反省会。
「ま、そこそこに面白い出撃だったんじゃないか?」
腕を組んでむくれる卯に申は笑い交じりに評価する。先程、出現させた怪物をけしかけ、卯は魔法少女達と戦闘を行った。久々の戦闘だった為にきちんと戦えるか不安があったが、戦闘前に渡されたイヤホン付きマイク越しに行われる申のサポートのお陰で上手く戦う事が出来た。そして今は戦闘が終わり、世界が修復され魔法少女達が変身を解除しているのを見ているところだ。
また、怪物は浄化されてしまったものの『キラキラを回収する』という今回のメインの仕事には支障は無く、今回の出撃自体には大きな失敗や反省はなかった。卯がむくれているのは他に理由がある。
「面白かったなァ、『あなたは仮の面に居て良い存在じゃない』って」
何がおかしいのか、腹を抱えて申は笑う。笑い過ぎて乗っている屋根から落ちればいいのに、と少し思いながら卯はふん、と鼻を鳴らした。
卯は魔法少女達によって、仲間に引き込まれ掛けたのだ。卯の身長は周囲の組織の構成員達と比べて小柄で、魔法少女達とそう変わらないような身長をしている。もしかすると、ちょろい奴に見られたのかもしれない。
「最悪」
そのことを思うとなんだか不愉快で、卯は忌々しげに吐き捨てた。卯にもきちんと理由が有ってこの場所に居るのだというのに。――理由はただ単に『衣食住が(殆ど)無料で貰えて、給料を程良く得られるから』という元も子もないようなものだが。
「最上位幹部まで上がって来て説得されたやつなんざ初めて見たぜ。……ま、勝手に改心するパターンはあったけどな」
申は肩を震わせながら言う。珍しいだろうけれどもそこまで笑うような内容だろうか。しかし卯自身も、最上位幹部になった今、魔法少女達に説得されるなど夢にも思っていなかった。……他の最上位幹部達が説得されたという話は聞いた事無かったというのに。一体何が違うのだろうか、と卯は柳眉を顰める。
「もう少し、『最上位幹部たる威厳』ってもんでも身に付けるといいかもな」
笑い過ぎで出たらしい涙を申は拭う。
「じゃ、魔法少女共も居なくなったみてーだし、魔法少女の粉でも回収するか」
「今日のメインはこっちだからな」と言いつつ申は立ち上がった。
変身を解いた魔法少女達は、妖精と共に日常へ戻っていく。先程の戦闘などまるで無かったかのように穏やかな表情で、楽しそうに談笑を始めていた。意識を取り戻したらしい依り代になった人間も、元の生活に戻っていくようで依り代になる直前までしていた行動の再開を始めていた。
「……そうね」
長いマントを踏まずに、すっと綺麗に立ち上がった申を見て、卯は少しつまらなく思うのだった。
×
卯と申は怪物と魔法少女達が暴れ回った箇所に降り立つ。
「魔法少女の粉を光らせて魔力を通してから、瓶に入れるんだぞ」
「……知ってる」
「下位構成員の頃からしてるらしいが、ちゃんとやり方覚えてるか? 卯ちゃんよ」と申は揶揄いつつ大きめの蜂蜜瓶のような物をマントの中から取り、卯に差し出す。その子供扱いをするような呼び方に顔を顰めながら、瓶を受け取り一歩進み出ると、右手を浄化されたその箇所に向け、少し魔力を込める。
すると、魔法少女達の力によって修復されたその箇所から、キラキラと光を放って輝く粉が浮かび上がった。光らせた魔法少女の粉達を魔力で絡め取ると、通した魔力ごと持っていた瓶の中に詰め込む。粉の量は、瓶の高さの4分の1程だった。
「へぇ、意外と集まったな」
卯の抱える瓶を覗き込みながら、申は感心した様子だった。キラキラと輝く粉には色味はなく、砕いた硝子のようだと卯は何となく思った。
「……何か問題でもあるの」
覗き込む申を避けながら、卯は少し不満そうに訊く。粉を光らせた魔力はそのまま消滅するので気にせず卯は回収瓶の蓋を閉めた。
「いや、問題はねーよ。結構良い感じだぜ」
そう言うと申は周囲を注意深く見回す。
「取り残しもなさそうだし、帰るか」
×
魔法少女の世界から帰還した卯と申は、魔法少女の粉を集めた瓶を持って子の研究所に来ていた。回収したそれらは子の区域内に持って行くように『仮の面』組織内で決められているからだ。卯は丑寅の出入り口に近い場所なので便利だ、という程度にしか考えていない。
「おかえりー。待ってたよん」
子の研究所まで行くとそこの入り口に子が居り、手を振って迎えてくれた。卯と申を見上げる子は相変わらず白衣にゴーグルの姿だ。
×
「んー、結構集まったみたいだねん」
卯から瓶を受け取り、子は評価を下す。卯が持っても少し大きいくらいの回収瓶は更に小柄な子が持つと、もっと大きいもののように見えてくる。恐らく大丈夫だとは思うが、落としてしまいそうで少し子の事が心配になる。
「それなりに質もいいみたいだし」
子が瓶を顔の近くまで持ち上げ室内灯の光にそれを翳すと、瓶の中身は銀色に煌めいた。
「久々の出撃だとしても、構成員としてはそれなりにいい量だよな」
そう言う申を、子は珍しそうに見遣る。
「ふーん、キミが褒めるなんてねん」
「なんだよ。変な事は言ってねーだろ」
申は顔を顰めた。
「ところで、今から粉を保管場所まで持って行くんだけど、卯っちも一緒にいく?」
振り返る子の提案に、卯は頷く。申は数度見た事があるらしいが一緒についてくるようだ。
受け取った瓶を子は研究所の奥の棚に仕舞いに行く。それは特殊な鍵のかけられた大きな棚で、子はどこからともなく少し大きい鍵を取り出して棚の鍵穴に差し込む。鍵は白金のような煌めきを放った。
大きな棚の中には魔法少女の粉が入った瓶がずらりと並んでいた。よく見ると、並んでいる粉は薄らと桃色や赤色、黄色、紫色などの色味が付いているものがある。
「この棚の事、中身や場所を含めて基本的には他言無用だからねん」
後ろを振り返り、棚を開いたまま子は2人に言う。
「知ってるっつの」
「そもそも言う相手居ねーし」と申は手を頭の後ろで組んで面倒そうに返す。
どちらかといえば、卯はそういう約束事はきちんと守る方であったし、あまり喋る方でもないので大丈夫だと自身で思った。……しかし。
「(じゃあなんで私達に見せたんだろう)」
と、脚立に乗って瓶を棚に置く子の後ろ姿をぼんやりと眺め、卯は思ったのだった。
× 子の研究所でやってること ×
1、(子が閃いた)物、道具の生産
2、壊れた道具の修理、便利な機能の追加/削除
3、魔法少女の粉の保管、受け渡し
こんなもん。