教えて! 妖精ちゃん★
あとがきが少し長い。
「えぇっと、ねぇ」
酉に話の水と視線を向けられ、未は困ったように亥の方を見る。それは、突然聞かれて困惑したというよりは、どう話すべきか、何を話すべきか、それを悩んでるような印象だった。亥の方は顔全体が隠されているからか酷く落ち着いた様子で、腕を組み静かに思考を巡らせているような印象だ。
「おい酉。どうせお前の事だから、それも既に調査してんだろ。勿体ぶらずに言えよ」
急に硬い声を上げた申は席を離れ、未を隠すように前に進み出た。
「あと、そんなに強く視るんじゃねェ。……仲間を削ってどうすんだよ。今回の件、仔羊と亥が関与してる訳ねーだろ」
未と亥を示すように顔と視線を動かし、酉を睨みつける。どうやら、同僚を責めるようなその態度があまり気に入らなかったらしい。
「そうですよ! お二人共に、全くが関係ない事を『戌』が報告致します!」
抗議の声を上げる戌の方に視線を向けると、酉の視線から亥を庇うように立っていた。
「そんなに威嚇しないでよ。オレだって万能じゃあないんだから、解らない事くらいあるさ。……それに、『万が一』ということもあるじゃないか」
「それと、彼女達はそこまで脆弱じゃないだろ?」と、酉は首を傾げ、笑いながら申と戌を見る。しかし申と戌は少し顔を顰めただけだった。それを見ながら、相変わらず笑ったままだけれど、疲れないのだろうかとあまり関係ないないことが卯の頭を過る。
「で。君達は何か、知ってる事を話してくれるのかな?」
再び、酉は未と亥に問い掛ける。妖精の国のことなのに何故、それを未と亥に訊くのだろう。そう、卯が思った時
「未と亥はね、妖精なんだよん」
丑と寅を挟んだ先に居る子は、卯の方を見て言った。
「……本当に?」
その言葉が直ぐには信じられず、伺うように、隣に座る寅に問い掛けると、
「そうだな。亥は少しだけ違うが、間違いなく妖精だぞ。……最上位幹部以外には秘匿されているがな」
そう、はっきりと(しかし会議中なので些か抑え目の声で)返された。周囲を見ても、大して驚いた様子も無いようなので、他の最上位幹部達は知っていたのだろう。
妖精がこの組織に居たなんて、卯は全く知らなかった。それに、『妖精だ』と言われても直ぐには気が付かないほど、未と亥はこの世界に馴染んでいる。
「……俄には信じがたいが……恐らく、『リミッター解除』だ」
ややあって、亥は口を開いた。
「『攻撃性が上がっているのに、落とす魔法少女の粉の量が少ない』、……これは魔法少女のリミッターを外した時にだけ起こる状態でね」
最上位幹部達の視線が亥に集まったのを感じる。沢山の視線の中でも一瞬も怯むことなく、亥は言葉を続けた。
「あの方法は、魔法少女を駄目にしてしまう、禁止された方法さ」
×
魔法少女にはリミッターが掛けられている。それは文字通り、『魔法少女の出力を抑えるもの』だ。
本来、魔法少女達は夢や前向きな気持ちをエネルギーとして活動する。
『若い女の子の夢と希望、感情をエネルギーにしている』だなんて、些か変態じみている設定だが、一応そう言うことになっている。
しかし、妖精と契約を交わし変身する対象は別に、『女の子じゃなきゃいけない』などと厳密に決められている訳ではないので、実は男の子が変身をしている場合もある。その際は差し詰め、『魔法少年』であろう。
とにかく、魔法少女の粉を生み出す魔法少女達は夢や前向きな気持ちで動いているため、魔法少女自身の強さは大抵、感情に左右される。
簡単に言えば、テストで酷い点をとって落ち込めばパワーは下がるし、恋をして気持ちが浮かび上がれば、パワーは上がる。
特に、強い意志や気持ちを溢れさせれば、それをエネルギーに新たな力が生まれ、魔法少女達はパワーアップをする。
強い感情で生まれた変身アイテムで変身した魔法少女は、その強い感情を糧に更に強くなり、そして、その強い感情故に通常の魔法少女達よりも多くの魔法少女の粉を落とす。
沢山の粉はパワーアップした魔法少女達の戦う武器になる上にその身を守る盾となり、また周囲に散ることによって周囲の浄化を進め、『穢れ』の侵食を止める役割を果たす。
『リミッターを外す』と魔法少女達は普段の力の上から、抑えられていた分の出力が加算される為、リミッターを外した魔法少女は確かに強くなる。
しかし、それは体に無理をさせて出す力なので、魔法少女達は疲弊していく。先ずはその疲弊を自身の生み出す粉で修復する。ただし、魔法少女達は別に感情でパワーアップしているわけではない為、生み出す粉の量が増える訳ではない。
粉での修復が追いつかなくなると、次は彼女達のパワーの源である夢や感情を削って、そこからエネルギーや修復の元を補充していく。
夢や感情は魔法少女の行動原理でもある。つまり、それが削られていくとなると、その魔法少女の『行動する理由』や『戦う理由』が減っていくということになる。
その為、魔法少女達のリミッターを外すことは、魔法少女達を廃人にさせていく行為と同等である。
×
「ふうん。やっぱり、そんな感じかぁ」
亥の語った内容を聞き、酉は「おもしろくないなぁ」と呟いた。
「内容は概ね調査通り、目新しい情報も無し、か」
『予想通りでつまらない』と言いた気に、溜息を吐き肩を竦める。
「……そんな事、アタシに言われても困るね」
興味を失ったような酉のあからさまな態度に、苦笑混じりに亥は返す。
「ほら、やっぱり調べてたんじゃねーか」
「折角亥さんが話してくれたっていうのに、何ですかその態度は!」
立ち上がり詰め寄ろうとしていた申と戌を、未が「申くん、戌ちゃんも、どうどう」と諫める。
「確かに、ある程度の調査はしていたけれどさ。リミッター外しは、通常なら悪の組織は直接知る事ができない情報だろ? オレの調査した結果は外部からの確証の持てない憶測なんだから、『調査』の役割としては発表するなんてできる訳ないんだよ」
「だから、未クンや亥クンの知っている内容を話してもらいたかったんだ」と、それを全く意に介していない様子で、溜息混じりにそう宣った。
「……しかし。それでは、魔法少女達は……じゃなくて。魔法少女と契約している妖精達は、自分達で魔法少女達を潰すような、自ら首を絞めるような真似をしているって事ですか?」
少し考え、「何ででしょう?」と戌は聞く。
妖精の国の妖精は、基本的には純度100%の正の魔力でできているので、常時負の魔力がある世界などにいると、存在が浮く。
× 魔力について × (今更)
魔力には
正の魔力
負の魔力
中性の魔力
日和見菌のように、正、負の魔力になっていない魔力
がある。
魔法少女達は溢れるフレッシュなパワーで周囲の日和見な魔力を正に変えてゆく。
怪物は魔法少女の逆。
世界の住民達が保有する魔力は主に日和見魔力。
日和見魔力は中性の魔力にエネルギーが加わったもので、周囲の魔力や感情に影響される。