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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
61/86

大団円に近い何か。


 久しぶりに組織の本部に戻った。外を見ると1年程経っていたからか、周囲の景色に大きな変化は見られない。1年近く役職を開けていたのに本部から一切連絡が来なかった事を少し怖く感じていたが、どうなっているのだろうか。


「お疲れ様だねん」


 子は書類を纏めながら、戻った最上位幹部達を労った。組織に戻って早々、外に出掛けていた最上位幹部達は子の元へ仕事の報告に行く。しかし、申と酉は報告書を戌に預け、子に会う事なく、もぞもぞと蠢く袋を持ち何処かへ行ってしまった。


 子も何処か忙しそうな様子だったが、戌曰く、『いつもの事』らしい。そして、その資料の山を見て、巳は申し訳なさそうな様子だった。



×



「よう、酉から高評価をもらったらしいじゃないか。凄いぞ、卯!」


 情報棟(持ち場)に戻るなり、丁度そこに居た寅に褒められた。図書館(情報棟)内では静かにして欲しいのだけれど。寅は松葉杖を突いており少し動きにくそうにしていたが、派手派手しさと煌びやかな雰囲気は少しも損なわれていなかった。寅と共に、丑も図書館に居り、丑のその手には兵法に関連する書物があった。


「……また怪我をしたの?」


「ん、これか?」


 卯の問い掛けに、寅は自身の怪我を見る。


「妖精に食らわされた怪我は治りが遅いからな」


気にする事はないぞ、と明るく寅は答えた。妖精の攻撃魔法には自然治癒を妨害する効果があるらしい。それにしても、治りが遅すぎるのではないだろうか。


「違う。恐らく勘違いしているようだが、これは、()()()()()()()()の怪我だ」


 怪訝な卯の様子を見、何かに気付いたらしい丑は卯達の寅の言葉に捕捉する。


「……この間?」


 妖精の騒ぎは、1年近く前の話ではなかっただろうか。


「チッ……一番大事な事伝え忘れてるじゃないか」


首を傾げる卯を見、同じく何かに気付いたらしい寅が小さく舌打ちをする。『大事な事』?


「時間の流れが変えられるんだ」


短く、丑は云う。


「もう少し説明を入れてやれ……全く」


端的過ぎる丑の言葉に、次は寅が捕捉する。


「管理者は特殊な鍵を持っているのは分かるな?」


卯は小さく頷く。


「その鍵は、対応する世界の時間の流れる速さを早くしたり、遅くしたりできるんだ」


寅は、金色に輝く自身の鍵を卯に見せる。よく見ると、鍵の持ち手となる装飾の箇所に幾つか数字が刻まれていた。その装飾を合わせる事で、その世界で流れる時間の速さを調節できるらしい。


「だから、オマエ達が仕事をしてからまだ半月も経っていないんだ」


だから仕事の滞りについては安心しろ、と寅は明るく言う。酷く、衝撃的な話だった。



×



「主様、戻られたのですか」


 それから数日経ち、卯は巳と共にこの間の仕事で減ってしまった穢れの回復状態を確認する為に亥の所に行く途中で、辰に出会った。


「ああ。『気紛れは程々しろ』と叱られてしまった」


 雑面に隠された顔と、感情の読めない声は相変わらずであったが、巳に会えた事を心の底から喜んでいるような気がした。


「本当に、程々にして頂きたいものです」


少し呆れたように言う巳も、辰が戻った事に安心しているように見えた。



×



「うちの戌がお世話になったみたいだね」


 卯と巳の穢れの量を確認し、問題が無いと判断された。


「戌から聞いたよ。……とてもよく頑張ったね」


優しく、亥は卯の頭を撫でる。その出来事に何だか、心臓の奥がじんわりと暖かくなるような感覚があった。


「……(もっと頑張ろう)」


 と、自然とそんな気持ちが湧き、嬉しくなった。小さい時、そこまで感情を動かされたことがなかった卯には、この組織に入ってから変化していく心の動きが、何だか楽しく感じるのであった。

 組織に入る前、あの場所に居て良かった、と思ったと同時に、何故そこにいたんだっけ、と思考が変化する。


「ねぇ、卯クン」


「ぴゃっ?!」


 相変わらずの突然の声に、跳ね上がった。()()()()()()酉を振り返れば、にこ、と酉は胡散臭い笑みを浮かべる。


「面白いものを見せてあげる」



×



「『妖精の呪い』って知ってる?」


「……妖精の呪いって?」


 移動しながら酉は問う。聞くからによろしくないもの、若しくは全く面白くないもののような気しかしない。


「死ぬ直前の妖精が掛ける、強い呪いのことだよ」


 相変わらず酉は卯に歩幅を合わせて歩いてくれているような気がするが、何だか少し早足だった。卯は少し小走りで酉に付いて行く。


「妖精が()()()()()()()誰かを強く怨んでかける、最後の魔法だ」


 それが、一体何なのだ。何だか見覚えの無い場所に辿り付いた。()()()()()()()()()()裁判所よりも無機質で飾り気のない場所だ。


「ここはオレの研究所(持ち場)。実際は、その一部なんだけどね」


飾り気のないドアを開け、地下へ降りて行く階段の方へ、卯は促される。そして暫く階段を降り


「ここだよ」


と、漸く案内が終わる。辿り付いた場所は、薬品のにおいが充満する薄暗い研究室だった。なんだか、とても嫌な予感がする。


「大丈夫。()()()()()保証されるから」


ぐい、と腕を引っ張られ嫌でも部屋の奥へ引き込まれる。掴まれた腕は痛くは無いが、振り解けそうにない。


「あ? ……なんでコイツを連れてきたんだテメェ」


着いた先には申が居り、珍しく威嚇するような低い声色で酉に言う。


「折角だから、面白いものを見せようとおもって」


捕まえた妖精について聞きたがっていたじゃないか、と酉が笑うと、憐むような表情で申は卯を見る。


「そうそう、『妖精の呪い』が掛かるとね」


 酉は卯を掴む腕を漸くはなし、とある台の前に立つ。「近付くな」と、申は卯を制するが、台の上にはついこの間引き渡されていた妖精が、手足を縫い付けられた状態でいるのが見えた。


()()()()()()()()()()()()()()のが基本だよ」


見てて。そう、愉しそうに酉は騒ぐ妖精の頭を掴んで、台に押さえ付ける。もう片方の手を妖精の体内に人差し指、中指、親指を沈み込ませ、()()を掴んだ。


やめて ……助けて 


妖精の泣き叫ぶ声が聞こえる。


「ふふふ、君が何れ程の魔装者達を生み出したか知らないけど、オレにとってはそんな些細な事どうでもいいんだよねぇ」


「君がこんな目に遭っているのは、()()()()()()()()()()()()()、だよ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ」


やけに酉は『自分の所為で、今の君が不幸になっている』ことを強調しているように見える。


……おまえの、せい、で


「そうだよ」


 妖精が酉を睨み付けた時、酉は目を細めて肯定する。その途端、挿し込んだ指に力を込め何かの割れる、甲高い音が聞こえた。そして、妖精は断末魔を上げ、ぴくりとも動かなくなった。


「……一体、「静かに」


 何と言うものを見せるのだと、講義しようとした途端、申に手で口を抑えられる。


 と、妖精の亡骸から、何か鈍い紫色の(もや)のようなものが現れた。それはゆっくりと酉の方に向かって行く。


「これが、『妖精の呪い』」


手を伸ばし、酉はそれを絡め取った。


「ふふ、コレは穢れじゃないけど、強い怨みの感情だから……負の魔力と上手く混ぜれば強力な穢れになるんだよねぇ」


「…………これを、私に見せた理由は何」


「強い歪みを生み出す呪い(これ)は、妖精が()()()()()()()()()()にこびり付く特徴があるから」


だから、


「妖精に手を出す時には気を付けてね」


そう、酉は言う。


遠回しに、『管理の関係で、うっかり妖精を殺さないように』『殺してしまいそうになったら如何に自分を怨ませないようにするか』を考えろ、と伝えたようだった。



×



「次は、いよいよ卯っちが管理する番だねん」


 気持ちが沈んだままであったが、時は無慈悲に進んでいく。先ずは、管理する世界の設定と環境を知ること。世界の特徴を理解して設定を練ると、魔法少女の粉(キラキラ)は集め易くなるらしい。


 実戦練習が終わった後でも、酉は卯に管理者として知っておいた方が良い事を、幾つか教えてくれた。どうやら、管理者としての実戦が終わるまでは(教育係)から解放されないようだ。だから、今回の管理者としての初仕事にも、酉は付いてくる。


「頑張ってねん」


軽い調子で応援されたが、含まれている思いを考えると、大変に気が重くなってしまった。


連続投稿はこれで一旦停止。


実は


下級戦闘員ー大団円に近い何か。


までの話数は59話。

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