八百長疑惑……?
説明的な回。
後書きも説明的。
「『何のために魔法少女の粉を集めているのか』って?」
棚の鍵を閉めながら聞き返す子に、卯は小さく頷く。一応、魔法少女の粉の回収は組織の目的(の一部)ではあるものの、何故回収しているのか、卯は知らないのだった。恐らく、他の上位幹部や下位の構成員もなんとなく回収しているだけで、具体的な目的は知らない方が多いのではないだろうか。
「うーん、まあ、構成員達のモチベーションのためにそれっぽい理由だけ取っ付けて、ちゃんとした説明はしてなかったねん」
子は周囲を少し見、研究所内に居る部下達が作業に集中しているのを確認する。そして、
「じゃ、ちょっと向こうまでいこっか」
そう卯の手を引いて移動を促した。見た目の様子では『手を引く』というよりは手を繋ぐ感じの方が強いが。……研究所では話し難い内容なのだろうか?内心で首を傾げる卯をそのままに子は申に声を掛ける。
「申っちは付いて来なくてもいいよん?」
「……まだしばらく暇だからついてく」
手持ち無沙汰は嫌いなんだ、と申も子と卯の後ろに付く。
×
「ま、ここなら大丈夫かなん?」
研究所の内部の二階にある、なんでもないただの部屋に子は入る。一般的な構成員達がミーティングを行うような、シンプルな空き部屋だ。卯は子と手を繋いでいたのでそのまま引っ張られて部屋に入り、申は子と卯に倣ってその部屋に入る。
「よっと」
卯と申が部屋に入ったのを確認し、子は部屋の中央に何かを置いた。
「これは外からの干渉を防ぐ装置」
子は卯(ついでに申)へ、座るように促す。
×
魔法少女の粉、通称『キラキラ』は文字通りキラキラと輝く、魔法少女の闘った後に残る粉のことだ。
魔法少女の粉は、魔法少女達が動き回ることで周囲にばら撒かれる。魔法少女達が動けばそれなりに量は取れ、逆に魔法少女達が動かなければ、魔法少女の粉はほぼ集まらない。
一応のところ、変身するだけでも周囲に魔法少女の粉は散らばるので、出撃したのに収穫ゼロ、なんてことにはならないのが救いではある。
「なんで、魔法少女の敵である『仮の面』が魔法少女の粉を集めているのかって言うと、単純にエネルギーになるからなんだよねん」
意外にも単純な話だった。
「それで、『魔法少女の粉がエネルギーになる』っていうのは『仮の面』だけの話じゃ無いの。妖精の国でだって、同じことが言える」
魔法少女の粉の正体は魔法少女の発する正の魔力と、穢れや怪物等が発した暗い感情の混ざった負の魔力が打ち消し合って生まれる、昇華された感情エネルギーである。
魔法少女の発する魔力は妖精の達のような、要するに正の方向を持つエネルギーであり『嬉しい』『楽しい』といった明るい感情から生まれる。そのエネルギーは世界を明るくし、様々な物を世界に生み出す力となる。
逆に怪物等が発する魔力は負の方向のエネルギーで『怒り』や『悲しみ』などの暗い感情から生まれ、世界を破壊する力を持っている。
実は正の魔力よりも負の魔力は生まれやすく、何もせずとも世界からは暗い感情は生まれ、『穢れ』として世界を蝕んでいく。
その為、魔法少女達が戦い、怪物を浄化して周囲に魔法少女の粉をばら撒くことは世界を蝕む『穢れ』を消す行為と繋がる為、世界にとってとても良いことなのだ。
×
「実を言うと、妖精の国と『仮の面』は手を組んでるんだよねん」
子がそう言うと、申は少し顔を顰めた。衝撃的な発言に卯は目を見開く。
「申っちはあんまりあの国にいい印象持ってないだけだよん」
やれやれ、と言いたげに子は首を振る。
「『仮の面』を創立した際に、妖精の国の王の元へ行って、安定した量の魔法少女の粉を提供する代わりに、妖精の国へ『仮の面』達が安全に過ごせる場所の提供をするよう、約束を交わしたんだよん」
子の説明の後に「約束っていうか枷みたいなもんだろ」と申の小さな呟きが聞こえた。
『仮の面』達は魔法少女達と戦って、破壊衝動を(少ないながらも)解消しつつ魔法少女の粉を周囲にばら撒かせ、周囲の環境の浄化を促進させる。そして余った魔法少女の粉を回収し、妖精の国へ提供する。
「これが、『仮の面』の本当の仕事内容なんだよん」
妖精の国は、『仮の面』から安定した量の魔法少女の粉を得る代わりに、“他の悪の組織や魔法少女達(あと正義感の強い妖精達)から『仮の面』の組織がある場所を秘匿する事”を約束してもらったらしい。
「『仮の面』は、妖精達と手を組まなくてもそこそこに平気だろ。寧ろ、暴れられる場所を限定されて、何らかの義務を課せられてるんなら、安全に過ごせること以外にはメリットは無いじゃねェか」
「妖精の国の都合に合わせてあげているだけだろ」という、申の言葉に、卯はほんの少しだけ『そうかもしれない』と思った。妖精や魔法少女達に居場所が知られてしまっても、その都度対応すれば良いのかもしれないと、考えてしまう。
「ただの妖精如きでもね、排除対象を見つけた時は凄まじいんだよ」
申っちも知ってるだろ、と子は呆れたように申を見る。
「俺が知ってるのは仲間意識の高さだけだ。そっちは当事者じゃない」
卯は自分が唐突に蚊帳の外にされたな、と思い机に視線を下ろすとそこに『ねこ』が居り、よく分からない、と首を捻っていた。ついでにあくびをして伸びをして、後ろ足で耳を掻こうとしていたが足が短く届いていなかった。
「ま、『仮の面』が安全に暮らすために集めてるって訳さね」
子はそう締めた。卯は『ねこ』の耳の後ろを掻きながら頷いた。
×
「へぇ。……担当って申クン、君だったんだ」
子の研究所から出ると、同じように出撃から帰って来たらしい酉に出会した。
「まあ、君は最上位幹部の『補助』だし仕方がないか」
そう、卯と申を見る酉は戦った後なのか、髪が少し乱れていて服装も汚れている。しかし、足取りはしっかりしていて、軽薄な笑みを浮かべ余裕そうな表情をしていた。
「お前また浄化されてきたのか?」
少し顔を顰めて申は言う。『浄化された』ということは、魔法少女達の放つ技を食らった、ということなのだが身体や精神など、色々大丈夫なのだろうか。
「まあね。でもほら、かなり高収穫だろう?」
酉はクロークの下から複数、粉のたっぷり詰まった瓶を取り出した。卯が先程回収した物よりも圧倒的に量が違っていた。
「アイツのやり方は真似しないほうがいいぜ」
瓶を見つめる卯の視線に気が付いたのか、申は耳打ちをする。俺も似たようなもんだけど、と言う小さな呟きは聞き逃さなかった。
「でもさ、想定より少ないんだよねぇ」
なんでかなぁ、と酉は顳顬に手を添え思案する。酉はあの量で『少ない』と宣うらしい。
「それ以上搾り取ってどうすんだよ」
申は呆れたように言っていたが、卯は少しだけ衝撃を受けていた。
「(……他の最上位幹部は、どのくらいの量を集めてるんだろう)」
足手まといは嫌だな、と少し思ったのだ。
× 魔法少女の粉の利用方法 ×
1、魔法少女を新たに生み出す道具などに加工
2、『穢れ』が溜まり過ぎて荒れた土地の浄化
3、妖精の国、『仮の面』その他敵組織の動力源
(水道/ガス/電気などのライフライン)
大体こんなもん。
× 魔法少女の技を食らうと ×
浄化の作用により、体内にある『穢れ』が消滅する。
しかし『穢れ』の量や質が高ければ、魔力量が削られるだけで済む (それでも結構なダメージではある)。
× 穢れが無くなると ×
無駄な悩みや精神的なコンプレックスが減り、前向きで明るい人間になる。
だが、底抜けにポジティブな『仮の面』構成員や、精神を病んでいるような気がしてならない魔法少女も存在するので、本当のところ、因果関係は不明。
また、『仮の面』に所属しているもの達は、須く、何かしらの『負の魔力』を持っているべきなので、無くなってしまうと『仮の面』に所属出来なくなる。 例外は無い。
というか、『疑惑』でなく、思い切りグルですね。