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第五十話 最終話

 真っ白な世界で下界を眺めていたシュウユは顔をあげた。横にいる少女──スーリアは、ちょこんと座ってシュウユの様子を見守っている。


「希望に変わりはない? 恵ちゃんはもう少し時間がかかりそうだけど、お姉さんの方が今ちょうど良いタイミングだわ」

「変わりないわ。急がないと、彼と歳が離れ過ぎちゃう」

「ふふっ、そうね。──恵ちゃんによろしくね」

「任せといて」


 スーリアは口の端を持ち上げて、にっこりと笑った。それを見たシュウユは頷いて、その手を少女にかざした。

 シュウユの手に光が集まり、少女を包みこむ。次の瞬間、少女の姿は光る球体へと変わり、その球体もいつの間にか姿を消していた。


 シュウユはもう一度下界を覗き込んだ。光る球体は一人の女性の体の中に吸い込まれるように消えていった。


「よし、成功だわ」


 そのまま下界を覗き込んでいたシュウユは、仲むつまじい様子の男女を見つけ、優しい微笑みを浮かべた。


「幸せになるのよ、私の可愛い愛し子達」


***


 季節が巡る頃、メリノとスティフの間にそれはそれは可愛らしい女の子が生まれた。スーリアがこの子の言動に驚かされるのは数年後のこと。


 それは幸せに暮らすスーリアの屋敷に、姉のメリノが家族で遊びに来た時のことだった。メリノは手土産にレッドハットベーカリーで焼き立てのテーブルロールを沢山買ってきてくれた。


「サーシャったら、リジェルに凄く懐いてるのよ。お嫁さんになるって言ってるの」

「まだ言ってるの? この前も言っていたわ」


 スーリアはくすくすと笑った。

 姪のサーシャはことあるたびに「リジェルのお嫁さんになる」と言っている。スーリアはそれを聞くたびに、子どものいうことは何とも可愛らしいと口もとを綻ばせていた。

 その時、パンに塗る木いちごのジャムを仕上げていたスーリアの手元を、姪のサーシャが横から覗き込んだ。


「もうすぐ出来るから、待っててね」

「スーリアお姉さま。ジャムをかき混ぜるのは三回半って教えたはずだわ。今のは三回だった」


 それだけ言ってタタタッと走り去っていった姪の後ろ姿を眺めながら、スーリアは唖然とした。


「え? え? えぇーー!!」


 思い返せば、リアちゃんは料理を全くしないのに、パンに塗るジャムだけは頑張って自分で作っていた。そして、サーシャはレッドハットベーカリーのリジェルにとても懐いている。毎日のように買いに行くとメリノに強請るようだ。


「……そっか、そっか。そっかー」


 スーリアはふふふっと笑いをもらした。


「スー? どうかしたのか?」


 一人にやつくスーリアを見て、子ども達をあやしていたアルフォークが怪訝な表情で首をかしげた。


「ううん、何でも無い。幸せだなぁと思って」

「そう?」


 こちらを見つめるアメジストのような瞳が優しく細められるのを見て、スーリアも微笑み返した。

 本当に幸せだなぁと、この幸福をしっかりとかみしめながら。


 一方、レッドハットベーカリーでは毎日のようにこんな光景が見られるようになった。


「リジュ。会いに来たよ」

「また来たのか、ガキ」

「ガキじゃなくてサーシャよ。リジュだって十歳までお漏らししてたお子様でしょ? よく、それを乾かそうとして風の魔法石を無駄遣いして怒られていたわ」

「!! 誰だ! ガキに変なこと吹き込んだのは!?」


 顔を真っ赤にしたリジェルの悲鳴が店内に響く。


「年の差が……十九歳? いけるかしら?」


 メリノは頬に手をあててぼやく。今二十六歳のリジェルに対し、サーシャはまだ七歳だ。

 

「いけねえよ!」

「大丈夫よ。私が十七歳になっても、リジュはまだ三十六歳よ。いけるわ。私、リジュがおっさんになっても、やっぱり好きよ」

「!!?」


 両親譲りの美しく優しい性格の娘に成長したこの子が、魔獣が殆ど現れなくなった平和な世界で幼なじみとの初恋を実らせることはできるのか。

 そのお話はまた別の機会に。






これにて完結です。

拙い作品ですが、最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。

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