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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
38/86

襲撃。

長い間投稿が開いたのは、ただ単にネタが思い浮かばなかったからです。


ちょいちょい以前の話に、辻褄が合うように文章や設定を追加したり、消したりしてます。


「……(危なかった)」


 突然の攻撃を避けられた事に、卯は内心で溜息を吐いた。避けて転がった拍子に運良く『ねこ』と融合出来ていたようで、身体が元の姿に戻っている。


「……何よ、こんな時に」


 周囲を見上げ、卯は僅かに目を見開いた。いつのまにか複数の魔法少女に囲まれていたのだった。


「次はちゃんと狙って、魔法少女!」


少し虚な表情の魔法少女の後ろで顔色の悪い妖精が(わめ)く。


 頷いた魔法少女がステッキから技を放った。それを卯は片手で()なし、攻撃を防いだところから青白い火花が散る。


「……ふん、私を甘く見ない事ね」


驚く魔法少女達を、卯は睨む。これが最近噂の『リミッターを外した魔法少女』と、その妖精。何だか色々と物凄く酷い有様になっているが、全く気にしていないように見える。


 というか、妖精の国の目の前で襲撃を喰らうとは思いもしなかった。まだ門もすぐ後ろにあるし、なんなら、衛兵の妖精からも確実に見える位置だ。


『ここは妖精の国の外だから安全をほしょうしてくれないにゃん』


気をつけるねこ、と脳内でねこの声が響く。


「そうね。本当に、妖精以外には冷たい国」


『魔法少女も入ってるねこ』というねこの声に「()()ね」と返した、ところの隙を突かれ


「今だよ!」


妖精の声と共に魔法少女が技を放った。咄嗟に防護の魔法を展開できず


「く、」


痛みを覚悟したその時、



 暗黒色の火花と共に黒い鳥が現れ、魔法少女の攻撃から庇った。


「……え、」


突然の出来事に卯は目を瞬かせる。黒い鳥の出処は、自身の肩だ。出てきた余韻のように肩の火花が小さく散って消えた。


 そこは、酉が妖精の国に着く前に触れたところだった。


「……いつに間に」


襲撃される(こうなる)と判っていたのだろうか。


魔力(火花)の色が違う! 他にも敵がいるかもしれないから、気を付けて!」


妖精が叫んだ。



×



 妖精の言葉に気を引き締めたのか、魔法少女達の攻撃が激しくなっていく。


「……ふっ」


卯は魔法少女の技を弾いた。しかし、完全に弾く事が出来ずに、触れた箇所が火傷したかのように赤く(ただ)れる。


 妖精の襲撃からは、まだそこまで時間は経っていなかった。だが、卯はかなり消耗していた。


 元々、卯の穢れはそこまで多くない。おまけに怪物を使わない直接の戦闘はあまり経験が無く、魔法少女達の方は、かなりのブーストをかけた状態である。


「……私には、ハード過ぎるわ」


 卯はげんなりと溜息を吐く。白い石を使って強制撤退をしたくとも、その隙を全く与えてくれない。


 2回も攻撃を肩代わりした黒い鳥は、卯の周囲をよろよろと力無く飛んでいる。恐らくあと1回喰らったら消えてしまうのだろう。


「あともうちょっとだよ、魔法少女!」


妖精の嬉しそうな声が聞こえる。魔法少女達が一斉に武器を構え、魔力を溜めていく。


「……(他の最上位幹部達は、卯……じゃなくて『私』が、こんな状態になっている事に気付いているのかしら)」


 卯は疲労でぼんやりとした頭で考える。多分、気付いていたとしても、きっとそこまで気にされない。回復設備はかなり整っているようだし、随分と合理的思考の組織のようなので、書類(仕事)さえ無事なら、構成員の無事はどうだって良いのかもしれない。


 そう考えると何故だか少しだけ、胸の奥がきゅう、と、締め付けられるように痛んだ。


「……(……ああやっぱり、私は最上位幹部に向いていなかったのね……)」


 『役職』が優先されて『個』を見られないこの組織で『私』だなんて、幾らでも変えの効く存在だ。


 そんなに強くないし、業績だって、きっと並みだった。上からの命令だったから、最上位幹部になったのに。


 今までも、そしてこれからも。誰か分からない上司の命令を、ただ粛々と聞いてるだけでもよかったのに。


 少し、視界が滲んだ。


 集まる光が一段と強くなる。もうすぐ、技が一斉に放たれてしまうだろう。――そして、それを喰らえば私は


「……(死ぬ、わね)」


 同じ魔法少女だったとしても確実にただでは済まない、手加減一切無しの攻撃魔法だ。逃げようにも、もう、移動に使う最低限の魔力も残っていなかった。


「……(ねこの声も、聞こえない)」


 本当に、独りになってしまった。



 魔法少女達の放つ技を避ける気力も無くなり、卯はゆっくりと目を閉じた。



×



「……」


 おかしい。痛みも衝撃も無い。そして、何だか暗いような。


「やあ、卯クン。……無事そうで、良かったよ」


 こんな状況なのに。腹が立つぐらいに呑気な声が聞こえた。顔を上げると、クロークを拡げて魔法少女達の攻撃を庇う、酉と目が合った。多分、目が合った。


「……何処が、そう見えるのよ」


卯は顔を逸らして少し仮面をずらし、潤んだ目元を擦る。少し、手の傷口に染みた。


「…………片付けも、申クンに任せればよかった」


周囲の音が大きく、酉の声が聞こえなかった。


「何か言った?」


「なんでも無いよ。……紙は盗られたり、焼かれたりしてないよね?」


 魔法少女達の技を背に庇いながら、にこりと胡散臭く笑う酉は、卯に仕事の状態を確認する。


「…………私が、そんなヘマするわけないじゃない」


やっぱり仕事が大事よね、と卯は少し寂しくなったが、見ないふりをする。


「それなら良かった、よ」


 魔法少女達の攻撃の一瞬の隙を突き、クロークを一対の翼に変化させた酉は、卯を横向きに抱え魔法少女の包囲網から抜け出した。


「きゃ、……と、飛んでる……?」


「口を閉じて。舌噛むよ」


 要するに、卯の現在の状態は『お姫様抱っこされている状態』である。しかし、卯を抱える酉のスピードはかなり速い上に、妖精と魔法少女達が此方を追って後から付いてくるこの状態は恐怖以外の何物でもない。



×



「コレを飲んで。魔力と体力だけは回復するから」


 包囲網を抜け出し、かなり魔法少女達から距離が開いた処で、酉は卯を地面に下ろして小さな茶色い小瓶を手に差し出した。


「……ん、」


中にはファイト一発出来そうな液体が入っており、飲むとビタミン臭と苦いような、甘いような、酸っぱいような味が口いっぱいに広がった。


「……さて。この状況、どうしようかな」


 呟きつつ、酉は追尾してきた技を弾く。その拍子に、鳥と同じ暗黒色の火花が散った。かなり近い所まで、魔法少女達が迫ってきているようだ。


「……ねえ、この鳥って」


卯は周囲を弱々しく飛ぶ黒い鳥を指す。


「ああ。もしもの事を考えての保険だったんだよ」


酉は魔法少女達から卯が見え難くなる位置に立ち、卯の周囲を飛んでいた黒いそれを、横に差し出した人差し指に停める。


「予定では、妖精の国での御守り兼調査役だったんだけど。……国の中では一切何もなくて、国の外で発動するだなんて思いもしなかったねぇ」


参ったなぁ、と芝居掛かった仕草で肩を竦め、手に停まったそれを握り潰した。握り潰した拍子に、肉や骨が潰れる音や、黒い液体が飛び出したが、酉は気にしていなかった。 


「……ふーん…」


襲撃されると分かった上で放り出されたわけではないと知り、卯は少し安心した。因みに、黒い鳥を握り潰した事は全力で引いた。



×



「オイ、クソ鳥。いきなり――ってうわ何だこの状況」


 追い付いた魔法少女達に再び囲まれ、睨み合いの状況になっていたところで、虚空から申の声がした。一拍遅れて申が顔を出す。


「やっと来たね申クン。良いからさっさと降りてきて」


少し硬い声で、酉は申を促す。


「へいへい」


 一瞬顔を引っ込めた後、開いた空間から飛び降りて申は卯と酉の横に立った。相手が増えた事で、魔法少女達の緊張が更に強まる。


「書類の件が終わったなら、調査も一応終わってるし君達はさっさと帰ろうか」


 魔法少女達の方を見ながら、酉は卯と申に言う。


「……帰れるの」


「まあ。帰ろうと思えば、な」


「無傷で返してくれそうにはないけどな」と、申が飛んできた魔法少女の技を弾くと、深い藍色の火花が散った。


「それに、結構な人数だしなァ」


周囲を見て申は苦笑いを溢す。


 結局この状態から脱出できないじゃない、と、卯がむっと眉を(ひそ)めた時、「あ、そうだ」と、酉が声を上げた。


「君に頼みたい事があるんだよ」


胡散臭い笑みで卯を見下ろし、「邪魔」と、その方向を見ずに飛んできた技を弾く。


「……それ、今じゃないと駄目なの?」


だって、こんなタイミングでそんな事(無駄話)なんてしたら。ちら、と周囲に目を遣ると、目を見開き感情を爆発させそうな妖精達の姿が見えた。


「別に。今じゃ無くてもできる話だよ」


笑みを深めて、何故か楽しそうに酉は言う。


「こんな奴ら、殺し(やっ)ちゃって! 魔法少女!」


 神経を逆撫でされて逆上した妖精が、魔法少女に指示を出した。


「おい、どーすんのこれ」


申も面倒そうに声を上げる。


「大丈夫、大丈夫」


何処か余裕のある酉の返答を他所に、魔法少女達の構えた武器に、エネルギーが溜まっているのが見えた。


「でもね」


 先程の一斉集中攻撃を思い出し青ざめてしまった卯から、酉は一歩ほど距離をとった。


「オレ個人の用事は、まだ済んでいないから」


そして、すっと人差し指を立てた手でくるっと虚空に円を描く。その途端に(くら)(あな)が、円を描いた箇所に開いた。


 そして、


「え、何?」


「ちょっと待て、もしかしてさっき俺に荷物ってぐえ」


卯と申の首根っこを雑に掴み、坑に放り込んだ。


「君は、申クンと一足先に組織に帰っておいてね」


「あなたはどうするの」そう訊こうと、卯が振り向いた瞬間に酉は光に飲まれ、坑が閉じた。


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