焦る量産品。
「『仮の面』が、妖精の国に行った!?」
虚な妖精の報告を受け、若い男が素っ頓狂な声を上げた。
「もしかして、今までの色々が妖精の所為だって気付かれたの!?」
顔面蒼白の若い女は落ち着きがなく、うろうろと廃墟の中を歩く。
「そういえば、妖精が『どうしてリミッター解除について知ってるの』とか言ってなかった?」
もしかして、結構色々とばれてるんじゃ、と子供も心に余裕がない様子で爪を噛んだ。
と、
「まあ、気付かれてしまったのはしょうがないよね」
子供の声色が変わった。ような気がした。
「それじゃあさ。次、どうするの」
気のせいだったようだ。いつもの声だ。
「そりゃあ、……やられる前にアイツらを消すしか無いだろ」
子供の問いかけに若い男は答える。
「それが良いわ」
若い女は賛同する。
「妖精をけしかけて」
「脅威を先に排除して、」
「証拠を隠滅して。」
そして、
逃げてしまえば、大丈夫だ。
×
「まだ、仮の面は妖精の国にいるらしい」
虚ろな目の妖精から報告を受けた若い男は、仲間に告げる。
「じゃあ、そこを狙おう」
子供は怯えの混じる声で提案した。
「不安材料はさっさと消したほうがいいよね」
「確かに。じゃあ、魔法少女と契約してる妖精を重点的に使って」
若い女は計画を練り始める。
「妖精と魔法少女が直接手を下せば、俺達が逃げる時間もできるしな」
若い男が逃亡経路について幾つか目途を付けたようだ。
「魔法の残滓とか、においとか、僕たちが居たっていう証拠も色々消さなきゃね」
そう、子供がにおい消しの道具と『草』を取り出した。子供は道具を起動させ、根の付いたままの『草』をゆっくりと大きく振りながら、廃墟内を隈なく歩く。
「何してんだ?」
子供の行動に疑問を持った若い男が問うと、
「この草、周囲の魔力を吸着する性質を持ってるんだよ」
子供は少し得意げに話す。
「複数ある『草』の中で、凄い少量でもしっかり吸着してくれるんだ」
その『草』は自分達の拠点周辺を覆っている植物でもあった。自分達の拠点をこの場所に選んだのは、その草が沢山ある事、妖精の国に近い事等が理由あった。
「へぇ。意外と役立つ知識持ってんだ」
若い女は見直した、と子供をほめる。しかし、子供自身、何処でその知識を得たのかは覚えていなかった。
「おい、さっさと終わらせろ、そろそろ妖精の国から出るらしいぞ」
×
「ちゃんと、仮の面のところに行ったみたいだな」
若い男は妖精や魔法少女の気配を遠くに感じ、安堵の溜息を吐いた。3人は、拠点としていた廃墟から随分と離れたところに来ていた。
大変であったが、移動には一切魔法を使わず、妖精の国が風上側になるようにして移動してきた。あともう少し歩けば、人の多い場所や貿易港などに着くだろう。証拠もすべて消したので、紛れさえすればもう二度と見つかるまい。
「ある程度の薬はもう抜けてるはずなのに、ちょっと揺さぶっただけで言うことを聞いてくれるなんてね」
若い女は妖精ってお人好し、と嗤う。若い女は、まだ薬の余韻が残っている《》に己の犯してしまった罪を自覚させ、罪悪感に苛まれているところを突いた。薬で意識があまり覚醒しきっしていない《》に無理やり色々と(誘導的に)会話し、判断させ、自己催眠状態にさせたらしい。魔法は使っていないし、自ら自身の催眠にかかっている。そのため、自分達は大丈夫だと踏んだ。
「本当に、扱いやすくて助かるなぁ」
そう、子供は云った。