気 に し て た 。
× 補足 ×
『もの』→者(人間)、モノ(人外)が混ざってる場合に使ってます。
「ふぇ? 『幹部らしい貫禄』?」
もしゅもしゅと『草』を食みながら、未は卯の言葉をおうむ返しする。
「え、お前それ本気にしてたのか」
申も驚いた様子で聞き返す。卯の出撃の補助をしていた時の言葉は冗談のつもりで言っていたらしい。……一応言うと、卯自身は申の言葉を本気にはしていなかった。ただ、少し「そうかもしれない」とは思ったのだが。
「別に。そんなことないわ」
と、腕を組みツンと顔をそらすと
「申くぅん~?」
少しほっぺを膨らました未が申に詰め寄る。
「悪かったって。お前もそんな気にすることねーよ?」
「別に、あなたの言葉は気にしてないの」
詰め寄る未の顔を両手で挟み込んで未の頬の空気を追い出す申に、卯は不機嫌に答える。先程の出撃は、最上位幹部になって初めての出撃だった。……そう、『卯』は最上位幹部なのに。
「……私が、気にしてるのよ」
魔法少女に無礼られるから。と言うと
「ふぅ~ん?」
「まあ、そうか」
と曖昧な返事を返された。未のほうは多分本気で意味が分かっていないかもしれない。首を傾げていたし。
「『なめる』って、卯ちゃんっておいしいの?」
「意味が違うんだよバカ」
「? よくわかんないよ、申くん」
×
食事処から出ると、先程と同じ処に午が居た。しかし周囲の下級構成員達の姿はなく、
「へぇ、届くはずの食糧がなんとなく足りないって?」
今度は酉の姿があった。先程の午と申の会話を思い出すに、恐らく申が連絡を入れたのだろう。再び見かけた酉は身支度をすっかり整えたようで、身なりがいつも通りになっていた。
「そうなんですよ。それで……」
色々と何か、話し込んでいるようだ。
「……あの様子じゃ、俺も忙しくなるかもしれねーな」
申は完全に眠ってしまった未を背負い、溜息を吐く。先程、食事処で皿に乗っていた『草』達を食べながら、未はこっくりこっくりと舟をこぎ始め、草を食べ切った頃に、すっかり眠ってしまっていた。
「あぁ。俺ァ、基本的に俺は酉の補助をしてんだよ。アイツの調査の仕事と研究、両方の補助をな」
不思議そうな卯の視線に申は答えた。『基本的に』ということは、他の最上位幹部の手伝いもしている、ということのようだ。
「酉のところが長期雇用もしてくれるし、一番金払いが良いんだ。あと、面白ェもんにも色々出会える」
「……?」
『長期雇用』に『金払いが良い』なんて、まるで非正規雇用のようなことを言うようだ。卯の不思議そうな様子に
「俺はな、自分で仕事を探さねーと給料がはいってこねーんだ」
そう、申は答えた。他の最上位幹部を含め、『仮の面』構成員達は階級に応じた給料が入るはずなのに。申は不思議な仕様になっているようだ。
「あ、最低限のやつは流石に入れてもらってんぞ」
憮然とした様子で申は答えるが、光熱費と最低限の保障程度らしい。
じゃあな、と未を部屋まで運ぶらしい申は卯に別れを告げ行ってしまった。完全に暇になった卯は他の出会えそうな幹部に会いに行くことにした。
×
「……何かおかしい」
亥は頭を抱えていた。最近、何故だか浄化される下級戦闘員達が増えている……気がする。上位、中級の幹部は減っていないが、一等構成員や二等構成員等の見かける顔がなんとなく少なくなったように感じていた。例え居なくなる下級戦闘員達の増加が気のせいであっても、現状、怪我人の数が増えているのは確かなことだ。
わざと浄化技を喰らう酉はいいとして、防御の高いはずの丑や寅も、珍しく怪我をして帰ってくる。それは『魔法少女なら限りなく無理に近い不意打ち』とか、『死にそうになった部下を庇った』ことが理由だった。まあ、らしいと言えば、らしいのか。
「おかしいですねー」
ガーゼを補充していた戌は呟く。尤も、声が少し大きかったので全く独り言にはなっていなかった。
戌は何故だかいつも亥の後を付いてくる。『仮の面』最上位幹部の中でも、かなり強い部類に入るのだが。『仮の面』に入る際にも、
「亥の舎弟にしてください!!」
などと言っていた。綺麗な土下座をし床に額を擦り付けていたその姿に、亥は全力で引いた。困ったように(何故かその後ろに立っていた)酉を見た際「亥クンが『良いよ』だってさ」などと抜かされたので結果本当に舎弟(という名の手伝い)になってしまったが、お前はそれで良かったのか。
――それはともかく。
「消費量激し過ぎませんか」
戌は訊いてるような、そうでもないような大きさの声で言う。亥の役職は『回復』で自身の持つ組織内の区域では治療やリハビリ、手術等の医療行為を行っている。しかし、共にいる戌の役職は『報告』である。
本当のことを言うと、亥の区域で看護師擬きをしている場合ではない筈だ(と、亥は思っている)。そして、その役職故に彼女の声は非常に聞き取りやすくなっている。
「ガーゼもですけど、消毒液、包帯とか」
と戌は指を折って数える。「あと、入ってくる筈の材料の量が減っていたような気がします」
「戌もそう思うんだね」
亥の声に、戌の耳がピン、と立ち此方を向いた。やっぱり訊いていたのか。普通に聞いてくれないだろうか。でないと答えにくい。
「やっぱりですか?!」
耳を立てた戌はそのまま、勢いよく亥の方を振り向いた。しかし、動いた衝撃で戌の肘がその背丈よりも高く積んであった箱達にぶつかり、それらが戌に被さりながら崩れていく。
「うわぁ!?」
驚きのけ反った戌はバランスを崩し、そのまま床に倒れる。亥は、倒れた戌が箱に埋もれていく様子をそのまま見送った。
「あーあ、アンタはそこで動くんじゃないよ」
音が完全に止まったところで、亥は動こうとした戌を呼び止める。
「はぁい……」
倒れたまま、戌はしょぼん、と生えている犬耳を垂れさせ項垂れた。
亥が箱を退かし通り道を作ると、崩れた箱達から戌の手を引いて起こし、救出する。そうしてから、箱を元の位置に戻す。戌をそのままにして作業をした所為でこれ以上酷くなってしまっても困るからだ。
「あ¨り¨がどう¨ござい¨ま¨ず、ごの¨ご恩ば一生忘れ¨ま¨ぜん¨!」
と撤去した戌は何故か感涙咽び泣いていたが、そんな事で恩なんて感じなくて良い。忘れろ。しかし、原因がアンタ自身に有った事は忘れるな。
亥が箱を拾っていると、小さな白い手が他の箱を拾っていくのが見えた。顔を上げるとそれは、新しく幹部になった卯だった。
×
「「『幹部らしい貫禄』?」」
箱を全て片付け終わった後、卯は訊いてみた。戌は首を捻って亥は訝しげな表情をつくる。
「ナイスバディとかじゃないですか。ほら、あなた割と大きいですし」
意味ありげに手をわきわきと動かし『トランジスタ』っていうんでしたっけ?、という戌に
「てきとうな事を言うんじゃないよ」
亥は手刀をお見舞いする。
「あでっ」
「まったく。アンタは変なことしか言わないね」
溜息を吐く亥に、戌は嬉しそうに返事する。
「褒めてくださりありがとうございまーす!」
「褒めてはいないんだよ」
『トランジスタ』とは何だろうか。卯は首をひねる。
「戌の言葉は気にしなくて良い。それに『幹部らしい貫禄』なんて、付けようと思って付くようなもんじゃないだろう」
亥の言葉に不承不承ながら頷く。戌と亥は『仮の面』に所属する女性幹部だ。卯はただ単に、何か良い案があるか訊いてみたかっただけだ。
※卯ちゃんは午→未→申→酉→戌→亥→子→丑→寅→図書館棟(卯の持ち場)の道順で帰る予定。
午、未、申、酉にはもう会ったようだ……(?)
※ トランジスタ系女子→小柄だがグラマーな女子のこと。
トランジスタは小ちゃいですが有能なのでそう呼ぶらしいですね(?)