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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
33/86

巻き込まれ体質は主人公特権(多分)。


内容の追加に伴い題名が変わりました。


なんか集めたのがあの人って分かると、ねぇ?

巻き込まれ体質は主人公特権(多分)。


「資料を沢山集めたからと言っても、酉は自身の仕事を全うしただけじゃないの」


 「ワタクシではなく、酉殿の功績です」と戌に言われ、卯は少し口を尖らせて呟く。


「そうだねぇ。オレは責務を全うしただけで別に褒めてもらうためにやってる訳じゃないから」


「感謝は述べなくていいよ」と後ろから聞こえた声に思わず飛び上がって、卯は5歩分ほど距離をとった。卯と同じように驚いた『ねこ』は卯を置いて高い棚の上に登っていってしまった。ぷるぷると震えながらこちらを見下ろすねこを、卯は睨み上げる。裏切り者め……!


「驚かせたつもりは無かったんだけどねぇ」


酉はくすくすと笑いながら、卯が退いた衝撃で倒れる所だった椅子を受け止め立たせた(若干のデジャブを感じる)。


「距離感おかしくないですか」

「君には言われたくないよ」


 不思議そうに首を傾げる戌に酉はピシャリと言い放つ。戌が握っている、卯の手のことを言っているようだ。思わず後退った方向が丁度、戌の居る側だったようで、今回は腕は外れていなかった。……本当にいつまで握っているのだろう。


「で、ここに何の用だい」


 自分で淹れたお茶を飲みつつ亥は訊いた。卯も酉を退かせて席に戻り、出されていたお茶を一口飲む。おいしい紅茶だった(因みに戌は緑茶)。『ねこ』に出されたものは小さな底の深めな皿に、人肌に温められた牛乳で、ミルクティーにしてもおいしそうだ、と卯は思った。


「そうそう、戌クン(コレ)を借りに来たんだよ。亥クン、いいかな」


と、卯の座る椅子の背もたれに腕をかけて寄りかかる酉は、戌を指してにっこりと笑う。バケモノは距離感がおかしいのだろうか(申、酉、戌しか知らないが全員共になんだか距離が近かった印象がある)。


「別に構わないよ。……そもそもアタシが口を挟む事でもないだろうに」


「そうだったねぇ」


「当事者のワタクシは蚊帳の外ですか?!」


 溜息交じりで亥は酉の申し出を承諾する。いまいち最上位幹部同士の関係性がつかめない。聞いたら教えてくれるだろうか。


「そういえば君、今暇?」


 酉は卯の方を見て、にこ、と笑顔で首を傾げた。胡散臭い奴がやっても怖いだけだ(二度目)。


「……」


「ワタクシの発言権はないのですかー?」


少し考え、卯は酉に頷く。特にすることはなかった。会議がどのくらいの長さになるか分からなかったので、卯は丸々一日を休みにしていたのだ。


「丁度良かった。じゃあ卯クン、君も一緒に手伝ってもらおうか」


「……え?」


「おーい、ロリコン」


かなり上機嫌そうに酉に腕を引かれた。……ロリコン?


バケモノ(オレ達)にはできないことなんだ」「いだだだだだあだだだだだd折れる折れます腕が外れる捥げるお前みたいにみんな柔軟じゃないんだよクソがあだだだごめんなさいごめんなさい」


 そういえば、と卯の腕を引いたまま戌の腕を極めつつ、酉は亥に振り返る(器用ですね)。 


「今から丑クンと寅クンが来るよ。妖精の魔法を食らったらしいから、手当は急いだ方がいい」


「痛い、取れる、マジで! 痛い!」



×



「よう遅かったな……あ? 何で卯も居んの?」


 酉が開いたゲートの先で、申が待っていた。着いた場所はかなり遠くに妖精の国の中心にある大樹の天辺が辛うじて見えるような場所だった。


「ちょっと用事が増えちゃってねぇ」


「え、結局行くことになったのか」


酉の返答に心底嫌そうに申は顔を(しか)める。


「……私は何をするの」


ようやく腕が解放された戌を慰めるようにさすりつつ、周囲の様子とを見た後に自身を連れて来た酉を見上げる。


「君には『行ってきて欲しいところ』があるんだよ」


 と、酉はクロークの下から取り出した2枚の紙を卯に手渡す。受け取ったその紙はシワもなく、体温の温かさも感じられない、常温でそこに置いてあったかのような状態だった。


「『妖精の国』。オレ達(バケモノ)は、そこには入れないからさ」


 こんなに寂れた世界から凄く浮いた、あの輝いてる緑のある所だよ、と遠くを指差す。葉っぱの緑色は卯には辛うじて見えるほどだったが、それらが放っているであろう輝きは見えた。


「一応、それは親書とか許可証みたいなものだよ」


 1枚目の葉書(はがき)くらいの大きさの紙を指した。


「国に入る時や何かあった時、何かを聞かれた時とか。取り敢えずその紙を見せれば良いよ」


 酉が卯に手渡した紙は、物凄く万能な紙らしい。


「妖精の国に行った後は?」


 卯は渡された紙を見ながら訊く。薄ら茶色がかった色の、丈夫で上質な紙だ。文字を記すインクは緑味を帯びた黒で、キラキラと光を発している。


「2枚目の紙をその場で最も位の高そうな相手に渡しに行ってくれる?」


「……どういう事?」


「とにかく、王に会ってその紙渡して『分かりました』、『よろしくおねがいします』って言葉を引き出しゃ良いんだよ」


 卯が持つ紙を後ろから覗き込み、面倒そうに申は言った。


「……意味が分からないわ」


「中身を要約しますと、その紙に『アンタんトコの妖精の所為で甚大な被害を受けたんで、ぶっ飛ばす許可寄越せ』って書いてあるんですよ」


首を傾げる卯に、戌が要約した内容を語る。


「それで、その内容を承諾してもらう、要は許可を貰いに行くんです」


「……ますます分からない……」


許可をもらうのなら『分かりました』なのは理解出来る。だが、『ぶっ飛ばしに行く』なのに『よろしくお願いします』とは。……多分、戌の訳が雑なのだろう。


「余計な事は考えなくて良いんだ」


 酉は卯の肩をぽん、と軽く叩いた。


「ただ単に、その紙を王様の所まで持っていけば良いんだよ」


それだけで本当に済むのなら、卯が持っていく必要性は無いような気が。


「『仮の面の最上位幹部が持ってくる』ってのが重要なんだ。おまけに、妖精達は穢れを嫌うから、最上位幹部(オレ達)の中で、一番穢れが少ない君が最適なんだよ」


ついでに言うと、卯以外で自由に動ける幹部はバケモノ(穢れの塊)だけらしい。


「それに、何もしなくても多分、勝手に話が進んで行くし、下手に口を挟まない方がいい」


でも相槌ぐらいは打っといて、と酉は卯に言う。


「……」


ただ巧く言いくるめられているだけのような気がしてきた。


「幸運を祈ってるよ。まあ、『卯』には無用な言葉だと思うけど」


 じゃあ行ってらっしゃい、と酉に押し出された。本当に独りで妖精の国へ行き、王と面会しなければならないようだ。これが、決められた職務以外での、最上位幹部としての初仕事とは荷が重い。


「お土産待ってますね!」


戌は能天気にぶんぶんと手を振る。


「いいか、『分かりました』だけは絶対に言わせろ」


と、申は言っていたが、中身が分からないのにどうやって交渉をすれば良いのだろう。



卯ちゃんが紅茶を飲むタイミングでミルクをがぶ飲みするねこ。



× 紙の内容 ×


妖精の討伐の許可

こちらの司法対応の許可

(代わりに妖精の起こした騒動は咎めない)

妖精の起こした騒動の一部負担

組織内に居る妖精に金輪際干渉しない


など

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