しれっと始まる第二章。
視点が変わります。
因みに前章読んでなくても読めるようにする予定
(予定はあくまでも予定)
「……ああ。そういえば」
と、仮面で目元を隠しているその人はわたしたちの方を見た。ここは『拠点C』と呼ばれる場所。わたしたちは、とある魔法少女の敵対組織の末端。
「君達、『一等構成員』になる気はあるかな?」
「『一等構成員』っすか?」
同期の少女は訝しげにその人を見る。同期の少女は知ってる?と言いたげにわたしを見たので、首を横に振った。
「そう。今とあんまり待遇は変わらないけど、解雇される不安がなくなるよ」
仮面の人は、にこ、と口元に胡散臭い笑みを浮かべる。「待遇変わんないってどういうことすか」と少し口を尖らせて少女は呟いていたけれど、仮面の人は何も言わなかった。……たぶん、ほんとは聞こえてた。
「わたくしは遠慮しますわ。あまり記憶の改変はされたくはないのですけれど、これからやらなければならないことがありますもの」
そう答えたのは、もう一人の同期の少女だった。彼女は艶やかに波打つ金髪に、キリッとした気の強そうな碧眼の魔術師の女の子。わたしたちより1つ年上。気の強そうな、と表現したけど、実際結構気が強い。
「故郷で魔術師になって、君の国を立て直すんだっけ」
魔術師の少女の言葉を受け、仮面の人は確認するように問いかける。
「そうですわよ。わたくしがどうにかしなければ、あの国は駄目になりそうですもの」
ツン、と澄ました顔で魔術師の少女は仮面の人を見上げる。魔術師の少女はお姉さんみたいな感じで少し背が高いけれど、仮面の人はもっと高い。
「まあ、君がそうしたいんならそれで良いよ」
少し残念そうにしながらも、仮面の人はにこりと笑う。
「記憶については、君が『ここでの話を絶対に外でしない』って誓うなら、記憶の改変はしなくても良いけど」
そう言い、仮面の人は少し赤みがかった紙の誓約書と、赤い羽ペンを虚空から生み出し、差し出した。
「……」
魔術師の少女は真剣な顔で誓約書を読み、赤い羽ペンを掴んだ。
「……わたくし、本当のところはあなた達お二人の事、忘れたくありませんでしたの」
誓約書に署名した後、魔術師の少女はわたしたちの方を見てそう溢した。署名し終えた誓約書と羽ペンがするりと魔術師の少女の手元から抜け出し、ふわりと仮面の人の前に戻った。
「オレの事は?」
その言葉に、仮面の人は誓約書とペンを出した時と同じように虚空に消しながら、冗談のような声色で問いかける。
「あなたは嫌でも覚えていそうですから結構ですわ」
眉をひそめて、魔術師の少女は仮面の人に言い放った。
「そっか、残念」
残念そうな声色に、残念に思っているような仕草をしたけれど、彼は全く残念そうではなかった。
「君達は?」
仮面の人は魔術師の少女からわたしたちの方へ顔を向ける。
「もちろん、辞める気はないっすよ。福利厚生バッチリで給料も高いっすから」
同期の少女ははっきりとそう言い切った。わたしも辞める気がない意思を示して、力強く頷く。衣食住と怪我の保証を(給料から利用した分だけ引かれるらしいけれど)きちんとしてくれる仕事場なんて、そう見つかりそうにもない。障害補償もしてくれるんだって。
「じゃあ、君達2人は荷造りしておいてね。組織で再雇用の契約をするから」
仮面の人はわたしたちにそう伝え、薄い端末に何かを入力していた。
薄々思っていたけれど、仮面の人は末端じゃなくて、かなり高い地位の構成員なんだと思う。わたしたちは仮面は外せるけれど、仮面の人の素顔を今まで一回も見たことなかったし。(その基準は違うと思うっすよ?)わたしたち3人で共謀して、(魔術師の少女は「破廉恥ですわ!」って嫌がってたけれど、)お風呂を覗いた時も、仮面の人は顔に仮面を付けたままだった。
「じゃ、お別れパジャマパーティーっすね」
同期の少女が少し寂しそうに言う。この同期の少女は、よくわたしと魔術師の少女の3人でパジャマパーティーを開く。
「そうですわね」
いつもは「夜更かしは美容の大敵ですわ!」「夜のお菓子は太る原因ですわよ!」と言って魔術師の少女が怒るけれど、今回は最後だからか、反対はしないみたい。
パジャマパーティー……お菓子何持って行こうかな?
「……あんまり、夜更かししすぎないようにね。あと歯磨き」
仮面の人は少し呆れたように息を吐き、自室に戻った。
不定期更新。
因みに辞めた後の次の就職先は探してくれない。
悪の組織だし、記憶消してるし。それに、就職のきっかけ云々で記憶を万が一でも戻されて、情報漏洩をされると困るからが主な理由だと思われる。