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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
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後始末。


「………………」


 卯は困惑していた。


申と共に、酉を回収しにきたのだが。


「……」


着いた先では、妖精達の阿鼻叫喚が周囲を満たしていた。



「つまんないなあ、もっと楽しませてよ」

「もっとやってくれなきゃ、割りに合わないんだよねぇ」

「さぁ、もっと魔法の元(感情)を絞り出して!」



 酉は、実に愉しそうだった。そしてなんだか何時もの胡散臭い様子ではなく、暗くどろどろした様子で、昏い笑みを浮かべていた。



「…………何、やってるの」


思わず卯は言葉を溢した。



「…………………………あれ? …………君達、来てたんだ」



 その瞬間、酉の様子が元に戻った。不気味な先程までの雰囲気が瞬時に無くなり、微塵も感じられなくなってしまった。


「……あー、ごめん。怖がらせちゃったみたいだね」


卯と申に振り返り、気不味そうに酉は言った。怖がってはいない(多分)。ただ、色々とドン引きしただけだ(確定)。


「というか申クン、『こういう時に連れてくる場合は事前に伝えて』って、言ったよね?」


 妖精を痛め付ける(作業の)手を止め、にこりと()()()()()()()()()申を見る。


「あー、そうだったかもな」


全く申し訳なく()()()()()、雑に頭を掻きながら申は謝った。


「あのねぇ」


肩をすくめ、酉は芝居がかった仕草で大仰に溜息を吐く。その申と酉2名のやり取りを見るに、申自身も酉が平気である事を知っていたようだ。……じゃあ、あの時の『大丈夫かよ』とは何の心配をしていたのだろうか。……妖精の頭?


「あ、そうそう。()()、元が取れそうなくらいには感情は引き出せたよ」


酉は大量の感情が(ごちゃ混ぜに)詰められている瓶を指す。『一応』と言うその言葉には不穏なものしか感じられなかった。(恐らく本当はもっと引き出しておかないと気が済まないのかもしれない。)


「……意外と平気そう」


「ん? まぁね。魔法少女の集中砲火(ああいうやつ)、何度も食らってるし」


「……」


つまりあの身代わりみたいな、ヘイトを煽るようなあの発言は、自分は平気だと踏んだ上での行動だった、ということだろうか。


「オレは面倒見は良いからね。新人の君を、オレなりに心配してたんだよ」


じとっとした目付きで卯が見ると、酉はそう答える。変な奴かと思ったけれど意外と良いところもある、かも? と、卯が思った時


「……ってのは嘘で、普通に用事をさっさと終わらせたかっただけだろ」


すぐさま申が口を挟む。


「せいかーい!」


流石申クン、オレの理解が深いねぇ、と申の方を向いて手で指した。胡散臭い笑顔が実に楽しそうである。


「……腹立つ」


本当に心配した気持ちを、責任を感じたこの思いを、返して欲しいと卯は切に願った(帰ってきやしないが)。


「え、何をするんだい? 痛いよ」


「…………なんでもない」


心配を、責任を、感じてしまった、私の気持ちを返して欲しい。そう、卯は、心の、底、から、思い、ながら、酉を、殴っ、た(二度目)!


「すごい殴ってくるね」


そう言いつつ、酉は全く痛がる様子が無い。


「……もしかして……拗ねてたり「拗ねてないわよ」……そっか」


はは、と酉が苦笑いしたところで申が咳払いを挟んだ。


「で、調査(お話)は」


「見ての通り、終わったよ。残りは後始末だけ」


 酉はぐったりとした妖精達を指した(『見ての通り』とは)。


「……こんなの、聞いてないわ」


「ごめんごめん」


卯は軽く笑う酉に、軽く殺気が湧いた(殺せやしないだろうが)。



×



「中々ねぇ、手強かったんだよ」


 用済みの妖精達を袋に詰めつつ、酉は言う。


「……魔法少女が?」


「……こいつが手こずる程の魔法少女って相当やばいやつだろ」


卯の返しに、そんなやつそういる訳がねーだろ、と申は鼻で笑う。


「自分の魔力が、思った以上に相殺されなくってさぁ。ワザと無駄に魔力を消費するのが、とーっても、面倒で」


手加減にも加減が必要なんだよ、と語る。


「おまけに、中途半端に魔法少女の魔力がぶつかるものだから、間違えて体内に入れちゃわないかが気になって気になって。全然、集中できなかったよ」


「……ふーん…」


「向かう前に魔力を無駄に散らして、相殺され易い魔法もかけたのに」


連絡用の端末も破壊されるし、弁償してほしいね、と溢す酉を見、本当に(この男)は、心配するだけ無駄なようだと、卯は悟った。


「どのくらい減ったんだ?」


「うーん……いつもの状態から、やっと魔力の多過ぎる宿星ぐらいまで、減らしたんだ」


何もしてない今の申クンだったら辛勝できるくらいかなぁ、と酉は呟く。


「随分と、魔力を持っているみたいね?」


 卯は嫌味ったらしく冷淡(の、つもり)に酉に問うと、


「あはは、だってオレってどこかの世界で神扱いされてるし」


そう返された。神? と首を傾げる卯に


「『若気の至り』ってやつだから気にしないで」


と酉は言い、


「これいる?」


と、クロークの中から桜色の煌く()()の入った瓶を出した。瓶を開け、手に乗せてよく見てみると、少し温かかった。


「何これ」


「妖精の内臓」


「……気持ち悪いわ」


なんてもの寄越すの、と卯が身を引いた途端、

『もぐにゃ』


「「あ」」


ねこがそれを食べてしまった。


『おいしくなかったねこ』


ぺろりと『ねこ』は口の周りを舐めとった。


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