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第六話 魔法騎士団の公開訓練

 公開訓練が終了し、観客たちが次々と魔法騎士団の団員達に労いの言葉をかけたり差し入れを渡すために近づいていく。最前列からだいぶ後方で見学していたスーリア達はすでにだいぶ出遅れていた。


「御礼、言えるかしら?」

「うーん。団長さんは凄く人気があるらしいから、どうかしら? 近づけると良いのだけど。スティフにも近づけないか聞いてみるわね」


 メリノは考えるように自分の頬に手をあてた。メリノの婚約者であるスティフは、魔法騎士団の末席の方に名を連ねている。

 末席と言えども魔法騎士は魔法騎士だ。メリノのような農家の娘が魔法騎士を射止めるのはシンデレラストーリーとして周りの羨望の的だった。でも、スーリアはメリノのような美人で優しい女性がいい男を射止めるのは至極当然に思えた。スーリアは美少女だか、メリノもまた透き通るような透明感がある美しさがある女性なのだ。


 婚約者のスティフが近づいてくるのに気付くと、メリノは花が綻ぶかのような可憐な笑みを浮かべた。


「スティフ、勝利おめでとう!」


 お祝いの言葉を贈るメリノを見て、スティフも蕩けるような笑みを浮かべた。スーリアは本当に美男美女カップルでお似合いの二人だと思った。


「スティフさん、おめでとうございます。すごく格好良かったです」

「ありがとう。スーリアも元気になったようで本当によかった。気になる奴がいたら紹介するから俺に言えよ」


 スーリアもスティフにお祝いを言うと、スティフは優しい目をしてスーリアの頭に手をポンと置いて微笑んだ。気になる奴とは異性として気になる男性という意味であろうが、スーリアはなにぶん随分と後方の席に座っていたのでそんなところまで気を回すほどは見えなかった。スーリアは首を少しかしげる。


「私、団長閣下に助けて貰った御礼を言いに来たんですけど」


 スーリアは一番紹介して欲しい人を名指しして、会えないかとお願いしてみた。いつの間にか団長閣下の所には若い女性が群がっていて、とても近づけそうにない。『団長閣下』と聞いたスティフは申し訳無さそうに眉尻を下げた。


「アルフォーク団長か。あのレディ達を押しのけてここに連れてくるのは難しいな。力になれず申し訳ない」


 スーリアとスティフとメリノの三人は団長のいる方向を眺めて、あまりの人だかりに顔を見合わせて肩をすくめた。でも、相手は王都の魔法騎士団の団長であり、そうそう会える相手ではない。今御礼を言わないと一生言えないかもしれない。意を決したスーリアは花束を持ち直し、人垣に近づいてみた。


「すごいわね‥‥‥」


 近づいてはみたものの、団長のまわりにはご令嬢や町娘風の若い娘が二重、三重に取り囲んでいた。スーリアからは背の高い水色の頭が少し見えるだけで、とても会話を交わすことは無理そうだった。

 しばらく待ってみたが一向に人垣は減らない。とても話せそうにもないので、結局はお礼の手紙と花束を一緒にスティフに預けて代わりに渡して貰うことにした。



 ***



 王都魔法騎士団の団長であるアルフォークは、はっきり言ってうんざりしていた。


 月に一度の公開練習を終えるといつものように魔法騎士達のもとに女性がプレゼントを持って集まってくる。アルフォークは毎度毎度、この公開練習の後の身の振り方には頭を悩まされていた。

 下手に受け取って変な期待をさせてしまうのはよくないが、渡そうと思ってせっかく用意してくれたものを無碍(むげ)に断って相手を傷つけるのも本意ではない。焼き菓子を焼いてきたとか、消費できるものなら団員達の詰め所に置けばいいからまだいい。問題は『アルフォーク様を想って作りました』と言うネーム入りの刺繍作品を始めとする手作りの品々だ。

 貴族令嬢の嗜みの一つには刺繍があるが、馬鹿の一つ覚えのように競って刺繍の力作を持ってこられても困るのだ。使っているところを見られればあらぬ憶測を呼ぶし、かと言って捨てるのも申し訳ない。結局、屋敷のタンスの中が新品の刺繍作品で埋め尽くされるのだ。


 アルフォークは常々思っていたのだが、こういったプレゼントは禁止にした方が良いのではないだろうか。とは言っても、これは多くの団員にとっては若く美しい娘と知り合う絶好の機会でもある。禁止を言い渡しても、部下たちが納得するわけも無いのだが。


 やっと人が掃けて魔法騎士団の待機棟に戻ったとき、アルフォークはどっと疲労感が押し寄せるのを感じた。ある意味、魔獣の退治より疲れる。

 ふぅっと息を吐き自分の執務室に入ろうとしたとき、部下の一人のスティフに声をかけられた。スティフは手に花束と手紙を持っており、それを手渡そうとしてきた。


「俺に男から花束とラブレターを貰う趣味は無いぞ」


 アルフォークに男色の趣味は無い。とは言っても、実は女性も苦手である。受け取らずに訝しげな視線を投げかけるとスティフは苦笑した。


「私の婚約者の妹からのお礼状です。以前、スネークキメラから助けて貰ったお礼を言いたいと今日の公開練習に来ていたのですよ。団長のまわりにご令嬢の人垣が出来ていたので代わりに託されました」


 スネークキメラから助けた、と聞いてアルフォークもすぐに思い当たった。あの不思議な現象の時に助けた少女だ。そういえばあの少女はスティフの婚約者の妹だと聞いた気もする。もう駄目かと思うようなかなりの重症だった気がするが、元気になったならよかったと思った。


「あの子は元気になったのか? よかったな」

「はい。家の手伝いや、花を育てて過ごしているようです。この花もスーリアが育てたみたいですよ。彼女の家族も団長を始めとする魔法騎士団と聖魔術師達には感謝してもしきれないと言っておりました」


 スティフはそう言うと柔らかく微笑んだ。

 アルフォークがありがたく花束と礼状を受け取り、その花束に目をやれば、色とりどりの花がリボンで纏められている。女性に花を贈った経験はあっても、女性から花を贈られるのは初めてだ。礼状には丁寧に感謝の気持ちが書き綴られていた。


 当然だが、魔獣の討伐には危険が伴い、常に死と隣り合わせと言っても過言では無い。こういった感謝の言葉は少なからず仕事の励みになる。

 アルフォークはその花を執務室の空の花瓶にそのまま挿すと、手紙は机の中にしまった。忙しく任務に追われ、翌日にはその存在など忘れていた。


 数日後、魔獣の討伐を終えて執務室に戻ったアルフォークはふと違和感を覚えた。雑然とした執務室におかれた花瓶にささっているのは色とりどりの美しい花々。不思議な事に、助けた少女から貰った花は切り花にも関わらず、一週間以上経ってもしおれる気配なく時が止まったかのように美しく咲いているのだ。


 ある対象の時を止める魔法はかなりの高等魔法で、国に優秀な魔術師として認められた者だけが持つ称号である『筆頭魔術師』でさえ、成功するとは限らない。

 あの少女がその最高難度の魔法を使えるとはアルフォークには到底思えなかった。散らない不思議な花。それに、あの少女があれだけの重傷を負って命が助かったのは奇跡的だ。


「まるで奇跡の花だな」


 アルフォークは花束から花を一輪抜くとそれを紙で包み込み、験担ぎに魔獣の討伐に向かうときに身につける衣装のポケットに御守りがわりに入れた。



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