バケモノと量産品。
やけに時間がかかると思っていたら普段の2倍書いてました。
《》は魔法少女達と別れ、住処に戻った。
『仮の面』の幹部、此処まで持ってきちゃったけどこれからどうする?
《》は考える。
こんなに大きいやつを、国に持って帰る?
こんな不気味なやつなんて、持って帰りたくないよね?
バケモノだから、そこら辺に置いておく訳にもいかないし……
《》は考え、悩んでいた。
「じゃあさ、『細かく分割して研究や実験の素材にしてみる』ってのはどう?」
突如聞こえた見知らぬ声に、《》は思わず振り返
「――なんて、ね」
「ぷぎゅっ!」
る前に、長い足で思い切り踏まれた。
「やぁ。さっきは随分と……好き勝手に色々とやってくれたね」
にこりと貼り付けられた笑顔で、仮面の鳥は踏む足に体重を乗せる。
痛い、痛いよ、
踠いても逃げる事ができない。そもそも、妖精達の摩訶不思議な体型、その可愛らしく短い手足では地面を捉えたとしてもさほど大きな力も出せない。
なんで? 弱ってたんじゃなかったの。
「『死にかけのフリ』……なんて、つまらない役だよね」
仮面の幹部は《》の問いに答えるように、芝居がかった仕草で両腕を広げ肩を竦める。
「あれっぽっちの浄化魔法でオレを浄化出来ると思ってるの?」
困惑する《》を、仮面の幹部は嗤った。あんなに頑張って沢山の浄化技を掛けたのに、全然効いてなかった。
ど、どうしよう
にげなきゃ
「逃亡なんてさせると思ってるの」
パニックになり騒ぎ出す《》を見、仮面の幹部は指を鳴らした。その途端に周囲の空間が暗く歪み、《》は思うように動けなくなる。
「穢れの少ない卯クンならともかく、穢れの塊であるオレを消したいんなら、あと50倍は最低でも必要だよ」
誰かを踏みつけるなんて、やってもいいと思ってるの?
ほかの子にして良い事と悪い事、お勉強しなかったの?
そう、話題を切り替えるように妖精が声をあげれば、
「それはこっちの台詞だよ?」
仮面の幹部は妖精を踏みつけたまま、胡散臭い笑みを更に深くした。
痛い、よ……助けて。
「相手にして良い事と悪い事。きちんと教えられてこなかったのかな?」
魔法少女と契約する妖精のくせに、そう小さく溜息を吐き、泣き出した妖精の上から漸く足を退かす。
「それとも……オレ達が『悪の組織』だから、何をやってもいいって思ってる?」
仮面の幹部は踏んだ妖精を拾い上げ、ぽいと拠点に有ったテーブルの上に放った。開放された妖精は、すぐさま幹部から離れて仮面の幹部を涙目で睨み付ける。
「『悪いやつだから粛清する』なんていうのは、確かに世の常みたいな所はあるよねぇ」
そうでなきゃ魔法少女が一方的に悪の組織を叩ける訳が無いと、仮面の幹部は言う。
「でもさぁ、」
仮面の幹部は問うように首を傾げた。
「オレ達も『意思と目的を持った相手』だってコト、忘れちゃあイケナイよねぇ」
『意思と目的』……?
「そうだよ。オレ達の組織は、明確な意思と目的の基に、活動してるんだから」
戸惑う《》は不思議そうに仮面の幹部を見た。
だって、穢れを持った生き物達は『理性がない』って習ったのに
「それは『野良のバケモノや怪物』だけの話だよ。そもそも、理性がなきゃ面倒極まりない社会生活なんてしないでしょ」
胡散臭い笑みに、嘲笑めいた色を含ませる。
「『知能が無いから何をしても良い』って……それでも君達は本当に正義の味方なのかな?」
なんで、そんなこというの。
ひどいよ!
震えて目に涙を溜めて訴える《》に
「正義の味方って大抵は『〜の為に』とか言って気持ち悪い程の偽善振りかざして、なんでも守ろうとするじゃないか」
そう、仮面の幹部は答えた。
「……まあ、その『守る対象』から初めから外れているのが魔法少女の敵なんだけどさ」
小さく呟いたが、《》には聞こえていなかった。
で、でも、悪いことをしたのはきみの方でしょ
「もしかして、『既に決まった契約に許可無しで横から手を加える事』『他方生物に無闇に手を加える事』が悪い事だと思っていない? ……参ったなぁ」
仮面の幹部は少し考えるように腕を組んだ後、
「あ、そうだ。『リミッター解除』って妖精の国の規約或いは法律で禁止されているんだけど、それは『悪い事』には入らないのかな」
と、《》に問い掛ける。
そ、そうだっけ?
でも魔法少女達は強くなったし!
仕方がなかったんだよ!
「そう言うと思っていたよ」
《》の言葉に、仮面の幹部は興味無さそうに冷たく返した。
「それと、関係ない奴ら巻き込むのはどうかと思うんだよ」
……『関係ない』って、魔法少女達の事?
「……はぁ。もしかして、オレが『魔法少女の為に怒ってる』って思ってる?」
違うの?
巻き込まれてかわいそうってこと?
「ある意味で確かに、魔装者達の事を指したからそうだけど。でもねぇ、『可哀想』とかそんな薄っぺらい感情で言ってる訳じゃないんだよ」
じゃあ、どういうこと?
「『こっちの稼ぎが減るから莫迦な事はするな』って話」
よくわかんない
要領を得ない《》に「やっぱり君達には難しい話だったかな」と仮面の幹部は嫌そうに目を細める。
「魔装者じゃなくて、『魔法少女の粉』の為に言ってるんだよ」
キラキラの、ため?
仮面の幹部は再びにっこりと胡散臭い笑みを貼り付けた。
「《》みたいな無脳な凡俗は、大人しく上の言う事だけ聞いていれば良かったのに」
……無能、な『凡俗』?
「そうすれば、こんな目にも遭わずに済んだ筈だ」
妖精の反応を無視し、仮面の幹部は《》の方を見る。
「まあ、実際のところオレにとっては君達のことなんてどうでも良いから……本当は、てきとうに済ませておこうかと思ってたんだけど、ねぇ」
そう言った後、常に貼り付けていた胡散臭い笑みを止め、低い声で告げた。
「手を出されちゃあ、流石に無視する訳にもいかないんだよ」
それに、と仮面の幹部は続ける。
「本格的に排除をすることになったんだよね」
それって、どういう……こと?
「王様が直々に許可してくれたんだよ? 大変に名誉だよねぇ」
嘘、だ
「オレが妖精に嘘吐いて、どうするのさ」
仮面の幹部は再び笑顔を貼り付けた。
「まあ確かに、大抵の『バケモノ』や怪物、穢れが混ざったもの達はあまり正直者ではないけど」
ほ、ほら、やっぱり嘘なんだ
そう、《》は安堵する。
「オレはねぇ……無益な嘘は吐かない方なんだ」
「人としては気が短いからさ」と、仮面の幹部は目を細めた。