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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
36/86

卯、王に会う。


思ったより長くなりました。


 妖精の国は、至る所がキラキラと輝いて見えた。


 ――否。有り余る魔法少女の粉(キラキラ)で、大いに輝かされていた。


 現在は点灯していないが、街灯だと思われる浮かぶ玉に、魔法少女の粉(キラキラ)残滓(ざんし)が見えるのは別に構わない。自分の組織や、他の世界でもそういうものを見かけたことがあるからだ。


 しかし。卯は眩しさに目を細めつつ、そこにある噴水を見遣る。キラキラと光を放ちながら、魔法少女の粉(キラキラ)の混ざった水を噴出しているのである。


 他にも、魔法少女の粉(キラキラ)を塗布していると思われるキラキラ輝く像や、食べ物……は、別にいいか(魔法少女の粉(キラキラ)の混ざった食べ物なら仮の面にもあるらしい)。とにかく、


「……(私達が苦労して集めた粉を……)」


 こんなに、無駄で無意味に消費されているとは思いもしなかった。ねこの方は意外と呑気に、「すっごいキラキラばっかりねこー」と、周囲を楽しんで見ていた。



×



「ぼくが、あなたたちをお城までごあんないします」


 案内役の妖精は、アルパカのように柔らかそうな毛に覆われた、つぶらな瞳の妖精だった。


 案内役の妖精の後に続いて歩きながら、卯は顔も動かして、周囲をぐるりと見回した。無駄な直線や曲線の無い、意外にシンプルな建物が多いように見えた。


「どうぞこちらへ」


 妖精は、丸っこい、かぼちゃの馬車のようなものに卯を案内した。『かぼちゃの馬車のような』とは言ったものの、先に馬は付いていないし車輪も無い。丸いそれは、少しばかり宙に浮いている。


「これは、移動用の魔導機です」


 魔導機。それは電気ではなく、魔術を原動力とした機構のことだ。しかし、この魔導機は魔術ではなく、キラキラを原動力に使っているらしい。


「これで、王さまのお城まで移動いたします」


妖精の解説に頷きながら、卯はかぼちゃに良く似た魔導機を観察する。御伽噺(おとぎばなし)に出てくるようなメルヘンチックな乗り物に自身が乗る事になるとは、と内心で思いながら。


「……」


 どうやら、見たところでは、不自然な怪しい術等はかかっていないようだ。


「だいじょうぶ。なんかあったら、ねこがまもるねこ」


ねこが卯の手をきゅっと握った。


「それもそうね」


ねこの手を握り返すと、卯は妖精の案内に従って、魔導機に乗り込んだ。



×



 すう、と地面の状態に構わず真っ直ぐ進む魔導機は、揺れが無く、一定の速さで進んだ。……ねこが舟を漕ぎ始めた。ぱん、と卯が手を打つと「ね、ねてないにゃん」と、ぷるぷる顔を振る。卯はそれをふん、と鼻を鳴らして見た後、魔導機の窓から外を見た。


 建物の色彩には、基本は自然の色が使われており、所々に差し色のようにパステルカラーの淡い色が入っている(差し色になっているかは実のところ不明)。 


 そして、妖精の国に入る前から目を引く、巨大な、青々と葉を茂らせる樹を見た。きっと、これが『運命の大樹』なのだろう。しかし、かなり大きい樹だ。普通のオフィスビルくらいの周囲と高さがある(何処かで見た、短い間しか戦えない特撮の宇宙人ぐらいだろうか)。


 子供を授かる儀式の為に、こんな大きな樹の上の葉に行くだなんてかなり面倒そうだと卯が思ったところで、木の根本周辺に、まだ『普通の木』と呼べそうな木が複数ある事に気がついた。


 よく目を凝らすと、白い布を纏っている一対の妖精が一つの枝に互いの手を重ねているのが見える。なるほど、流石に大樹の上は遠過ぎる為に若木等で代用しているようだ。手を重ね合う妖精は、とても幸せそうに見えた。



×



 妖精の城は、運命の大樹をくり抜いたり、周辺に付け足したり、と大樹を利用した、というよりは大樹そのものだった。


「「「ようこそ、おこしくださいました!」」」


 城に着くと、複数名の妖精に出迎えられた。そして、


「それでは、この書類、あずからせていただきますじゃ」


と、城仕えの筆頭と思われる、ピシッと服(といっても、ジャケットだけ)を着たふさふさな髭を生やした妖精に、酉に渡された2枚目の書類を取られてしまった(最早、盗られた、と言っても過言ではない)。


 取り出し難い場所に仕舞っていた筈なのに、あっさりと持って行かれた事、追いかけようにも、何故か足が動かずただ遠くなるその姿を見送るしか出来なかった事に、呆然と立ち尽くす事しかできなかった。


「それでは、お城の中をごあんないします」


 案内役の妖精が、そのまま城の内部を案内するようだ。アルパカのようなもふもふした頭が、歩く動作に合わせてふわふわ揺れた。



×



 『運命の大樹』をくり抜かれて作られた城の、内装は派手過ぎず、意外と綺麗だった。……しかし。


「ここは『パーティーをおこなうばしょ』です」


「……ふん」


名称がざっくりし過ぎていた。先ずどのようなパーティを行うのかが分からない。立食パーティならば近くに調理場があるだろうし、ダンスパーティーならば楽器を搬入できるような場所等がある筈だ。

 紹介されたそこは『とにかく妖精の国の全貌が見える広い場所』だ。大きな窓やバルコニー等があり、景色は十分に綺麗だろう。


 他にも、卯達は城の内部を案内してもらった。だが、卯は仮にも悪の組織の一員なので、悪用される心配とかしないのかと妖精達の安全管理体制に不安になったのだった。


「それでは、こちらが『王の間』でございます」


 最後に連れられた場所は、大きな(それでも人間の成人にとっては小さいだろう高さの)両開きの扉の前で、案内役の妖精は足を止めた。妖精はそのまま「ここからはお一人でどうぞ」と、頭を下げる。


「……」


 命を狙われる不安等は無いのだろうか。


 王の間に着くと、卯が持ってきて入り口で取り上げられてしまった書類が玉座の前で浮いていた。玉座に誰かが座っている……とは言っても、王しか座らないだろうから、座っているのはきっと王だ。 


 王が書類を目の前に浮かせ、それに目を通している。


 そして。


「わかりました」


そう、言葉を発したのが聞こえた。



×



「わざわざとおくから、ありがとうございます」


 玉座の上に、ちんまりと小さな毛玉が乗っていた。それは、ただでさえ小さい妖精の中でも、かなり小さい部類に入る大きさだった。


 普通の妖精サイズに合わせているであろう座っている玉座も、頭に乗せている王冠も、大きさが合っていない。――まるで着せられているような、身の丈に合っていない、無理矢理に王になっているような印象を受けた。


 礼の姿勢を取るが、家臣ではないので、(かしず)かなかった。


「おはなしはすでにしっていますので、たんとうちょくにゅうにいいます」


 子供特有の高い声に、少し舌ったらずな拙い言葉をまっすぐに此方に向けるそれは、真摯さを思わせる。


「わたしのくにのものが、あなたのそしきに、たいへんごめいわくをおかけしました」


ごめんなさい、と王は頭を下げた。


「……そのことについては、私ではなく、『仮の面』の統領に直接伝えてください」


卯は酉に言われた事を思い出す。



「最上位幹部はその名の通りに、この組織内で一番上の位に位置する。だから、周囲はそうじゃなくても、王は、君をそういう風に、つまりは上の者として扱う。だから、堂々としていい。そして、不用意に発言してはいけない」


「だけど、君は本当の組織の統領ではないから、王が君に伝える……例えば、感謝の言葉とか、何かの提案とか。そういうのは、『統領に直接お伝えください』って流して」


そんな態度でいいのか。



 卯の発言に、おや、と少し驚いた顔をして王は


「いがいと、ひとすじなわではいきませんね」


そう笑った。ここで『仮の面』()()()()()の『卯』に何か返事を貰う事で、この案件を済ませてしまおうと言う魂胆があったのかもしれない。


「このしょるいのないようは、わたくしも、はあくいたしました。……しかし」


閉じている目が少しだけ開いた。それは、明る()()()空の色をしていた。まるで、内側から光を放っているかのように明るく、強い力を持っているように思えた。


「……やはり、どうしてもわたくしども、……いえ。()()()()にも、どうにもできないものが、あるのです」


卯は微動だにせず、王の言葉を聞く。ねこの震える手を、そっと握った。


 卯達の様子に、再び元の(寝ているような)顔に戻った王は、


「……かわいそうなかれらのことを、よろしくおねがいします」


ぺこり、小さな毛玉が頭を下げた。下げた拍子に王冠がずれたが、王は気にした風でもなかった。



×



「きらぴかになったねこ」


「……そうね」


 妖精の国を出る頃には、キラキラ塗れになっていた。


『ねこ』をぎゅっと抱きしめて、卯は元の姿に戻


「っ、」


卯は咄嗟に飛び退く。元居たところに目を向けると、周囲が大幅に焦げていた。



×  割とどうでもいい設定 ×


建築様式はロマネスクのシンプルさにロココの調度品を合わせた感じ。


妖精はバロックの左右非対称さに美的センスを感じない(妹談)ので、ほぼ左右対称でできている。


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