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仮の面はどう足掻いても。  作者: 月乃宮 夜見
第一章 仮の面
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調査結果。


 『ねこ』に体当たりされる前に目が覚め、身体の位置をずらす。すると今まで自身の身体があった場所に『ねこ』が飛び込んできた。


「ふふ、勝ったわ」


体当たりを外してベッドの端に転がる『ねこ』を見下し、卯は胸を張る。転がった姿勢のまま『ねこ』は悔しそうに顔をくしゃくしゃにし、ぺしぺしと、尻尾でベッドを叩いた。


「……ん、結構良い時間ね」


 時計を見ると卯の刻になっていた。会議の時間どころか、始業時間にも十分に余裕がある。さっさと身支度を済ませ、ゆっくりしようと卯は予定を立てる。



×



 巳は辰の後を常に、周囲を警戒しながら付いて行く。巳は辰の護衛だ。主人を護衛するその為に、辰によって生み出された存在だった。「一体、何時、何処で、誰に狙われているのか」などと問われても、はっきりとした答えなんて出やしないけれど。

 そもそも辰は一人でも十分に強い。巳が護る必要が無いくらいに。その為、巳は時折、自分が何のために其処にいるのかが分からなくなる。


「どうした。……顔色が悪いな」


ふと立ち止まり、辰は云う。拍子に揺れた白銀の髪が光を受けた水面のように煌き、光が散った。


「いえ……私はいつも通り…のつもり、ですが」


 刺さる光を避けるように、巳は目を閉じる。実際には巳の薄花の虹彩には刺さりはしなかったが、巳はその光を視界の端にすら入れたくなかった。理由はきっと、


「無理をしていないか」


見ていなくても、辰の強い眼差しに見つめられているのが分かる。居心地が悪くなり、巳は何かを発しようと口を開いたとき


「一度、儂の護衛を休むと良い」


静かに、辰は云った。巳は思わず顔を上げ、思いの外顔が近かった事に後退る。辰が少し上体を屈め、巳を覗き込むように立っていた。


「しかし…」

「儂を護るのならば、先ずは其方が健勝である事が重要だと分かっているだろう」


言い返そうとした巳の言葉を遮り、辰は僅かに圧力をかける様に言い放った。その途端、巳は何も言い返せなくなる。自身のすべての支配が辰に取り上げられ、辰の指示に従ってしまう。


「…………はい」


力なく俯いた視界の端に、柔らかな生成り色の髪が映った。辰もその存在に気が付いたようで、何事もなかったかの様子で其方(そちら)を見た。



×



其方(そなた)、巳と最近良くしてもらっていると聞く」


 卯は随分と背の高い男を見上げた。……バランスを崩しそうになったので、卯は一歩後ろに下がる。

 辰のその顔は、布の面……所謂(いわゆる)雑面(ぞうめん)で隠されている。雑面には、札のような紋様に、その上から、嘲笑うかのような目の絵が描かれてある。


「ふむ、座って話したほうが良いか」


後退った卯に、辰は苦笑しつつ問い掛ける。しかし、


「いえ、そろそろ会議の時間です」


硬い声で、巳が言葉を挟んだ。ふと卯は『ねこ』を見る。時計のふりをした『ねこ』の短い尾は真横よりほんの少し、上を指していた。今は辰の下刻のようだ。確かに、あともう少しで会議の開始時刻になる。


「仕方あるまい。では簡潔に話そう」


その声に卯は辰に向き直し、雑面の奥からでも判る、強い眼差しと視線が重なった。


「巳の事を此れからも、宜しく頼むぞ」


辰は朗らかに笑っていたが、何故だか、卯には少し寂しそうに見えた。



×



「……という訳で、」


 酉は、集った最上位幹部達に今回の調査結果を告げる。


「どうやら、少なくなっていた食糧の問題は『書類の書き換えがあった』事が原因のようだよ。勿論、『仮の面(うち)』の方じゃなくて、妖精側の書類に手が加えられていたみたいだねぇ」


言いつつ、分厚い資料をひらひらと見せるように振った。


「簡単に言えば、『数値を書き換えられた書類の品が午クンの方に届けられていた』ってコト」


「管理が杜撰(ずさん)だよねぇ」と笑い、その分厚い資料を子の前に置いた。今回は最上位幹部全員を集めての会議だったので、卯の就任以来、再び会議室に最上位幹部全員が揃う。

 会議室の座席の並びは卯を紹介した時と同じように子から亥まで並んでいる。しかし、前回は完全に円卓だったが、今回はCのような形で並んでおり招集をかけた酉の席がないようだ。


 卯が少し視線を動かして会議室を見回すと、Cの形の空いている側にはスクリーンのようなものがあり、その近くに複数の資料を置いた台と共に酉の席らしきものがあった。


「記憶を改竄(かいざん)されてたっぽいのもなーんか、きな臭いよねん」


 言いながら子は資料をぱらぱらと(めく)り、その中身を確認する。


「そうなんだよねぇ」


言いながら酉はスッと手を振ると子のものよりも遥かに薄い資料が複数、最上位幹部達の前に現れふわりと柔らかく置かれる。


「君達の方には簡易版の資料を配っておくよ。詳細が知りたければ子クンの資料を見てね」


他の最上位幹部達はそれぞれで前に配られた資料の概要に目を通し始めた。


「あともう一つ」


その様子を確認した後、酉は言う。


()()()()()()()()()()()()()。最近、収穫できる魔法少女の粉(キラキラ)の量が減ってるみたいだねぇ」


「……そこを調べるのが(お前)の役割だろ」


何処かわざとらしい様子に、ぼそりと申が野次を飛ばす。


「……煩瑣いなぁ。じゃあ、君にでも頼んで調査してもらおうか?」


特に苛立った様子ではなかったが、酉は申の方を向き問い掛ける。


「は? 何言ってんだ。んなめんどくせーこと、お前がやれよ」


「今回は()()()()()()()()()んだよ」と返す申の返答に「……つまらないなぁ」と笑ったところで


「……攻撃性に関してはどうなんだい」


資料を読み終えたらしい亥が問う。


「いいこと聞くねぇ」


酉はくるりとクロークの裾を翻しながら亥の方を向き、亥を指す。


「指すな」

「物凄く、上がっているんだよねぇ」


亥の言葉を無視し、酉は何故か嬉しそうな様子でその問いに答えた。


「ほら。オレ達が手伝う事で成長する、()()()()()()とは、なんだか()()()()()みたいで」


『手伝うことで成長する』というのは特別なアイテムによるパワーアップの事を言っているようだ。……確かに、魔法少女達の衣装チェンジ(パワーアップ)には敵幹部の存在は欠かせないがそのような言い方で良いのだろうか。


「落とす量は寧ろ、通常よりも少ないんだ。……それで、」


楽しそうな雰囲気を消し、酉は亥と未の方を見る。


「攻撃力は上がっているのに、落とす魔法少女の粉(キラキラ)の量が少ない。これってどう言うことか分かるかな?」



途中で突然文章量が増えてる気がする。

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