本当の量産品。
「……ねぇ、」
仮面の幹部は妖精の小さな体を掴み、その柔らかい胴体につぅ、と尖った指先をなぞるように滑らせ
「妖精の臓器を抜き取ったら、どうなると思う?」
愉しそうに、ある一点を指した。妖精の小さな身体の、中心にあたる位置を仮面の幹部は指した。
なんで、契約器官のことを知っているの
「『なんで』って。……昔、色々な妖精を切ってこの目で確かめたから、かなぁ」
なんて言おうか、と仮面の幹部は数秒目を閉じた。
「妖精について……知りたかったものだからねぇ」
色々とね、と仮面の幹部は妖精の胴体を握ったまま話し続ける。
「大丈夫。 だって、何度も試したし」
どうして、平気なの。
「もしかして、『妖精の呪い』の話をしてるのかな」
《》の不気味なものを見るような目も気にせず、愉しそうに笑う。
「『どうして』ねぇ。そもそもオレが『生き物』なのかすら分かってないんだけど。……妖精や精霊達が『生き物』なら、きっとバケモノも『生き物』なんだろうね」
纏う外套の中から仮面の幹部は複数の透明な瓶を取り出した。大きさは意外と小さく、置く度に机とガラスの打つかる硬い音が廃墟に響いた。
「ま、申クンはオレと戌クンよりは随分と生き物寄りだろうし」
申クンは死体だから『生きてた』部類か、と零しつつ、瓶をテーブルの上に並べていく。
なんで、妖精に手を出したのに、
「あれ、見えないの? オレにまとわりついてる妖精の呪いが」
瓶を並べる仮面の幹部は、妖精を見ずに答える。瓶を綺麗に並べた後、個数の確認をしていた。
「まあ、妖精の呪いも『怨み』の感情だからねぇ」
怨み……?
「……そんな御託はどうでも良いでしょ」
瓶の個数を数え終えたらしい仮面の幹部は、妖精の胸を指して言う。そして、その指を《》の胴体に挿しこんだ。
「もう契約器官は要らないよね」
挿し込まれた指は、《》の身体の中心より少し前にある、特殊な臓器に触れる。
まって、それだけは取らないで
「何を言っているんだい? 何方にせよ、何より大事な魔法少女を壊すという大きなヘマを犯したなら、二度と契約なんてさせてもらえないと思うけど」
仮面の幹部はくすくすと笑いながら、それを葡萄を捥ぐように核から千切り、ゆっくりと引き抜く。
そんな、
「大丈夫。これを失ったって『妖精としては』死にやしない」
それは、大量のキラキラを纏った小さな臓器だ。
「これ無しの、新しい世界でも見つけると良い」
胴体から引き摺り出された大事な臓器は薄い桜色をしていて、体液や魔法の残滓で煌めいていた。
「じゃあね。《名も無き契約妖精達》」
その言葉に、頭に掛かったもやのようなものが晴れた、気がした。
周囲を見れば、同じような妖精が複数、居たんだ。
――僕らは、魔法少女を傷付けて、こんなことをやったって、唯一にはなれなかった。
瓶の中に抜き出したばかりの内臓をひとつ詰め、蓋をした。
「さ、さっさと全部済ましちゃおう」
仮面の幹部が指を鳴らした途端、他の妖精達に暗黒色の何かが巻き付いた。
「なに、これ」
「面倒だから一括でヤるだけだよ」
震える妖精達の声に仮面の幹部は軽く答え、それは実にあっさりと契約器官を妖精達から切り離して抜き取った。
×
「因みに、」
抜き取った内臓達が詰まった瓶を翼のようなクロークの中に仕舞い、仮面の幹部は妖精達の方を見る。
「これで終わりとか思わないでよ?」
此処からが愉しいんだから、と笑う。
「オレ達、というよりは『ウチの子クン』ってばさぁ、優しいから」
飄々とした声色でそれは言う。
「『止めを刺せ』とか言わないんだよ、ね」
一歩踏み出すと、妖精達は怯えた表情で仲間達と身を寄せ合うように塊になる。
「だから、」
移動する妖精達をゆっくりとした歩みで追い、仮面の幹部は語りかける。
「逆を返せば、死にさえしなければ何をしても良いって事だ」
仮面の幹部は歩みを止めた。気が付けば、妖精達は角に追い詰められていたようで、妖精達は既に遊ばれているのだと気付く。
団子のように集まった妖精達を見下ろし、
「精精、良い声で鳴いてくれよ?」
仮面の幹部は加虐的な笑みを浮かべた。
少し前に書いていた小説の内容に色々引きずられました。