1話
書きたかった話の一つ
これから頑張っていきたいです
夏の終わり、高校の夏休みが終盤を迎える頃。
彼はたまたま選ばれてしまった。
「、、、暑すぎでしょ。なんだこの地獄。皮膚が溶けるわ。」
現在気温32度。
飲み物無し、金無し、代わりにあるのは10キロ以上ある大荷物。
「お天気様、俺に敵意剥き出し過ぎない? 俺前世でなんかしたかな?」
車で移動できる奴らが羨ましい。
雲一つ無い青空とその中にある唯一の異物──太陽が憎たらしく彼のことを照りつける。
彼はその暑さと疲労でそれに気づかなかった。
いや気づいたとしても選ばれてしまった時点で結末は変わらなかっただろう。
その点では彼は幸運だったかもしれない。
「死」を感じず終わったのだから。
歩道に侵入したトラックは彼に突進していく。
トラックはまるで生きているかのように、彼に恨みを持っているかのように、コンクリートの壁とトラックで念入りにプレスするように走っていく。
何百メートルかを走ったトラックは力つきる様にゆっくりと動きを止める。
それは一人の少年を──いや人だったかもわからなくなるほど悲惨な事故になるはずだった。
しかし事故現場には死体はおろか血痕すら残っていなかった。
そう 彼は選ばれたのだ。
選ばれ、そして事故の直前、呼ばれたのだ。
異世界に。
辺りの気温が変化したことで彼の意識は覚醒する。
「ここはどこだ、、、?」
今まで触ったことないほどフカフカなクッションに頭をのっけている。
「服は、、、いつもの白Tにジャージの長ズボン、よしいつもの装備だ。」
周りを見渡す。彩りのある部屋だ。
多分女の子の部屋だろう。
では何故自分はその女の子の部屋にいるのだろうか。
「知り合い、、、? いやいや俺ってば引きこもりでは無いけど外の世界の人間とは基本コミュニティケーションしてないから。性別女性の人と話したのって母親除いたらコンビニの店員ぐらいしか無いから。」
果たして「お弁当温めましょうか?」に対して「いいえ」と答えるやりとりが会話してカウントされるのかは疑問だが。
「とりあえず寝たままはヤバイな。」
礼儀的にいけないだろうと彼は立ち上がる。
身体中が痛い。
「やっぱ俺なんかあったのか? 事故にあって通りすがりの女の子が助けてくれたとか? 」
顎に手をあて少し考える。
「いやいやそんな漫画みたいなことがあるわけない。この不幸の権化と呼ばれた俺にそんなことあるわけない。」
何故か痛む身体をゆっくりと持ち上げ片膝立ちになる。
あとは立ち上がるだけだ。
その時「ギャリ」という鈍い音を立てて何かが彼の行動を阻害する。
「首、、、輪?」
首を触って確認する。
確かにそこに巻きついているものがある。
そして何かそこから伸びている。
金属特有のひんやりした手触り、、、鎖だ。
伸びた鎖はベッドの脚へと繋がっていた。
急に寒気が襲ってくる。
「おいおいおい、やっぱ芳しくない状況じゃね? ドッキリのプラカード出すなら今だよ?」
声が震え、冷や汗が止まらない。
「シロ 起きたの?」
扉から銀髪の女性が顔を出している。
服装は、、、多分寝巻き。
年は俺と同じぐらいだろうか。
この不可解な状況に犯人がいるとしたら間違いなく彼女だろう。
だとしたら言葉は選ばないといけない。
見知らぬ部屋に鎖で繋がれてる。
そんなことをする人を怒らせたらどうなるかわかったもんじゃない。
「えっとあの、、、ここはどこ、、、ですか?」
途切れ途切れな彼の問いに彼女は不思議そうな顔をする。
「ここ?私とシロの部屋。」
シロとは自分のことだろうか。
「シロ?どうしたの?お腹すいた?」
彼女が怪訝そうな顔でこちらを見つめる。
「い、いやなんで俺、鎖に繋がれてるのかなぁーって、、、」
「ベスターが懐くまでは鎖で繋いでおくべきっていうから。」
ベスター?懐くまで?もう何を言っているのか彼には理解しきれない。
ただなんとなくわかるのは彼女は自分を同じ地位の生き物扱いしてないということだ。
「シロ、こっちにおいで」
ベッドまで移動した彼女は手を広げこちらに来るよう催促する。
今は従うべきだ。
相手は自分に何かしようとはしていない。
なら逆らって良い事など一つも無いだろう。
彼女に近づいていく。
残念ながらこの鎖にはちゃんと立てる長さは無いので膝立ちで。
座っている彼女のもとまで来るとベッドの上ポンポンと叩く。
ベッドの上までこいということだろう。
言う通りにベッドに座る。
ベッドの縁に引っかかりもう鎖の長さが限界だ。
なにをされるのだろうと警戒していると不意に抱きしめられる。
「は?」
一瞬彼には何をされたのか理解できなかった。
顔は彼女の胸に埋もれ、頭を優しく撫でられている。
身体を妙な安心感が包む。
「大丈夫、、、怖くない。いい子いい子。」
こんなに優しくされたのはいつぶりだろうか。
顔が恥ずかしさで熱くなる。
相手が誰であろうがこの行為はとても心が安らぐ。安らぐのだが、、、。
いつまで経ってもやめる気配がない。
呆然と時間だけが過ぎていく。
「暑い、、、。」
ついに恥ずかしさとは違う、普通に暑くなってきた。
「シロ、あまり喋らないで。くすぐったい。」
「ハイ、、、。」
彼女は有無を言わさずこの行為を続ける。
だんだん頭がぼーっとしてくる。
「あれ?」
いつのまにか頭を撫でるという行為だけが止まっている。
耳をすますと「すぅすぅ」と寝息が聞こえてくる。
「やっと暑さから解放、、、あれ?ちょっ、、、力つよ! 」
女性とは思えぬ力で頭をホールドされ抜け出せない。
静かな時が流れる。
いつしか彼も抵抗をやめ、眠りについていた。
読んでいただきありがとうございます