ついでで色々聞いてみる。
「……うーん…いっぱい、おはなしして、……ねむく、なっちゃった…よ……」
うつらうつらと眠そうに目を擦った後、直ぐに未はテーブルに伏せ眠ってしまった。穏やかな寝息を立てているので、何か大変な事が起こった訳では無さそうだ。
「彼女にしては、結構お話しした方じゃあないですか?」
「未殿はあんまり申殿以外とは話しませんからねー」と言いながら戌は眠ってしまった未を持ち上げ、近くのベッドに運ぶ。
「多分、頼ってもらえた事が嬉しかったんだろうね」
しみじみと、亥は頷いた。
「ねぇ、さっきあなたは妖精の事を『バケモノの逆みたい』と言っていたけれど、それはどういうこと?」
卯は戌に問う。未に薄い毛布を掛けながら、戌は、んーと思考を巡らせるように小さく息を吐き出し卯達の方へ戻って来る。
「正しくはバケモノの反対は精霊で、妖精の反対なんてのは無いんですけどねー」
よっこらせ、と卯に近い席に座り、戌は卯の手を握ってにたりと笑った。
「ついでに魔法少女や怪物のお話しも致しましょう」
「ある程度はご存知かもしれませんが、おさらいですよ」との戌の言葉に、何故手を握ったのか意味が分からない卯は少し困惑しつつも頷いた。――多分、本当に意味は無い。
×
「まず、バケモノについてなんですけどね」
こほん、と咳払いをして戌は語り出す。
「ワタクシの他には酉殿と申殿しか此処の組織には居ませんね。他の組織でも今のところ、ワタクシは見かけたことはないです。しかし、外には野良のバケモノが結構いますよ」
「ほら、組織の建物を出て直ぐの荒野に、黒い蠢く奴らが居るでしょう?あれが『バケモノ』です」
「穢れとよく似ていますが、一応『意思を持っているか』否かで穢れとバケモノは区別されます。ま、『意思を持っているか』なんて、見ただけじゃあ判りませんがね」
「取り敢えず、『なんかすっごく大きい黒い奴』は怪物でない限りはバケモノであると思っておいて大丈夫です」
「『小さいバケモノはどうなのか』ですか? 小さいバケモノはほぼ穢れのようなものなので違いなどあって無いようなものですよ」
「おっと、話がずれましたかね?」
「ワタクシ達のように知能が高いモノは滅多に生まれません。大抵のバケモノは共食いを繰り返して混ざって雑多になるか、魔法少女や妖精に消されますからね」
「実はワタクシ達は殆ど自身と同種の穢れやバケモノしか喰ってないので、純粋なんですよね。純度が高いと知能も高いのです。ふふふ」
「で、バケモノというのは『核を持った穢れの塊』なのですよ。因みに穢れは『負の魔力と感情が混ざったもの』です」
「バケモノは穢れ、つまり『負の魔力と感情が混ざったものと核』で構成されていますが、妖精は『正の魔力と核のみ』で構成されているそうなので、少し違うのです」
「因みに、負の魔力単体では結束力がないので、負の魔力は塊にすらなりませんよ。強いて言うなら淀みや瘴気みたいな、ぼんやりした塊りとか、まあそんな感じですかねー」
「超高濃度になると液体になるらしいですが、結構よっぽどな量ですよ。まあ、それは本当に例外中の例外なのでともかく」
「そういうのは『やな感じ』って言われる場所にはよくあります。気持ち悪いだけで特に何もしないんですよ、負の魔力は」
「ワタクシが言うのもなんですが、穢れはあまりよろしくないですね。混ざった感情のままに周囲を壊しますし、勝手に動いちゃうんで」
「穢れの対になるもの、つまり『正の魔力と感情が混ざったもの』、というものには決まった名称はありませんが、『プシュケ』とか呼ばれていたことがあるらしいです。プシュケが核と共に纏まると、大抵は精霊の類になります」
「あ、午殿や巳殿は精霊らしいですが、少し違いますよ。午殿は『土着化した精霊』で、巳殿は『神によって生み出された眷属』です」
「……今のは情報漏洩でしたかね……? まあ卯殿もどうせ後々知り得る内容ですし、大丈夫でしょう。多分」
「話は戻りますが、プシュケは場所によっては魂とかアニマとかそういう命に関係するような呼び名になるそうですねー」
「それはともかく、プシュケを人間が纏うと、魔法少女になるのです。男の子だったら魔法少年、性別関係無く両方まとめて魔装者とか呼ぶ場合もありますけどねー」
「結構古い言い方ですが」
「何故『妖精』との契約で魔法少女達がプシュケを纏う事になるのかと言いますと、それの詳細は機密事項なのでワタクシには入力されておりませんが恐らく、魔法少女達の変身アイテムで何かが起こっているのでしょうね」
「そして、魔法少女達とは逆に穢れを人間、或いは感情を生み出す依り代が纏うと、怪物になるんです。ワタクシ達が生み出している奴らの事ですねー」
「ああ、忘れてました。魔法少女の落とす粉についてなんですが」
「あれは正や負の魔力でも、穢れでもプシュケでもない、昇華された感情で出来た良質なエネルギー物質です」
「魔法少女達は、周囲の正負の魔力や感情、穢れやプシュケを取り込んで、または魔法少女自身から溢れる感情や魔力と穢れ等とを打ち消し合わせて、良質なエネルギー物質の粉を落とすんですよー」
「まあ、『仮の面』が回収するのは、修復で余った魔法少女の粉ですがね」
粉は、どちらかと言えば性質的には正方向ですけどね、と戌は亥が淹れてくれたお茶を飲み干し、て勢いよく飲みすぎたのか咳き込み始めたので、卯はその背をさすった。
×
「ありがとうございます、いやあ亥殿の入れてくださったお茶で死ぬのもまあ良い気はしますが、もうちょっと色々見てみたかったので助かりました」
少し長めな感謝の意を表した戌は、再び卯の手を握って今度はぶんぶんと激しく縦に振った(ただの握手)。
「アンタは呼吸が出来なくても生きて行けるだろうが」
亥は呆れたように少し溜息まじりに呟く。
「いえいえ、ワタクシは呼吸で、正しくは呼吸の模倣みたいなものですが、それで穢れを取り込んでおりますので、必須なのですよ」
「ワタクシを造る穢れは、消費されやすいんですけど簡単に手に入りますし、周囲によく散っていますからねー」そう戌は答えた。
「ああ、因みに延々長々とワタクシが語った内容の殆どは酉殿が収集した調査結果の資料なので、感謝の意ならば酉殿に伝えた方がよろしいかと。ワタクシは資料の内容を『報告』したまでです」
「ふーん」
詳しく教えてくれた戌に感謝を述べようとしたところで、戌は、にまっと笑って卯に言った。
× 要約 ×
キラキラ→昇華された感情エネルギー
穢れ →感情+負の魔力
プシュケ→感情+正の魔力
淀み等 →負の魔力の塊
妖精 →正の魔力の塊
バケモノ→穢れの塊
精霊 →プシュケの塊
怪物 →人間+穢れ、依り代+穢れ
魔法少女→人間+プシュケ
魔法少女→キラキラを生み出す
プシュケ(名称は各々で変わる。魂みたいなもの)
負の魔力は感情がなければ固まれない
→電子と陽子の大きさ等が違うように、魔力の粒子的サイズが違う