妖精、って何。その2
しのは我慢強くないので、(一応)書き終えた小説を書き終えたらすぐさま投稿してしまいます。
なので、既に投稿されていても、ミスや足りないところを書き直したり書き足したりして、(少し)内容が変わっている可能性があるので、(仮に完結したら)読み直してみてください。
「じゃ、頼んだぜ」
未を預けると、申は何処かへ直接行くらしく、人がひとり通れる程の大きな暗い穴を開き、くぐっていった。
居なくなった空間に向けて「申くん…」と未は実に寂しそうな声で申を呼んだが、申は戻ってこない。
「申くんってやさしいけど、いじわるなんだよね」
テーブルに突っ伏しながら、拗ねる未は呟いた。
「はーん、ツンデレってやつですか」
けっ、と唾を吐きながら戌は相槌を打つ。……そういうものなのだろうか。戌はどうも酉や申には対応が厳しいらしい。
「ネタにはなりますけど申殿はお呼びじゃねーんですよ」
「つんでれ……?」
未は不思議そうに首を捻ったが、まあいっか、と考えるのを止めた(悪口でなければ何でもいいらしい)。
×
「それで、何か話してくれるの?」
卯は未に問い掛ける。未も妖精らしいので、聞いたら何か、妖精についての新しい情報を教えてくれるかもしれない、と思ったからだ。
「えーっと、妖精のこと? だっけ?」
テーブルから顔を上げ、未は首を傾げる。卯がそれに頷くと、奥で作業をしていたらしい亥が人数分のお茶を持って戻ってきた。
「アタシも、聞いてもいいかい? アタシが知らなかった事も色々知られそうだしね」
「うん、いいよ。たくさんお話ししても、もうだれも怒らないもんね」
亥の問いかけに未は快く返事した。
「じゃあ、早速だけど」
卯は切り出す。
「あなたの知っている妖精の情報って何?」
「大量生産の妖精について、まずお願いしてもよろしいですか?」
ざっくりした卯の質問を捕捉するように、戌も問い掛け、「知っていればで良いんですけどね」と未を促す。
「えっと、ぼくがあそこをでるまでのことしか答えられないんだけど、」
ごめんね、と前置きを入れて未は語り出す。
「『いっぱいつくられる妖精』についてなんだけど、たしか『契約ができる妖精をたくさんつくりたい』ってことで研究がはじまったんだ」
×
大量生産の妖精は、元々は使い潰しても文句を言われない兵士としての運用を目的としていた。
しかし、魔法少女の粉のエネルギー効率の良さが発見されてからは意図的に『契約器官』を持った妖精を作り出し、それらを契約妖精として育て上げることにした。
『契約器官』とは契約妖精のみが持つ、魔法少女と契約で必要な臓器だ。契約器官は妖精達の核の直ぐ前に有り、核と太い管で繋がっている。
契約器官の大きさが魔法少女の基礎的な魔力量、契約器官の部屋の数が契約できる魔法少女の人数となっている。因みに限界数は、未の知る限りでは7名くらい、らしい。
意図的に作るにしても、契約器官を持つ妖精の発生率はかなり低いらしく、大量生産型でも、大樹産型でも、契約器官持ちだと判ると、契約妖精を育成する特別な機関に通う事になる。また、その妖精に家族がいる場合は国から補助金(の、ようなもの)が送られ、生涯不安なく暮らせるとのこと。
「いちおう、ぼくも契約器官を持っているみたいなんだけど、使ったことはないかな」
未は思い出すように頬の辺りに手を当て、うーんと呻く。
「学校には行ったけど、そういうおべんきょうをぼくはできなかったし、むりに使うと、傷んじゃうんだって。本に書いてあったんだ」
未は契約器官を持っているらしいが、使い方は知らないらしい。未の語る内容に相槌を打ち、卯は少し気になった事を亥に問う。
「あなたは、契約器官は持ってないの?」
その問い掛けに、亥は静かに首を振った。
「アタシは……契約器官は持っていない。だけど、頭は良かったからそれとは別の機関には行ったね」
妖精の国の学校は、複数の種類があるらしい。その話も後で聞こう(忘れていなければの話だが)。
妖精が宿らなかった『運命の大樹』の実と妖精が生まれたあとに残る実、大樹の葉を利用して生み出される大量生産型の妖精は、契約器官を持つものを契約妖精育成機関へ、持たなかった妖精を兵士育成機関へと送られ、妖精の国に貢献するように教育される。
因みに大量生産型の妖精の核は、主に葉を固めたものでできており、自然発生型や大樹生まれの妖精と違い、自然死しても何も残らない。
こういった生まれ方や死に方の違いによって、実から生まれた妖精を『種妖精』、大量生産型の妖精を『葉妖精』と呼ぶものもいる。あまり良い意味では使われず、相手を貶す意味でよく使われる。生まれ方の違いで妖精達は互いにいがみ合っているらしい。
×
「……なんだか、アタシが居た時よりも酷くなってるみたいだね」
苦々しい声色で、亥は呟いた。
「それほど『同種への仲間意識』が高いのならば、僅かでも違う、『個性の強い同種』が生まれれば、排除活動が盛んになりそうですねー」
「……そうだね」
能天気な声色の戌の言葉に、静かに未は同意した。
「『亥が居た時よりも』って事は、その前から妖精の間では生まれとかで何か諍いがあったの?」
そう亥に問い掛けると、
「そうさね……さっきアタシが言った、『機関』の話も絡んでくるんだが」
「全部話すと長くなりそうだから、大まかな端折った内容になるけど、それでも良いかい?」と、亥は卯の方を見る。「教えてくれるなら」と卯が頷いたのを確認し、亥は
「じゃあ簡単に、」
と、妖精の社会について話す。
×
「要は、妖精は階級社会になっていて、大体『政治を行う妖精』、『国を守る妖精』、『祭礼を取り仕切る妖精』、あとは『契約妖精』と『物を生み出す妖精』に分かれている」
「まあ、人間達の社会とそう変わらないが」
「その中で、為政者と聖職者、契約妖精の地位が最上位にあって、その下に防衛者、最下層に生産者がいる」
「その分け方は親妖精の身分ではなく、『生まれた瞬間から持つ素質』で分けられる。……妖精は血筋なんて無いからね」
「その『素質』の見分け方は、運命の大樹の花の蕾を持たせ、その蕾が『咲いた花の形』で決まる」
「何故か、どの場所の蕾を持たせても特定の形の花しか咲かないから、『間違いの無い分け方』らしいが……」
「それで。……後はなんとなくでわかるだろう。その分類毎に妖精達は専用の機関に入れられる。そして、その中でまた、『上級』『中級』『下級』で分けられ、上の階級の妖精が下の階級の妖精に余計な行動を起こすと言う訳だ」
「為政者や聖職者、契約妖精の『下級』は、その下の防衛者に、防衛者の『下級』は更にその下の生産者にそれを行う」
「……そして、それの中で更に『大樹生まれ』か『工場生まれ』かで差別が起こる。だから、『更に酷い事になっている』と言う訳さ」