適任
またもや視点が変わります。
今回は申。
久しぶりに、酉から仕事の用事で研究室に呼ばれた。
「一体なんだよ、面倒くせーな」
折角面白そうな玩具を見つけたってのに。捕まえていたそれを適当な保管瓶に放り込んだ。それを手下の小猿共が片付けるのを尻目に仕事部屋から出る。
呼ばれた先に向かう途中で、
「あれれ、申くんだー」
未と合流する。
ぽてぽて歩く様子は起きているのか寝ているのか判断がつかない。起きてるならあまり近寄りたくないんだが。
「なんだよ未。俺は今から酉に呼ばれてるからあとでな」
「あ、ぼくも、酉くんに呼ばれてるんだよー」
おそろいだねぇ、と未は呑気に笑う。……絶対ろくな仕事じゃねーな。
「そういえば申くん、迷わず来れたんだねー」
えらいえらいと頭を撫でる手を振り払った瞬間、がしりと腕を掴まれた。
「えへへ、こうやって会えたのも運命だよねぇ?」
「……」
起きてんじゃねーかよ。みしみしと音を立てる腕にもう帰りたくなってきた。
×
わざわざ俺達を自身の研究室まで呼ぶって事は、他の奴には聞かれたくねー話か。ってか相変わらずコイツの仕事部屋は殺風景で何もねーよな。独房かよ。
「今回は直属の部下を持っていない『未』と『申』が担当って事は何か意味あんのか」
「それなりに」
渡された資料にざっと目を通し酉に訊けば、いつも通りの胡散臭い笑顔を貼り付けて頷く。
コイツの笑顔って少しの間だけなら『好青年の笑み』、程々に付き合いがあれば『嘘っぽい笑み』。かなり長い間の付き合いがあると、『腹黒い笑み』に見えるもんだから不思議だよな。
「他の幹部だと、まず無理なんだよ。大抵顔が割れているから」
ってことは『探しもの』か。人か精霊か妖精、バケモノとか対象が分かんねーからな。ってか仮面着けてる組織なのに面が割れてんのか?……いや、意味合いを考えてみると、『正体がバレてる』…魔力か気配が知られてるってことか。
「まあ、あとは性格の問題かな」
「性格?俺達みたいに生ぬるくて慈悲深い性格が向いてるってか」
そうじゃ無いよ、と酉は困った風に首を傾げながらも俺達がいかに適任なのか説く。
「戌クンは真っ直ぐで午くんは慎重過ぎる」
そーだな。おまけに戌はうるせーし。午は石橋を叩いて壊しかけるタイプだ。だがその程度なら条件が揃えば問題ないだろう。
……つまり、条件を整えられない状況か相手、もしくは時間をかけられないと。
「卯クンには、無理」
そうだな。魔力が月みてーに鬱陶しく煌めいてるしな。単純に新人の仕事じゃないってことだろう。
「だから、顔も割れてない上に、性格的に問題なさそうな君達って訳さ」
「……なぁ、それって「とにかく、多分今が最後のチャンスなんだよ」…そうかよ」
被せるようにいう酉の様子に、少し違和感を覚える。酉が他の幹部に隠し事をしているのはよくある事だから、別に良いけど。
「未は居なくても良いだろ」
「……ふふ、申クン。君、未クンも必要だから、一緒だってわかってる?」
ふと湧いた疑問を口に出すと、酉は不気味に笑う。…なんだ?厄介なことでもやらせようってのか?
未ができる事といえば、夢を介した干渉ぐらいじゃねーのか。そう思って未を見ると、
「ん、なぁに申くん」
とにこにこしていた。さっきからずっと黙ってるがこいつ話しちゃんと聞いてたのか?
「ぐっすり聞いてたよー」
寝てんじゃねーかよ。
「……まあ、酉が無意味な事は滅多にやらねー性格だってのは理解してるが」
何やらせるつもりだろうか。それよりも。
「そろそろ腕離してくれませんかね未さん」
片手で資料見るのめんどくさいんだよー。
「んふふー、運命なんだからしょうがないんだよぉ」
意味わからん。ていうか腕折れそうなんですけど。
「ぼくが紙をめくるから一緒に見ようって言ってるのに。申くんってば恥ずかしがり屋さん」
と未はくすくすと笑った。その仮面ぶち割ってやろうかテメェ。
「オレがいること忘れてない?」
「わすれてねェよ!」
こほんと酉はわざとらしく咳払いする。傍観してないで助けてくれ。
×
「(……ってな事があった訳だが)」
酉から遣わされたガキ二人を見る。
「なんすか?」
寝癖短髪のガキ。コイツは確か、感情が湧きにくい世界の出身だ。感情がなかなか集まらなくて酉が苛ついてたのを覚えてるが、それ以外記憶に残ってねー世界。そこの出身にしては、結構感情豊かに見えるな。
「……?」
ストレート姫カットのガキ。コイツは機械化がかなり進んだ世界出身。要約すれば産業革命を環境に配慮せずに突き進め続けた世界。植物はほぼねーし空気は汚ねーしで最悪な土地だったことしか覚えてねーな。で、コイツはほぼ喋らん。
ってか同じ角度で首傾げんなよ仲良しか。
「仲がいいんだねぇ」
二人の頭を撫でて、にこにこと未は笑う。仲が良いのは結構だが、それで足を引っ張られるのは困る。仲良しごっこする為の場所じゃねーしな。
「おい、ガキ共。俺達の邪魔だけはするなよ」
「分かってるっすよ」
「…!」
寝癖短髪のガキが軽く頷き、ストレート姫カットのガキが意思を表示する為か力強く頷く。上司且つ年上に対する態度じゃねーな。
「(まあ、出撃も今すぐでもねーし、しばらくは世界への潜伏とコイツらの様子見も兼ねて、静かにしておくか)」
と、思ったところで、俺と未が探す対象の情報を殆ど酉どころか、組織から一切渡されていない事と、未の役職に気付く。
……ほんと、今回は特にろくな仕事じゃなさそうだな。
『ぐっすり』と『しっかり』を言い間違えた(らしい)未ちゃん。