御し易い。
魔道具越しにその様子を見て、不適に笑った。
「――それと同様に、人間を御すのも、容易いことだな」
辰は呟く。
「……どうなさるおつもりですか」
側に控えていた巳が、声を上げる。
「『如何』とは?」
「……薬を使って誑かしたでしょう」
あの組織から溢れた3人のことを、と巳はしらばっくれる辰に眉を顰めて言った。言われても辰はただ笑うだけだ。
「なんだ、そのことか」
ふっと鼻で笑い、辰は答えた。
「別に如何もせぬ」
「……つまり、」
ただやるだけやって、責任も取らずに放置する、と言う事だ。
「儂はただ、『妖精の国周辺で薬を売っていた薬売り』でしかなかった」
そうだろう、と確信めいた声で辰は息を吐いた。
「それを、ああいう風に使ったのは、あの使い方を見つけたのは、彼奴らだ」
「……」
巳は知っている。 そう発見できるように辰自身が彼ら3人を誘導していた事を。
あの『幸せになる水』は、初めから、飲んだ相手に辰の催眠が遠隔でも通るように細工されていた。予め薬品自身に微量の辰の体液を入れ、それを瓶に容れて販売していたのだ。
あの薬品は巳が自身の血を使って調合したもので、辰に『仕事で急遽必要になった』と言われてしまえば、『主人が困っているのならば』と巳は疑わずに頼まれた量を作り出した。
『幸せになる水』は、材料に精霊の血が含まれている。それと幾つかの薬草を混ぜ合わせ、少し魔術的な手を加えて生成されたものだ。
そしてそれは、魔力のある土地では嗜好品として普通に売られているもので、やや高めではあるが恒常的に出回っているものであった。精霊の血液の混ざっているものや質の良いものは嗜好品だけでなく、本当に幸運になれる霊薬となる。
しかし、巳はやけに量が多いと途中で気が付き、さり気なく辰に問いてみれば「其方は知らなくて良い」とはぐらかされてしまい、真実を知ったのはついこの間だった。
それは丁度、最上位幹部達の会議が始まる1日前だった。
「そろそろ引き際なのでは」
心配そうに巳は云う。組織の最上位幹部に知られたら、一体どんな目に合ってしまうのか、考えたくはなかった。
「ふふ、どうせ仮の面最上位幹部ほどの能力が無ければ、異変に気が付けども此方まで辿り着けまいよ」
それに、と辰は続けた。
「既に手遅れだ」