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第二十二話 ミアの体調不良

 小さなお皿に盛られたご飯が殆ど減っていないのを見て、スーリアはため息をついた。今日も全然食べていない。


「ミア、今日も食欲無いの?」


 スーリアがミアの頭を撫でると、ミアは力無く『ミャア』と鳴いた。スーリアは優しくミアのお腹を擦ってやった。

 ミアは数日前から体調を崩しているようで、食欲がない。餌を色々と変えてみたが効果はなく、動物のお医者さんに連れて行ったが胃薬を出されただけだった。その胃薬はもちろん飲ませているが、あまり効果が見られない。元気の無いミアを見て、スーリアの気持ちも沈み込んだ。



 ***



 アルフォークは自身の部下達を引き連れて王都の郊外で馬を走らせていた。空間の歪みを監視している聖魔術師によると、この近くで空間の歪みが発生している。目的の地点による近づくとエクリードがアルフォークを呼び止めた。


「アル、そろそろだ。気を引き締めろ」

「承知しました」


 アルフォークは馬を走らせながら自身の腰にさがる剣を軽くなでた。そして、スーリアの花の包み紙が入ったポケットのあたりを鎧の上から触れた。前方から斥候をしていた部下がアルフォークに報告に戻ってきた。


「魔獣がいます。ファイヤーグリムが二匹です」

「ファイヤーグリムが二匹か。通常通りの戦い方で問題ないだろう」


 アルフォークは部下の報告に頷いた。

 ファイヤーグリムとは炎を操る魔獣だ。見た目は背筋の曲がった猿のようで、二本足で歩く。動きは猿並みに俊敏で、攻撃力は中級と言ったところだ。


 一つの対象にあまりにも沢山の魔法騎士で攻めると逆に上手く攻撃出来ない。ファイヤーグリムの大きさだと、精々こちらは三人だ。アルフォークは団員から素早く六人を選んだ。


「そうだな……。キャロル、行けるか?」


 アルフォークに指名された魔法騎士団で唯一の女性かつ最年少の騎士――キャロルは表情を固くした。キャロルはまだ十八歳で数カ月前に魔法騎士団に入ったばかり。雑魚の魔獣と戦ったことはあっても、中級クラスと実戦を交えるのは初めてになる。しかし、キャロルが力で劣る面を挽回しようと人一倍訓練にいそしんでいることアルフォークは知っていた。キャロルは緊張の面持ちで頷いた。


「はい。行けます」

「よし。キャロルの組には俺が入る。行くぞ!」


 アルフォークは自分を含めて六人を選ぶと攻撃開始の合図をした。魔法騎士は剣と弓と魔法で戦う。相手が炎なら打ち消す魔法――水や氷系が有効だ。アルフォークともう一人がその方向で落ち着いて攻めるのに対し、キャロルの動きはやはり硬かった。団長と先輩魔法騎士に圧倒されて手出しが出来ないのだ。そうこうするうちにファイヤーグリムも一番の弱点がキャロルだと悟り、キャロルに狙いをつけはじめた。


「キャロル! 一旦下がれ」


 アルフォークはすぐにその事に気づきキャロルに指示を出したが、キャロルはその指示に応える余裕を無くしていた。中級クラスの魔獣が正面から向かってくるのを見て、キャロルは軽いパニック状態を起こしていた。普段ならスラスラ出てくる呪文が頭から抜け落ち、隙だらけになった部下の姿にアルフォークは舌打ちした。


「キャロル、下がれ! くそっ!!」


 アルフォークがキャロルを下がらせようと近づいたとき、ファイヤーグリムが火撃を放った。キャロルを庇ったアルフォークが正面から火撃をくらう。燃えるような熱さが全身を襲った。


「団長!」


 先にファイヤーグリムを仕留めた三人が加わり、アルフォークが相手にしていたファイヤーグリムにとどめをさした。団員達がアルフォークに駆け寄った。


「アル、大丈夫か!?」


 団員を掻き分けてエクリードがアルフォークに近づく。エクリードはアルフォークの冑を外させた。白い肌は全体に赤らんでいるが、皮膚はきちんとある。


「全体的に軽い火傷だな。治してやる」


 エクリードはアルフォークにその場で治癒魔法をかけ、治療したのだった。



 ***



 王宮の執務室に戻ったアルフォークは鎧を脱ぐと下着から包み紙を取り出した。スーリアの花が入った包み紙だ。包み紙を開くと、中の花は予想通りに灰になっていた。


 アルフォークはこれまでの事を思い返した。初めてこの不思議な花の効果を知ったのはサンダードラゴンに襲われた時だ。その時、サンダードラゴンの雷撃を受けてもアルフォークは傷一つ無かった。その後もたびたび花の力には助けられたが、毎回無傷だった。それなのに、今回は軽い火傷を負った。


「なぜだ?」


 アルフォークは眉間に皺を寄せ、独りごちる。攻撃の強さから言えば、ファイヤーグリムの火撃はサンダードラゴンの雷撃の足もとにも及ばない。それなのに、サンダードラゴンの雷撃は無傷でファイヤーグリムの火撃は火傷を負った。

 まともに魔獣の火擊をくらって軽い火傷で済んでいるのだから、花の効果はあったはずだ。しかしこれは……


「花の力が弱まっているのか?」


 そうとしか思えないが、考えても理由は思い当たらない。アルフォークはルーエンに相談する必要があると判断し、魔法騎士団の制服に着替えるとすぐにルーエンの元へと向かった。


「ルー。少し気になることがあるんだ」

「気になること?」


 アルフォークが魔術研究所を訪れると、ルーエンは魔法のポーションを作製している最中だった。目の前の大鍋では何やら怪しげな薬草が沢山煮込まれている。濁った緑色のそれは、見るからに不味そうだ。


「スーの花のことなんだが―――」


 アルフォークは今日あった一部始終をルーエンに話した。ルーエンも眉根を寄せて難しい顔をしていたが、考えるように天井を見た。


「そういえば……ミリーが今日のリアちゃんは元気が無かったって言ってたな」

「元気が無かった? 体調不良か?」

「さあ? 僕もそんなに気にしてなかったから、詳しく聞かなかったんだよ。今日は顔を会わせてないし」


 ルーエンは目の前の鍋をかき混ぜながら申し訳無さそうに眉じりを下げた。ルーエンが目の前の大鍋をかき混ぜるたびに酷い悪臭が鼻につく。


「ルー、酷いにおいだ。何を作っている?」

「これ? これは僕が新しく開発したポーションだよ。なんと、動物に変身できる。アルも飲んでみる? 効果は数時間だよ」

「いや、遠慮しておく。忙しいところ邪魔したな」

「気にしないでいいよ。僕もこの作業が終わったら調べておくね」

「ああ、助かる。またな」


 アルフォークはルーエンと別れると魔術研究所のテラスから薬草園の方向に階段を降りた。薬草園の端の一画はスーリアの花畑になっており、沢山の花が咲いている。近づいてみたが、アルフォークにはいつもとなんら変わりないように見えた。


「夕方、様子を見にいってみるか……」


 花のことももちろんだが、スーリアの元気が無かったというのが無性に気になった。今日の勤務が終わったら様子を見に行こうと決め、アルフォークは花畑を後にした。



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