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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
25/86

今聞かれても。

しのには複雑な話は書けないので、この話は意外とすぐに終結すると思います。




「うーん……」


 戌からの質問を受け、少し思案するように片手の人差し指を顳顬(こめかみ)に添え酉は答える。


「そんな事、実は如何(どう)だって良かったんじゃないかな?」


「……それって、どういうことです?」


怪訝な顔の戌をちらと酉は見遣り、


「妖精達の行動、というかリミッター外しについては恐らく、妖精達は()()()()()()()()……と、思うんだよねぇ」


そう答えた。


「だって、今戌クンが言った通り、本来ならば自らの首を絞めるような事をしている訳だけど。実際、妖精達は()()()()()()()()()()()()()なんだよねぇ」


「まるで、ただ単に『魔装者(マギカ)を強くしようとしただけ』のような感じかなぁ」と、酉は言う。


 因みに『魔装者(マギカ)』というのは魔法少女、魔法少年等、妖精達と契約をして魔力を纏う(装備する)人間等の事を指す。あまり新しい言い方ではなく、一般的には魔法少女、魔法少年等の方が普及している。


「だから、妖精達が『リミッター外し』を行った理由は『魔装者を強くする為』だ。リスクを度外視しているようだけど」


酉は戌の問い掛けに対して、そう答えを示した。


「……なあ亥。脳内花畑野郎(妖精)共はリミッター外しについて、どう学習してんだ。それが出来るんならつまり、最低でも一度は見聞の経験があるって事だろ」


 酉と戌のやり取りを聞いていた申が、亥にそう問い掛ける。


「アタシがさっき言った通りに習っている、筈だ。少し中身は要約されているだろうけれどね」


「……ふん、そんなもんか」


亥はそう答え、申は考え込むように相槌を打った。


「まあ、『何故始めた』、『誰が始めた』。そんなのは始めた側からすれば確かに大事な動機かもしれないけれど。本当の所、『仮の面』(オレ達)にとっては相手の動機は如何だって良いんだよ」


と、酉は新しく紙の束を出す。それを周囲に開示する事をせずに子の傍まで来ると、何やら耳打ちをして手渡した。子は受け取った書類の表紙をつまらなそうに見た後、すぐに白衣の中に仕舞い込む。


「結果的に『仮の面(オレ達)』が狙われて、こうやって動く羽目になっているんだからさ」


子から離れた酉は「こんなに面倒な事ってありはしないよね」と大袈裟に肩を竦めて首を振る。


「兎に角、このままじゃあ情報量が少ないから、オレはもう少し食料不足とリミッター外(この状況)しについて調査しておくよ」


酉はスクリーン横の席に戻り、自身の話を締めた。



×



 会議が終わり、最上位幹部達は解散する。子は丑にも乗らずにさっさと研究室に戻っていったようだ。手持無沙汰な丑に「休んで(なま)っていた分を取り戻すぞ」と、寅がジムの方へ引っ張っていく様子が見えた。卯は少し伸びをして、固まった体を解した。


『話の中身がよく分かんなかったねこ』


「……そういうこと言わない」

『に¨っ』


 右手の上で伸びをする『ねこ』に左手を被せて挟み込む。卯の隣に座っていた辰は「では、次の為に準備でもしようか」と立ち上がり、巳はどこか浮かない顔をしてその後ろを付いて会議室を出た。


「ずぅっと気になっていたんですけれど、それなんですか」


 いつの間にか(そば)に居た戌が『ねこ』を指さし首を傾げる。「お疲れ様でした。お先に失礼しますね」と午は周囲の最上位幹部に軽く会釈をし、会議室を出る。持ち場の食事処に戻るようだ。「先に行っとくからね」と、戌に呼び掛けたらしい亥の声が聞こえた。


『ねこは〈ねこ〉ねこ』


「なんですって?」


卯の指の間から頭を出した『ねこ』の言葉に、戌は更に首を傾げる。一人称と名乗りと口癖が同じすぎて意味が分かり難かったようだ。卯は『ねこ』の上から、白魚のようなその手をそっと外した。


「この子は……(別にどうだっていいのだけれど)私の一部よ」


『よく分かんにゃいけどへんにゃ間があったねこ』


「”大事なもの”ってヤツですか」


 楽しそうな声色で戌は問う。重たい小豆色の前髪の間から見えた左目が、鋭い歯の口と共に、にんまりと三日月の様に歪められていた。


「……そうなるのかしら」

『み¨っ』


ぷるぷる震える『ねこ』を卯は雑に腰元のポケットにしまい込む。


「それなら、きちんと大事にしてかないと弱点として捕虜(ほりょ)にされた時、困りますね」


「別に、そんなこと起こらないわ」


にんまり笑う戌に、卯はつん、とすました顔で言い返す。


『ねこはつよいねこ』


ふんす、と、肩に現れた、どや顔を決める『ねこ』を置いておいて、卯は周囲を見る。


「いい加減起きろ」

ふぅ~ん(う~ん)、もうひょっと(ちょっと)食へられるお(たべられるよ)

「お、き、ろ」


 眠っている未を、申が起こそうとしていた。仮面の下の柔らかそうなほっぺが申に引っ張られて伸びている。酉は会議で使った資料を纏め、「起こすの諦めてさっさと運び出してくれないかなぁ」と申をせっつき、


「君達、話しをするのなら、この会議室を出てからにしてくれる?」


会議室(ここ)閉めなきゃオレは仕事に戻れないんだよ、そう卯と戌に告げた。今回招集をかけた酉が、会議室の戸締りや後始末をするらしい(『後始末』とは?)。


「せっかちな男は嫌われますよ」


ふん、と戌は鼻を鳴らし、未を持ち上げて申の背に乗せている酉に言い放った。申は嫌そうな顔をしているが、どうやら抵抗をせずにされるがままに、背に未を乗せられていた。


「結構結構。オレはそういう『好き嫌い』についてはどうでも良いからね」


「寧ろ、怨まれてもらう方がオレ的には良いよ」と言いながら未を背負う申から離れた酉は、魔法で机や椅子達を片付け始めた。


「重っ!? また太ったなお前」「そ、そんなことないよ」「起きたな」「……むにゃ、ぼくねてるもん。だから申くんおんぶしてよね」「……おい」


「そんなことより、少しあなたに訊きたいことがあるのだけど」


申と未のやり取りを聞き流して会議室を出る用意をしながら、卯は戌に声を掛ける。


「何でしょう? 私はBL、GL、NL、TL、R‐18G、オメガバース、触手系、ハピエン、メリバ、バドエン、なんでも行けますよ!」


いきなりどうした。「ぶっちゃけ地雷ないです!」と叫ぶ戌を怪訝な目で見る。視界の奥で、申が無理に体を捻って未の耳をふさいでいるのが見えた。


「訊かれる前に、私の性癖を暴露してみました!」


「……」


ただ自分で暴露したかっただけじゃないのか。


「うへへ、アナタのその眼差し、意外と……痛ったぁ!?」


胡乱な目の卯に何故かニタニタと笑いだした戌の頭部に、酉が分厚いファイルの角を叩き込む。パカン、と(何も入っていなさそうな)小気味の良い音がした。


「早く出てくれる、かな?」


頭をさする戌とそれを茫然と見る卯に、にっこりと笑みを浮かべて酉は告げる。口元は笑っていたが目は笑っていなかった。



×



「で、訊きたい事って何ですか」


会議室を出て戌は卯に問う。


「妖精って何?」


「へ?」



因みに未ちゃん、会議開始から半刻過ぎ始めたころから舟を漕いでました。


戌ちゃん、なんでも食べる(読める)よ!。

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