仮の面はどう足掻いても。
とうとう、私が管理者として指示を出す世界の物語が始まる。
最上位幹部になりたてよりも大分自身に馴染んできた仮面に触れる。いつものシンプルな形状から、衣装に合わせてレースやリボンをたっぷり使った美しい仮面に変化させる。
あの頃よりも大分、知識が増えた。仮の面が何故、魔法少女の粉を集めているのか。組織の本当の目的は何なのか。組織にとっての、最上位幹部ではない、自身の重要性も。
卯は自身の衣装や、世界観に合わせた建物の装飾品に目を滑らせる。それらの装飾品の数々を、申(達)が作っていることも知った。
「…始まるのね」
後ろも振り返らずに、卯は言葉を溢す。殆ど気配もなく後ろに現れていた酉は、面白そうに笑った。
「そうだねぇ。緊張してるかい?」
「そうね。でも頑張るわ」
頑張るしか、ない。
「さて。これで一応、教育係から君に教えることは殆どなくなった訳だけど。最後に、何か聞きたいことはあるかな」
いつものように、酉は問う。
「いくつかあるのだけれど、いいかしら」
「うん、いいよ。答えられる範囲でしか答えられないけど」
それでも構わない、と卯は小さく頷く。
「あなた、魔法少女達に勝ったことはある?」
「設定上は、勝ったことはないよ」
設定が無ければ勝てると言いたげに、酉は答える。
「……初めて会った時の『勝ち逃げ』ってどういうこと?」
卯の2つ目の問いに、よく覚えてたね、と酉は笑う。
「『自分が優勢な状態で身を引く』ってコトだよ」
「今日はこのくらいにしてあげる、って感じで切り上げて拠点に帰るんだ」
「魔法少女を倒さないの?」
3つ目。理由は殆ど分かり切っていたが、敢えてそれを問う。
「オレ達の一番の目的は魔法少女に勝つことじゃなくて、ノルマ達成することだからね。欲張って踏み込み過ぎて失敗しちゃあ目も当てられないし」
本当の理由をわざと隠して答える酉に、卯は相変わらず変なモノだと思うのだった。
「……じゃあ、最後の質問いいかしら」
「いいよ」
「『どうして、私達は魔法少女達に勝てないの?』」
それは、組織に入ってからずっと、心の中にあった疑問。
「強くなる前に、さっさと倒して仕舞えばいいのに」
余裕ぶって魔法少女達を泳がせて、それで最終的には泳がせた魔法少女達に倒されてしまうなんて。
「……それは、出来ない話だなぁ」
「……どうして?」
「だって、」
分かってるくせに、と言いたげに振り返る酉は、
「仮の面はどう足掻いても、」
珍しく、困ったような笑顔を浮かべた。
「魔法少女の敵対組織だからね」