんやりと、卯は外を眺めていた。


 組織の外は殆どが石や砂等で構成された灰色と黒色の濃淡しかないモノクロの荒野なので、これと言って面白いものが見えている訳ではない。


「暇、ね」


手元に居る、丸くすべやかなねこをつるりと撫でた。ねこは絵本を読んでいる。今日は情報棟の利用者が少なく、卯は暇を持て余していた。なんとなく、ちら、と暦に目を向けた。


『ひまはきらいねこ?』


ねこは絵本から顔を上げ、首を傾げる。そろそろ魔を避ける月、橘花(きつか)が終わるようだ。そうすると本格的に夏が始まり、暑さ故に組織の外に直接は出られなくなってしまう。そうすると、情報棟の利用者も増えるだろうか。


「いいえ。ただ、()()()()()()()()()()()()()()なのよ」


「思い出せないのが困るのよね」と憂鬱に、溜息を吐いた。ねこは絵本のページを魔法で捲る。


「……あら?」


絵本を読むねこは、自身の手より少し遠い所に居る。でも、手元にも柔らかい触感が。


『にょん』


 にょん、と背筋の伸びた、見覚えのないねこが卯の指に頭を擦り寄せていた。


「私の魔力が増えたから、あなたが居るのかしら?」


 そう問いかければ、然り、とにょんと背の高いねこ……


「あなた、『にょん』ね」


にょんが、頷いた。


『その名前で大丈夫ねこ?』


首を傾げるねこに、にょんはただ


『にょん』


と鳴いただけだった。



×



 昼食休憩の時間が訪れ、卯は持ち場を離れた。にょんとねこが留守番をしてくれるらしい。


「気晴らしにご飯食べて、軽くお散歩でもしましょ」


周囲に誰も居ない事を確認してから小さく伸びをし、情報棟を後にする。


 コツ、コツ、と卯の履いているピンヒールが組織の床を打つ。その音を少し楽しみながら、ケープの裾を翻した。食事処は昼食休憩の時間である為に少し混んでいたが、気にせずに食券を購入して注文を済ませ、空いてる席に座る。


「ご注文の品はこちらで間違いないですか?」


 掛けられた声にふと顔をあげると、儚げに微笑む午の姿があった。両手には食事の乗ったトレイがあり、片方は卯が頼んだもののようだ。午は卯の前へ、丁寧に食事を置く。もう一つのトレイは他の誰かの注文だろうとなんとなく考えていると、


「相席よろしいですか?」


儚い笑顔をそのままに、午が問い掛ける。突然の申し出に卯は目を瞬いた。


「僕も丁度休憩時間で、場所を探していたんです」


午が手元に持っていたもう一つの食事は当人のものだったようだ。……見た目の割には割と食べる(たち)ようだ。卯の食事と比べて、倍くらいはありそうな量だった。


ふと、『組織内ではあまり表に出てこない午に会うのはもしかすると、少し前の妖精騒動以来じゃないかしら』、『相席はどうでも良いけれど、最上位幹部が固まって居ても大丈夫なの』等とそう考えているうちに、


「もう一つ、貴女と色々とお話ししてみたいと思っていたんです」


午は向かい側に着席した。拒否しても、何らかの理由を付けて座ったのかもしれない。



×



「もうすぐ、春彼岸(ヴァルプルギス)じゃないですか。それについて、ご意見をお伺いしたくて」


 手は止めなくて大丈夫です、と午はにこやかに微笑む。卯は遠慮なく食事を続けたまま、頷いた。


 春彼岸は、橘花の末に行われる1回目の死者の祭りだ。正式名称は『迷いし魂を然るべきところへ送り届ける祭』で、向こう側と此方側の境目が曖昧になり死者が此方側にやってくるらしい橘花の末日に行われる。


光る卵を持ったウサギがこの世に迷い込んだ魂を『然るべき場所』へ送り届けた伝承から生まれたらしく、蜂蜜酒や卵、ウサギを象ったパン等を使った料理でお祝いする。


……と組織に入った頃に知った。因みに2回目は秋彼岸(ハロウマス)


「何の相談?」


首を傾げると、


「最上位幹部の皆さんの、好きな食べ物や、食べてみたいものなどを聞いておきたくて」


未さんや戌さんは直ぐに答えてくださるんですけれどね、と午は困ったように答えた。



×



「……」


 持ち場に戻り、卯は少し思考を巡らせていた。食事処で春彼岸の話を少しした後、


「……申さんの話、知ってます?」


 少し声を落として、午が卯に告げた


「彼は組織と契約した際に一度、牢に入れられたらしいですよ。……罪状としては『組織の頭領を()()()事故に巻き込んだ』というものらしいです」


という言葉の意図を。






※ イベントについて

名義上その名前を使っているだけで、現実とは別の祭りです。

同じ部分もありますが、オリジナル要素が混ざっています。

わかりやすくいえば、ここの世界の春彼岸はワルプルギスの夜とイースターを混ぜてます。



×  月(とそれに関連する祭)について。 ×


1 初花(はつか)

初めの月

正月

再び1年を迎えられる事/迎える事を祝う


2 梅花(うめか)

梅の花の月

生誕の祭り

生命の芽吹きを祝う


3 桜花(おうか)

桜の花の月

花の節句

生まれた生命を肉体(現実)に定着させる


4 橘花(きつか)

魔を避ける月

春彼岸(ワルプルギスの夜)

迷いし魂を然るべきところへ送り届ける祭


5 榴花(りゅうか)

魔を払う月

結びの祭り

婚姻などの結び付きを祝う


6 雨花(ういか)

雨の月

水の節句(晦日)

器(肉体)の罪を洗い流す


7 蘭花(らんか)

蘭の咲く月

半正月

半年迎えられた事を祝いこれからの冬に備える


8 月花(げっか)

月が美しい月

死の祭り

死が自身や身内に来ないよう祝う


9 菊花(きっか)

死者の月

月の節句

命を悪いものから守護してもらう


10 槐花(かいか)

魔の月

秋彼岸(ハロウマスの夜)

迫りくる死を避けて魂を然るべきところへ送る祭


11 雪花(せっか)

雪の降る月

子供の祭り

今まで生きられた事を祝う


12 為終(しはつ)

始末の月

雪の節句(晦日)

全ての罪を雪いでもらう


因みに、この世界にも四季はあり

雪花ー初花 冬

梅花ー橘花 春

榴花ー蘭花 夏

月花ー槐花 秋

です。

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