表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
56/86

卯、光落ち枠になりかける。


 主人公の魔法少女を変身させてから、もう何度か交戦を繰り返した。卯と巳は出撃したその夜に酉からの評価をもらう。巳は相変わらずの『乙』で、今日出撃した卯の評価は未だに『丙』だった。


 暇があれば酉や一緒に出ている最上位幹部達に怪物のコントロールの方法を教えて貰い


「大丈夫。想定通り、順調に上手くなってるよ」


と酉から言われているが、そもそも奴のスペックが高過ぎて、自分が上手くなっているのかが良く判らなかった。


 魔法少女達の状態については、()()()()()()()、魔法少女達は強くなっている。そして、回収出来る魔法少女の粉(キラキラ)は、ほぼ予定表通りに増加していた。


「……計画通り過ぎて気持ちが悪いわね」


予定表を仕舞い、卯は出撃の準備を行う。まあ、あれだけ綿密に計画を立てていれば、そう失敗することも無いのだろう。


「酉も計画通りに上手くいかないことってあるのかしら」


窓の外をみると、薄らと月が見えていた。



×



 主人公の魔法少女に、ラヴァージュとキュイジーヌの出撃時に1人づつ魔法少女が誕生し、主人公より先に変身していた要するに追加枠の魔法少女が1人。


「わたしも、みんなの力になりたいの!」


 そして今、目の前でこちらをキッと睨み付ける少女が1人。


「純真な優しさ! みかん!」


 カッとオレンジ色の強い光に包まれ、新しい魔法少女が生まれた。


「チッ……一体、何匹虫が湧けば気が済むのかしらね」


 本心を混ぜつつ言葉を吐き、冷やかに魔法少女達を見下ろす。()()()()()()()、この5人以上は、魔法少女が増える予定はない。魔法少女達が揃ってからが本当の仕事の始まりだと、酉は言っていた。


 魔法少女の敵対組織(私達)の本当の役割は、魔法少女達を上手く成長させる事。彼女達が組織に勝って老いて死ぬまで、その身に染み付いたキラキラが溢れ続ける、浄化の供給源にさせる事なのだから。



×



「ねえ、」


「何よ」


 怪物が浄化されたので、さっさと帰ろうとした時、主人公に声を掛けられた。


「わたしには分かるよ、あなたには優しい心があるってこと」


「…………は?」


突拍子もない言葉に、思わず素で返事してしまった。『ルメナージュ』は悪の組織の一員だというのに、一体何処に目が付いているのだろうか。


「……どういうことかしら」


主人公の言葉を無視する訳にもいかず、『ルメナージュ』は振り返る。


「あなた、小さい子を助けてたでしょ」


「……あんなのは、ただの気紛れよ。折角綺麗にした場所を汚されたく無いじゃない」


こいつ等は一体どこからそれを見ていたのだと、寒気がした。思わず自身を抱いたその行動を、向こう側は葛藤だと勘違いしているようだ。面倒なので、このまま続ける事にした。


「でも、あなたの行動にはきちんと心が篭ってた!」


 確かに、本当は人を助けたのは気紛れでは無い。ただ計画に関係ない少女だったから、邪魔にならない場所に退かせただけだった。しかし、それを引き込むための材料に使われるとは思いもしなかった。それに、悪の組織の幹部でも、思想や思考まで悪だとは思わないで欲しいのだけれど。


「苦しい思いもしないよ?」


主人公が真っ直ぐな瞳で、『私』ではなく、『ルメナージュ』を見つめる。今の『ルメナージュ』が、苦しい思いをしているとでも思っているのだろうか。


「冗談じゃないわ! どうして貴女に同情なんかされなきゃいけないのよ!」


 魔法少女側(お花畑陣営)に勧誘されるなんて、絶対に嫌だ。どうせなら、もう少し現実(真実)を見てから、『私』を見てから、勧誘してほしい。行かないけれど。


「ねぇ、あなたは……なんでそこに居るの?」


「……貴女達に、言う義理はないわ」


 本当に、義理()無い。魔法少女達は、『ルメナージュ』が『アリストクラット』の下に付く理由を問うているのだろうけれど。……実際、『特に意味無く惰性半分、待遇の良さ半分で居る』なんて言えば、確実に引き抜かれる材料にされる。仮の面(ここ)以上に待遇というか、都合の良い場所は無いし、計画外の事が起こり始めて、確実に(管理者)に迷惑をかけている。


「ねえ、いっしょに「……煩瑣いわね。貴女達には関係ないでしょう」


魔法少女の言葉を遮り、踵を返す。これ以上計画を乱されたら、酉に何を言われるか分かったものでは無い。


「貴女達って本当に、不快だわ」


 魔法少女達と妖精に吐き捨てる。()が管理している世界で、自分達なら全て上手くいくと思い込んでいるお目出度い(おめでたい)その頭も、私を自分達の良いように操作しようとする、その思考も。



×



「ほんとにあっちに行っちゃうって思っちゃったよ」


「……随分と、成長したもんだな」


 拠点に帰るなり、未と申に出迎えられた。先程のやり取りをアドリブだと思ってくれたようで、非難する様子は見られなかった。一応。


「……本当に、演技だったのか?」


 自室に戻った後、いつものように巳が卯の所にやってきた。心配そうな巳に、安心するよう卯は答える。


「心配しなくても『仮の面』を抜ける気は今のところ無いわよ。此処以上に福利厚生がしっかりしてる場所ないし」


「確かに、待遇大事ですよねー」


 とても自然に、そして突然、戌が会話に混ざり割り込んでいた。そして、何故かベッドの下の隙間から出る。


「いえいえ、なぁーんにも。やましい事はしておりませんので、お気になさらず」


戌は筋肉質な体付きをしているが、どうやら身体も大変柔らかいようで、するりとベッドの下から這い出る。


「酉殿がお呼びですよ、卯殿」


それなら、今まで通りにドアの向こうからでも良かったのでは。



×



「おめでとう、漸く評価が『乙』のレベルまで上がってくれたねぇ」


 特に、あの即興的な対処(アドリブ)……良かったよ、と酉はいつも通りに一人掛けのソファーに腰掛け、にこりと笑みを浮かべる。酉基準の『乙』だから、大体87点以上になれたらしい。


「……何よ」


 評価を聞き終えたので、卯は帰ろうと酉に背を向けたが、直ぐに振り返った。じっとりと纏わり付く、何か言いた気な視線に、いい加減嫌気が差してきたのだ。


「いいや。 ()に用はないよ」


「あれだけ嫌な視線向けておいて、よくもまあそんな白々しい言葉が出るわね」


拠点に戻ってから酉の姿は見かけなかったが、何故かよくわからない視線を感じていた。評価の為に呼び出され、その視線の持ち主が酉だと気が付いたのだった。


「おやぁ、オレの熱視線を嫌な視線っていうの?」


ぱっと声を明るくして、胡散臭い笑みを酉は貼り付ける。酉は繕わずにあっさりと認めた。


「オレの用事があるのは、『君が組織を出るか否か』或いは、『組織を裏切るか否か』。ただそれだけだよ」


 ソファーから立ち上がり、酉は卯の側までゆっくり歩いて来る。同じように、ゆっくりと圧力を掛けながら。


「同じでしょう」


卯は逃げ出したくなるのを堪え、キッと近付く酉を睨み付ける。同じじゃ無いよ、と卯の目の前で立ち止まった酉は笑みを崩さずに言う。 


「なるべく、離れてくれないことを望むよ」


強要はしない、と暗に言っているようであるが、それと同時に『出ていくなよ』という圧力を感じた。


「……それは、何の為?」


「そりゃあ、『君の為』に、言っているんだよ」


「……本当に?」


「それと、組織、オレの為に()言っているんだよ。折角育てた期待の新人が裏切りだなんて、組織にとって大きな損失だし、オレの首が飛んじゃう案件だし」


何故だかそれらの他にも理由がありそうな気がしたが、


「さあ、もう自室にお帰り」


もう夜遅いからね、と声を発する前に帰るよう促される。それと同時に圧力から解放された。


 彼等もまた、私を操作しようとしているのだろうか。憂鬱に、溜息を吐いた。


イース様は衝撃でしたよ、えぇ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ