図星だと怒るってばーちゃん言ってた。
今回の寅の出撃理由は『魔法少女達の様子の確認』だった。現在、寅は魔法少女達の前に立ち塞がっており、簡単に浄化できる怪物を生み出し様子を見ようとしていたのだった……のだが。
「なあ、オマエ達。……敵である、このオレが言う事じゃあないが」
出撃した寅は困惑していた。《》の異様な姿に。
「……大丈夫なのか?」
「何のことだ?」
《》は、自身に起こっている異常に気が付いていないようだった。目は淀み覇気がなく『魂が抜けた』ような、正の魔力の塊の筈なのに今にも負の魔力を生み出してしまいそうな、その状態に。
魔法少女達は今のところ、リミッター解除の影響はあまり出ていないのか、そこまで変化は見受けられない(出力は大幅に上がっていたが) 。
「アイツ等の『リミッター解除』とやらをしたんだろう」
後ろで控えている魔法少女達に視線を遣り、《》にその言葉を投げかける。妖精達の反応を見る為に敢えて、『リミッター解除』の単語を使った。
「何故、それを知っている!」
すると、寅の言葉に《》は最も簡単に動揺した。
「やっぱり、やったのか」と亥の予想が的中した事に少し安心したのと同時に、残念に思ってしまった。魔法少女の妖精が禁忌に手を出すなんて、と。
寅は自分大好きな自信家であるが、正々堂々とした戦い方を好む。その為、陰湿な戦い方は自らは(生命の危機を感じない限りは)しないし、相手にもそれを求める。
「それは禁忌だと聞いたんだが」
寅は綺麗にセットした髪が崩れるのも構わずに、頭をガシガシと雑に掻いた。
「リミッター解除は、魔法少女の夢を削る方法なんだろう?」
何故、こんなに妖精がおかしくなってしまったのだろうか。――まあ、元から妖精は思い込みが激しく、会話が通じない事はよくあるのだが。
「魔法少女の敵には関係ない!」
《》は言う。あまり外には知られていない筈の内容なのに『何処からその情報を聞いた』と聞き返さない辺り、どうやらあまり理性的な状態でも無いらしい事が分かる。
「悪の組織に一体何がわかるんだ!」
やいやいと騒ぐように、《》は叫んだ。
「きみたちが勝手に、たくさんの悪いことをするから、ぼくたちや魔法少女たちがたいへんなことになってるんだよ!」
「悪い奴の言葉なんて聞かないもん!」
そういう相手を拒絶するような台詞は魔法少女の敵達が発するもんだろう、と内心で思いながら寅は言い返す。
「……別に、『仮の面』はただ無意味に悪事を働いているだけの組織じゃねぇよ」
他の組織については知らないが。と、小さく付け足した時、ついこの間『好き放題しまくっている、ある組織を調査し、破壊する』という仕事の依頼が来ていた事を思い出した。
確か、妖精の国から依頼された仕事だ。その依頼の内容に通りに、『調査』役の酉と、『破壊』役の寅の管轄で行った。実際のところは寅自身は他に仕事があった為に現場には向かわず、星官達と酉に任せていたのだが(酉は星官等を連れて行かずに、直接その場に向かった)。
……目の前に立ち塞がる《》は、『仮の面』が妖精の国と手を組んでいる事は知らないのだろう。まあ、表立って公表をしていないので仕方のない話である。……そもそも、『妖精の国と組んでる』なんて、公表できるわけもない。
「『仮の面』にも役割があってだな、」
「そんな事言ったって知らないよ!」
『敵の内情なんて知った事じゃない』と、正義側が言った。その言動に、憤りを感じて寅はその端正な顔を僅かに歪める。
「オマエ等の言う『敵対組織』にも、ある程度の事情はあるんだよ」
「嘘だ!」
……聞く耳を持たないようだ。寅はなんだか痛くなってきた頭を押さえながら、溜息混じりに溢す。
「……嘘じゃねぇよ」
そして、なんだか立場が逆転してるな、と少し思考がずれた。感情的に喚く相手を、理性的に諭す。それは魔法少女側に移る奴や、最終局面でよく見るやつだ。
×
「亥の予想は当たっていたか」
嫌な予感がしていたので、寅は予め応援を呼んでおいた。それは、混ぜられた生物的な第六感だったのか、自身の持つ感情故の予知に近い能力だったのかは定かでは無い。しかし、現状を省みると、その予感は割と当たっていたようだ。
「そうだな。……あと、妖精自体の様子が大分おかしいぞ」
駆けつけたのは丑で、寅に話しかけた後にその周囲を見、感情の読み取り辛い銀灰の目を見開く。その、あまりにもやつれた妖精の様子に、寅と同様に驚いたのだった。
「卑怯だぞ、仲間を呼んでいるなんて!」
丑の姿を見て、《》は叫ぶ。
魔法少女側がそれを言うな! と内心叫びたくなったのを我慢し(稀に1人の魔法少女もいるため)、丑の方を向いた。
「殆ど話が通じねぇ」
「そうみたいだな」と丑はそれに少し頷いて、
「『多分、何ものかに洗脳されてるんだと思う』と、酉が言っていた」
魔法少女達の方を真っ直ぐに見据えながら淡々と告げる。
「調査が早いな。どんな方法を使っているか知らないが」
同僚の仕事振りに関心しながら、寅も丑と同じように魔法少女(と妖精)達の方に向き直す。
「……しかし。…………気持ちが悪い」
《》の方をちらと視線を向け、丑は呟く。
「……なんというか、まあ。そうだな」
目を細め、寅も同意をする。
「仮に、酉からの情報が事実だとして……これはどうやって操っているんだろうな。……妖精とか、色々とおかしくないか」
「一体、何の話をしてるんだ?」
眉を顰める丑と寅に、無視するな! と、苛ついた《》が声を挟む。
「悪い奴の癖に!」
「……さっきも言ったが、悪の組織にだって色々事情はあるんだがな」
寅は「いつまでこの問答繰り返すんだ」と面倒そうに応えた。丑の方に視線を向けると丑は連絡用の端末を起動させていて、子に現在の(妖精と魔法少女の)状態を連絡するつもりのようだ。
「うるさい! 悪い奴は、『穢れ』は、排除しなければならないんだ!」
《》は叫ぶ。
「オレは『穢れ』そのものじゃないぞ」
『穢れ』と色々が混ざった者だ。丑と子も同じ。
「申や酉は殆ど『穢れ』だが」
「……話がややこしくなるからオマエは喋るな」
あと戌か、とマイペースに口を挟む丑に、寅は返す。報告を終えたらしく丑は端末を虚空に仕舞い、いつでも戦えるように身構えた。
「このオレが『穢れ』かどうかなんざ、信じなくてもどうでもいいが」
寅は黄金色のその目で、《》を睨みつける。
「大分、めちゃくちゃな事言っているのが分からないのか?」
その時、《》が気色ばんだ。
ほんとにばーちゃんゆってたもん。