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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
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その頃のバケモノ達。


何故か文章量が凄い増えました。


「あのぉ、ワタクシ達は何するんですか?」


 卯が妖精の国に向かった頃、戌は酉に訊いた。元からその場にいた申はともかく、亥の所から突然連行された戌は、これから何をするのか知らされていなかった。


「調査だけど」


クロークの中から幾つか道具を出しながら、酉は簡潔に答える。


「アナタがいるなら勿論調査でしょうよ。どんな調査をするんですか?」


「コレの使用者を特定したくてね」


酉は透明な瓶を申と戌に見せた。


「それは?」


「さっき、丑クンと寅クンが妖精に襲われたみたいで、その時に丑クンが持ってきたやつ」


 申は、受け取った瓶をよく見る。ただの、無地の瓶だ。瓶を傾けると、底にまだほんの僅かにだけ、薄赤い液体が残っていた。


「解析は」


「『解析より先に持ち主見てくれ』って言われたんだ」


申の問いかけに、酉は答える。


「戌クン。におい、辿れるよね?」


酉の言葉に、申は戌に瓶を引き渡した。


「……まあ。それがワタクシを呼んだ理由ですか」


なるほど、と頷きながら戌は瓶のにおいを嗅ぐ。


「……あれ、この匂い」

「液体の匂いじゃなくて、纏わりついてる()()()()()()()()()だよ」


瓶のにおいに何かを感じ取った戌が口を開こうとした瞬間、被せて酉は言う。


「或いは、僅かに()()()()()()()()()()()()()()だ」


「ほえー」


酉からのリクエストに、面倒そうだなーと戌は雑に返事した。


「間抜けな声上げんじゃねーよ」


早くしてくれ、と申は戌を催促する。戌ににおいを特定してもらうのが今回の調査の肝らしい。


「はぁ?! 器用貧乏のクセに、専門家のやることに口出ししないでくれます?」


「あ¨あ¨ん? 嗅覚と暴力しか取り柄が無ェクソ犬の癖に偉そうだな?」


「急いでるから、さっさと分析始めてね」


喧嘩はいつでも出来るでしょ、と酉は申と戌を引き剥がした。



×



「うーんと、まずは『人間のにおいが3つ』。若い男、若い女、かなり若いにおい、ですね」


 瓶を手に取り、そのにおいを嗅いだ戌は言う。


「妖精のにおいがします。ですが、これは頭イカレるんでパス」


「『感情』……嘲笑と優越。ま、策謀して悦に浸っているって事でしょう」


「『物質』……古い木と石、金属のにおい。……拠点は廃墟や古い建物ですかね」


「あとは『環境』……空気がここと同じにおいがするので、恐らくこの世界に拠点を置いてます」


「負のにおいが強いので、()()()北と西寄りです。妖精の国の空気を僅かに感じるので、仮の面(うち)よりも妖精の国に近いですね」


「ですが、寒いにおいがするので、もう少し北寄りです」


戌の言葉を、申は手に持つメモ帳に書き込んでいく。


「この位置って本当に何もねー場所だぞ」


「どうして態々(わざわざ)そんな不便な場所を」とメモをしながら申は呟く。


「あと、『草』です」


「草? 何でだ」


「ワタクシも知りませんよ。ただ、一緒に長い間保存してあったのか、割と強く残ってます」


「種類は?」


「確か、……ええと、アレです。魔力吸着が強いやつ……『渇望の草』です。未殿が『おいしくないんだよね』と泣いていたので覚えました!」


「とんでもねー覚え方すんな」


声真似と共にドヤ、とキメ顔をした戌を申は(はた)いた。


「あとは……新しいにおいや丑殿、寅殿のにおいなので、多分違うと思うんですよね」


こんなもんでしょうか、と戌は酉を見る。


「OK。大体の場所は分かったから早速行こうか。急いだ方が良いだろうし」


と頷き、酉は移動を促す。


「ちょっと待て。……あの周辺で『渇望の草』が生えてる辺りって確か、『虚脱(抜け殻)の集落』があるぞ」


酉と戌を制し、その場所について思い出した申は言う。


「廃墟も幾つかあるし、『渇望の草』も大量に生えていた筈だ」


「そう。じゃあ、先ずはそこを中心に探してみようか」



×



 『虚脱の集落』。そこは、突如として住民が消えた集落だった。

 何故住民が消えたのか判っておらず、現在はただ『渇望の草』が繁茂している土地になっている。


 『渇望の草』は生えているだけで周囲の魔力や感情等を吸い取ってしまう性質がある。

 その為、この土地に踏み込んだものは色々を吸い取られ、集落の名の通り『虚脱』し、そのままこの土地で朽ちてしまう……という噂がある。

 この『渇望の草』の所為で、集落が空っぽになったのだ……という噂も。


 実際のところ、『草』に混ざっている感情はどの種類であれ微量なもので、単体での吸着力はあまり強くはなく、噂はあくまでも噂でしかない。


「確かに、ここら辺で間違いは無さそうですよ」


 すん、と周囲のにおいを嗅ぎながら戌は答える。


「……恐らく、此処です。同じ木材と石材、金属のにおいがしますね」


 戌がにおいを辿って連れた場所は、更に奥まった場所だった。


「ふうん、……誰も居ないな」


廃墟を見上げ、酉は呟いた。目に魔力を通して、透視したようだ。


「逃げられたか?」


魔力を通した双眼鏡を目に当てたまま、申は訊く。


「そうみたい、だねぇ」


「どうします?」


戌は、親指と人差し指の先を合わせて輪の形にし、できた穴を目に当てている。申と戌も、建物内を透視し、「本当に何もねーな」「すっからかんですねー」と何も残っていなさ過ぎて、逆に感嘆の息を吐いた。


「一応、中を見て回ろうか」


酉は、申と戌に提案する。



×



 申と酉、戌は、廃墟内を注意深く見て回った。


「何も残ってねー」


全て見回った後、よくやるよなぁ、と申は溜息を吐く。


「逃げる際にも、風が強いタイミングを狙ったみたいで、においも全く無いですし、逃げた方向も分かりませんよ」


病んでる妖精ぶっ叩いた方が早くないですか? と色々面倒になったらしい戌が酉に訊く。


「逃げられたのは別にいいんだよ。捕まえるのは()()()()()()()()()()何時だってできるし」


それに、と酉は続ける。


「誰なのかは、これで分かる」


酉は、廃墟内で見つけたらしい『焦燥』と『不安』の穢れを採取した小瓶を、申と戌に見せた。


「『焦燥』は動きが単純だから、目的に対して直線的に行動する性質がある。それを常に安心を求める性質の『不安』と混ぜれば、ほぼ確実に感情を生み出した主の元へ向かう」


「はぁ、」「なるほどな」


上手く穢れの性質を利用してんなぁと申と戌は相槌を打った。


「これを怪物にして、それを追えば見つかるはずだ」


「じゃあ、その怪物を作る役は君に頼んだよ」と、穢れの入った小瓶を申に手渡す。


「そんな急に言われてもそんな手早く作れねーぞ「依り代はコレ」……話聞けって」


溜息を吐きながら、申は渡された何かの肉片と小瓶の中身を混ぜ合わせ始める。


「それで、追いかけるのは戌クン」


と、調査の許可証を戌に手渡した。


「え、何でですか」


 調査の要を戌に譲った酉に「いっつも逃げる奴を、嬉々として追ってるじゃないですか」と戌は信じられないものを見たかのように首を傾げた。


「オレには、他にやる事があるんだ。……一寸(ちょっと)()()()()()相手が居てね」


「……まあ分かった」


酉の言葉に微妙な顔で頷いた申に「理解が深くて大変に助かるよ」と頷き、戌の方を見る。


「戌クン。君は追いかける前に一旦組織に戻って、午クンからその瓶の解析データ出してもらって」


「承知しましたよ」


「目に見える証拠が無いと、何とでも言われてしまうからね」


にこ、と酉は胡散臭く笑った。



×



「……ほらよ、出来たぜ」


少しして申は、掌くらいの大きさの黒っぽい塊を戌に渡す。


「小さくないですか?」


「まだ混ざってるからな。解析結果が出る頃には立派な怪物になってる筈だぜ」


「了解です。じゃ、行ってきますねー」


「その瓶を割らないでよ」と注意を促す酉に「はいはーい」と軽く返事をし、戌はゲートをくぐって帰った。


「……で、怪物を作った後の俺は?」


 戌が居なくなった後、申は酉に訊く。


「先ずは、オレと一緒に他の場所で調査の続き。他にも特定出来そうな証拠があるかもしれないからね」


酉は調査で使った道具達の後始末をしながら、申に答えた。


「そして調査が終わったら、組織に戻って子クンの指示に従って」


「へいへい」


それと、と酉が口を開きかけた時、一瞬、動きが止まった。


「……どうした」

「そろそろ卯クンが国を出るから、戦闘……じゃなくて、防御準備をしておいて」


 少し急いだ口調で酉は申に云う。


「ん?」

「最悪、卯クンをよろしく」


酉は申に被せるよう言葉を投げ、荷物を手早く纏め始める。みるみるうちに周囲の片付けが終わっていく。


「あ?」

「まあ、最上位幹部とはいえ、最近なったばかりだから」


纏め終えた周囲の荷物を「これもよろしく」と、申に押し付けた。


「お、おう」

「組織に帰った後は本人の意思を優先させるほうでいいんだけど、」


酉は虚空から書類と羽ペンを出し、急いで何かを書き込んでいく。


「仮に、オレのところに連れてくるときは、連絡よろしくね」


何かを書き込んだ書類も受け取り、申は頷く。


「よくわかんねーけど」

「じゃあ、急いで卯クンのところに行こう」


そう言うなり、酉はクロークの裾を翻した途端に申の視界から消えた。


「えっ、早」


 酉の唐突な行動に置いて行かれた申は、数刻呆然とした後に、我に返った。


「……はァ!? コレ全部俺に持たせんの?」


周囲を見れば、調査に使用した取り扱い注意の機械や道具、薬品等が詰まった大きめの荷物が複数ある。


「まあ、できなくはねーけどよ」


 申は自身のマントに、周囲の荷物を突っ込んだ。



一旦完成したんですけど、こまめに保存しなかった所為で、文章の2割消えてキレそうになりました。


500文字返せよぉ…(自業自得)



×  戌の嗅覚について ×


「ふふん。細かく判るの、不気味でしょう」


「私の性質上、もっと色々分かりますよ」と、にたりと笑った戌に「そういうもんかね」と申は息を吐いた。


「何か問題でも?」


「ただのお前の趣味だろ」


「そうですね! 元々は性質だったんですけど、趣味になりました」

「最悪じゃねーか」


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