8
「初めまして。諸々の制作計画を担当している虚宿です」
ぺこ、と頭を下げたひとは何かの動物みたいな仮面を付けてた。黒い作業着を着て、胸元に着けている石のバッジは赤色で波形。たぶん、畢宿さんが着ていた外套の代わりが、その黒い作業着、なのかも?
「さ、こっち来て」
いうなり、わたしたちは色々な道具で淡々と採寸された。なんだか、物になったような気持ちになった。
そしてなんとなく、畢宿さんの対応はまだ優しくて、丁寧だったんだなって思った。
×
「お疲れ様でした。それでは本日最後になります、住居領の案内です」
と、採寸していた場所から出ると、畢宿さんが現れた。ちょっとだけ、ほっとした。
「これが、あなた達の部屋の番号ですよ」
と、わたしたちの仮面の額に触れた。
すると、なんだか触れられたところがぽぅっと淡く光って、ちょっぴり暖かくなった。そして、なぜだかどの場所に行けばいいのか、分かった。
「住居領入り口の『饕餮門』までは案内できますが、それ以降はご自分の足で、向かって下さい」
入り口でお別れ?
「セキュリティ上の安全の為です」
なるほど。
「中級に上がるまでは、余程のことがない限りは同性、或いは異性でも性の対象外であるもの同士、生理的嫌悪を持たない相手との二人部屋となっています」
二人部屋?……誰と一緒になるのかな。……できれば、同期の少女といっしょがよかったな。と、ちらっと横をみると、同じようにちょっと寂しそうな同期の少女と目があう。すると、
「偶然にも、二人部屋が一つ、空室になっていましたのでそこにお二人は入っていただきます」
良かったですね、と畢宿さんは柔らかく、口元に笑みを浮かべた。おんなじ部屋……!わたしたちは顔を見合わせる。
×
畢宿さんはわたしたちを再び移動ポートまで連れて行ってくれて、『子の移動ポート』から、次は『未の移動ポート』に移動した。
床や壁の紋様は黄色に光ってて、目安の形は正方形だった。
広い空間を出るとすぐ横に、黄色く光る、不思議な柱が4つ並んでた。柱は天井まで真っ直ぐに届いてるみたい。
「この門を潜れば、すぐに目的地まで付きます」
と、クリアファイルに幾つか紙を挟んだものを、わたしたちに手渡した。中身は、今日の復習と、明日の予定が書かれてあった。……学校の宿題みたい。
「夕食を食事処で摂るならば、なるべく戌の刻までには取る事、消灯時間を過ぎたら不要に外へは出ない事は守ってください」
これも、セキュリティや安全のため、なのかな?
「それでは、お疲れ様でした」
説明が終わると、畢宿さんが胸に手を当てて頭を下げる。と、姿が消えちゃった。
×
「まず、何するっすか?」
同期の少女はわたしの方をみる。何しよう?とりあえず、夜ご飯にするにはちょっぴり時間も早い気がするし……お風呂か、図書館に行ってみる?
「そうっすね。今日は行かなかったしちょっと興味あるっす」
移動ポート、使ってみる?
「ちょっぴり怖いっすけど、そうしてみるっす」
わたしたちは、さっき出た、『未の移動ポート』のある空間に入った。
黄色い金属のアコーディオンシャッターがたくさん並んでる。どこを使ったらいいのかな?
「じゃ、ここ使ってみるっす」
と、同期の少女が選んだ場所のレバーに触れようとした時
急に後ろから伸びた黒い手が、そのレバーを先に掴んで上に引き上げた。
びっくりして振り返ると、背の高い一般戦闘員のひとがいつのまにか私たちの後ろに立ってた。黒い長い布を纏ってるけど、色の付いたバッジは付けてない。
ガシャン、と、アコーディオンシャッターが開いて、奥の黄色っぽい色の木の引き戸みたいな扉がすぅっと静かに開いた。
そして、レバーを上げた一般戦闘員がその中へ入っていく。……なんだったの?
「ちょっと!危ないっすよ!」
と、同期の少女はちょっと顔をしかめてそのひとにいう。あれ、まだ移動ポートを起動させてない。
「君達、『卯の移動ポート』に向かうんだろ。さっさと乗りなよ」
と、そのひとはわたしたちにいった。……どういうこと?
「ほら、早く」
と、急かされて、わたしたちはおそるおそる、中に入った。
×
その戦闘員のひとは本に触れずに、そして座標の宣言もせずに、移動ポートを起動させる。……文字の色が見えなかったし、わたしたちは『卯の移動ポート』の座標を知らない。大丈夫、かな……
ガシャン、と引き戸みたいな扉とアコーディオンシャッターが閉まる。そして、
「君達、まだ魔力のコントロールが出来てないんだから二人乗りは危ないよ」
と、その戦闘員のひとがいった。何、いってるの、このひと?と、そのひとの存在がよくわからなくて、ちょっと怖かった。
早く、降りたい。そう思ってたけれど、何故かすぐに扉は開かなくって、数秒経って、チン、とベルが鳴った。
扉が開くとわたしたちは急いでそこから出た。
「うーん、やっぱり不具合起こるねぇ」
と、呟きながら、そのひとはゆっくりとそこから出てくる。
「えっと、どなたか存じませんがありがとうございました!っす!」
と、同期の少女が頭を下げるのに合わせて、私も頭を下げる。そして、その空間から出ようとしたら
「っ?!」
わたしたちの足が床に貼り付いたみたいに、動かなくなった。転びそうになったけれど、身体がふわっと空中で止まって、わたしたちを真っ直ぐに立たせる。
「怖くってもお礼を言えるのは偉いねぇ。ま、怖がらせた方も悪いと思うけどさ」
と、そのひとはクク、と笑いながら動けないわたしたちに近付く。と、
「……なにしてるの、こんなところで」
鈴を転がすような声がかけられた。この声は、
「卯さん!」
同期の少女が声のした方を振り返ると、空間の入り口に、兎のような仮面を付けた、黒いケープを纏った綺麗な女のひと、卯さんが立ってた。
「……怖がらせてどうするのよ、酉」
腕を組んで、卯さんは呆れたように背の高いそのひとに声をかける。……酉さん?