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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
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妖精、って何。


亥さんの居る場所のイメージは、学校の保健室。


「妖精っていう存在のことじゃなくて、妖精の生態について訊きたいのよ。あと色々」


 卯は戌に言う。会議室から出ると、入った時とは違う座標に着いた。何処で会議しているのかが分からないようになっている為、らしい。


 出た場所は戌亥の方向だったようだ。消毒液や病人の放つ、独特なにおいが鼻腔を(みた)す。戌亥の方向は全体的に医療機関になっていて、最先端の医療機器が揃っている。様々な世界や侵略地等からそういうものを掻き集めているのだとか。


「そういうのってアナタの持ち場(情報棟)で調べればいいじゃないですか」


 戌は卯の方を見たまま歩き出す。


「探したけれど、無かったのよ」


「なるほど?」


『戌はドジっ娘』だと(子から)聞いていたので、壁や誰かにぶつかったり、転んでしまったりしないか心配したが、今のところそういうことは起こっていない。


「では何故ワタクシめに?」


「丁度話しかけてきたから、よ」


「なるほど」


卯の言葉を飾らない返答に、合点が行った、と戌は深く頷く。


「しかし、ワタクシよりもそういう話に向いている方がいらっしゃいますよ」


戌はニマッと笑い、卯の腕を引く。


「亥殿のところまで行きましょう!」


当事者(妖精)に直接聞いたほうが早い、ということらしい。

 因みに手を引っ張って歩く途中で、突然戌は転んだ。丁度、ワックスを塗ったばかりの床を踏んでしまったようだ。

 戌が掴んでいた卯の腕は偶然にも、戌の転倒に巻き込まれる前にその掴む手から抜け、戌は一人で床に顔面を強打した。



×



「なんだアンタ、アタシに用事があったのかい?」


 猪の被り物をしっかりと被っている亥は、戌の連れた卯を見るなりそう言った。亥の居た場所は医療区画の一階にある、診療所のような場所だった。亥は自身の作業机の所におり、何か紙の束を読んでいたところだったようだ。


 卯は初めて医療区画の一回に来た為に、興味深く周囲を見回す。卯は何故だか昔から、怪我や病気等をした事が無く、医療等には無縁の生活をしていた。

 この場所には複数の書類と扱いの容易(たやす)い薬が並んだ棚が複数と、カーテンの仕切りに囲まれているベッド(休息用と思われる)が3つ置かれていた。少し空いているスペースには簡素なテーブルが1つに椅子が4つ置かれている。


「妖精について詳しく知りたいようでしたので、ワタクシが連れて参りました!」


戌が挙手し褒めて褒めて、と亥にアピールをする。


「はいはい。偉いね」


亥は溜息を吐きながら、雑に言葉だけで戌を褒めた。


「ヤッター!」


おざなり過ぎる。しかし、戌はそれで良いらしい。髪と同じ色の少し長い尾がぶんぶん振れている。本当に嬉しいようだ。


「で、妖精についてだったね?」


騒ぐ戌を放置して、亥は卯に席を勧めて向き直す。



×



「まず、妖精ってのはね、大まかにいうと『正方向の魔力』と、それを安定させる『核』ってもので出来てるんだ」


 その言葉に、戌は「ほへー、バケモノの逆みたいですねー」と洩らしていたので、バケモノについて後で訊こうと卯は決心した (バケモノとは何だろうか)。



×



 妖精は基本的に正の魔力と核のみで構成されており、()()()()()()、妖精の国の中心にある『運命の大樹』の実から生まれてくる。


 『運命の大樹』は世界中の正の魔力を集めそれを実に凝縮する性質があり(恐らく生物濃縮)、子供の欲しい妖精達は実が()りそうな枝に夫婦自身の魔力を注いで、懐妊の儀式を行う。そして、その枝から生まれた実の妖精を、自身の子供として育てる風習がある。


 稀に、妖精の国の外にある正の魔力の溜まった所から妖精が生まれてくることもあり、自然発生の妖精の核は、()()入り込んだ石や、物でできており、そういう自然発生型の妖精は魔力の質や性質が良い為に“王族”として大変に優遇されて育てられる。


 亥がまだ妖精の国に居たその時の話によると、妖精の国が管理している魔力だまりは5つほどあったらしい。その中から()()生まれた質の良い魔力を持つ妖精を国内に迎え入れ、複数居た場合は生まれた順に継承位を与える。


 因みに、大樹から生まれる妖精は大樹の実の種を核としており、自然死するとその身体から大樹の芽が出る。その為、大樹生まれの妖精達(の遺体)で出来た森が国の端に有る。



×



「あと、アタシがあの国を出る頃に『大量生産型の妖精を作る』って構想もあったね。妖精が宿らなかった実や妖精が生まれた後の実の欠片、大樹の葉を利用するって話だったけど」


 妖精の国を出たのは随分と昔だから今どうなっているかは分からないね、と亥は言った。



×



「アナタの欲しい情報は得られましたか」


「うーん……どうなのかしら」


 一通り亥から妖精の話を聞いたが、「アタシの情報はかなり古い」との事で、卯はもう少し新しい情報を知るにはどうしたら良いのだろう、と唸った。


「なら、コイツ()の情報とかどうだ」


 これ以上分かる事も無いなら出よう、と席を立ったところで、何故かそこに居た、未を背負う申が声を発した。


「ふぇ、ぼくの?」


申の背で未が不思議そうに首を傾げる。


「アナタまた迷ってたんですか? 愚かですねー」


プギャーと思いっきり(あざけ)る(()(あお)る)顔で申を指差し、戌は嗤った。


「ちげーよ! 仔羊(コイツ)が全然俺の背から降りねーからどうしようか悩んでたんだよ!」


「えっ、そのマシュマロボディをずっと背負ってたなんて! ……なんとも羨ましい」

「荷重に耐えきれずに死ね」


真顔になった戌に、申は(食い気味に)唾を吐いた。その様子を、「仲が良いみたいね」となんとなく卯は思ったのだった。(口に出したら全力で否定されそうだが)


「その代わりなんだけどよ」


と、申は卯に向き直し、頼み込む。


(コイツ)の面倒しばらく見ててくれねーか」


しばらくの間、酉の補助として外に出続けるらしい。


「ま、用事があるってんなら別に良いけどよ」


元々、亥に未を預けるつもりで申はこの医療区画まで来たのだそう。


「まるで『アナタ無しじゃあ未殿が生きて行けない』って言い方ですね」


「ちげーよ」


嬉々とした戌の指摘に、苦虫を30匹ぐらい一気に噛み締めたような顔で申は言葉を否定する。


「ぼく、申くんいないとさみしいよ」


申の背中で未は寂しそうにしょぼくれる。羊のような尖った耳も、悲しそうに下がった。


「お前は一人立ちできるようになってくれ。本当に」



 妖精の死骸の森って地味に怖い。


 因みに妖精の国では有名な心霊スポットにもなってるそう。肝試しにも最適さ☆

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