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第十七話 男の料理

 王宮の魔術研究所の一画。今日も煌びやかな三人組は優雅にテーブルを囲んでいた。


「これは世紀の大発見だ。なぜこのような不思議な花が生まれたのか、その理由をなんとしても解明しなければならない」


 凛々しい顔の眉を寄せて花を片手に力説するのは第二王子のエクリードだ。エクリードは右手に花を一輪高く掲げ、左手を胸に宛てると見えない女神に花を捧げるかのようなポーズをした。侍女の「きゃあ」と言う声が遠くから聞こえてくる。


 今日はルーエンの更なる研究成果を聞くためにエクリードとアルフォークはこの場に集まった。そこで聞くのは何とも不思議な話だった。


「まず、この花はやっぱり聖魔術の浄化の力がある。魔法陣で意図的に空間を歪ませてこの花を置くと、自然と空間の歪みが正される」


「勝手にか?」とアルフォークは確認した。


「そうだよ」とルーエンは頷く。


 空間の歪みというのは同じ場所で発生しやすい。聖魔術師が一度浄化しても、数カ月するとまた同じ場所に空間の歪みが発生して魔獣が現れるのはよくあることだ。

 ルーエンの話が本当であれば、そういった空間の歪み頻発地域にこの花を置けば、空間が歪むのを一時的に防止できるはずだ。


「あとは、御守りの効果がある。前にも見せたとおり、この花は攻撃魔法が効かない。そして、この花を身に着けておくとその人にも攻撃魔法が効かなくなる。アルがサンダードラゴンの攻撃を受けても怪我一つ無かったのは恐らくこの効果だよ」


「となると、聖魔術師や魔法騎士の団員にこの花を御守りに持たせておけば、怪我しないということか?」

「そうだね」


 聞き返したアルフォークにルーエンは頷いて見せた。


「それは凄いな」


 エクリードはルーエンの話を聞いて興奮気味に身を乗り出した。空間の歪みを正しに行くと、高確率で魔獣に遭遇する。彼らを討伐するのは魔法騎士の役目だが、常に危険がつきまとう。怪我も多いし、年に何人かは命を落とすこともある。それが花を身に着けておくだけで身の安全が確保できるなら素晴らしいことだ。


「スーリアちゃんに花を魔法騎士団か聖魔術師隊に卸してもらえないか正式に依頼すべきだよ」


 ルーエンはアルフォークを見た。アルフォークも頷き返す。


「わかった。スーに聞いてみる」

「スー?」

「スーリアだ」


 怪訝な顔をしていたルーエンはアルフォークの返事を聞いて目を見開いた。そして、にやにやと笑い出した。


「へえ、へえ、へえ!! アルが女の子を愛称で。珍しいな」

「別にいいだろう?」

「いいとも。でも、ふーん。アルはスーリアちゃんみたいな子が好きなんだねえ」

「そう言うのではない」


 アルフォークはムッとしたように顔を顰めた。


「別に隠さなくてもいいのに。アルって色々あって女の人が苦手だろ? 少しでも仲良くしたいと思える子が現れてホッとしたよ」


 ルーエンはアルフォークを見つめたりまま口の端を持ち上げる。アルフォークは居心地悪そうに視線を逸らした。


 アルフォークには二人の姉が居る。その美貌から社交界で『白薔薇姫』『白百合姫』とそれぞれ賞賛される二人だが、アルフォークからすれば可憐な花とはほど遠い二人組だ。

 可愛らしい見た目だった幼少期のアルフォークはこの二人から人形代わりに散々弄られた。着せ替えごっこでドレスを着せられたり、髪を結いあげられたり、挙げ句の果てに下手くそな化粧をされてお姫さまごっこにかり出されたこともあった。まさにアルフォークの中の黒歴史である。


 アルフォークはその反動で強い男に憧れて騎士を目指した。騎士学校にいくと一気にモテ始めたアルフォークをここでも女難が襲う。揉みくちゃにされて私物を持ち去られたり、服を破かれるのは日常茶飯事。アルフォークと仲良くなりたい女の子達が喧嘩を始め、仲裁に入ったら何故か平手打ちを食らったこともある。

 そして魔法騎士団に入っても女難は続く。舞踏会で飲み物に媚薬を混ぜ込まれたり、待ち伏せされたり。そして、極めつけがプリリア王女だ。毎度毎度、顔を合わせるたびに我が侭に付き合わされて本当にうんざりである。

 そんな中で出会ったスーリアは、アルフォークにとって今までに居ないタイプの女性だった。おっとりとして控えめ、いつもにこにこしている。一緒にいても全く疲れない女性はアルフォークにとって初めてだった。 


「そのスーリアとやらに俺も会いたいんだが?」


 エクリードは興味深げに身を乗り出した。両手をテーブルにつき、青い瞳をキラキラさせてアルフォークを見ている。


「正式に取引出来るようになったらきっと会えますよ。殿下の名前で取引許可証出して貰うんで」とアルフォークは素っ気なく言い放った。


「いや、今日あたり会いに行こ「それよりアル、この彩りサラダと煮物はなんなの?」


 エクリードの会話を遮るように今度はルーエンがテーブルに置かれた皿を持ち上げた。皿にはレタスやきゅうり、トマトが混ぜ込まれた彩りサラダが盛られ、その他にナスのトマト煮込みが盛られてた皿もテーブルに置かれている。


「料理だ」

「それは見ればわかるけど」

「スーが育てた野菜を使って作った。これだ。食べたら防御力が上がるかも知れない」


 アルフォークは持っていた袋から瑞々しい野菜を取り出した。赤く熟れたトマトの香りがすんと鼻腔を掠める。


「なるほど。野菜もあるのか」


 ルーエンは一転してまじめな顔になるとカットきゅうりを摘まみ、炎の攻撃魔法をかけた。カットきゅうりのまわりに防御壁ができる。それを確認して、ルーエンはきゅうりを口に入れた。


「うまいか?」

「まあ、きゅうりの味だけど? 防御力上がったのかな? ちょっとこれだけじゃわかんないな」

「もっと食べてくれ。沢山作った」

「……アルが作ったのか?」


 隣で眺めていたエクリードが怪訝な顔で問うと、アルフォークは和やかな笑顔を見せた。


「これからは男も料理が出来た方がいいと気付いたのです。煮物は作るのに二時間もかりました。殿下もどうぞ」


「そうなのか? それは初耳だな」


 エクリードは意外な話に目を丸くし、おずおずと料理を口に運んだ。


「まあ、うまいな」

「それは光栄です」


 魔法騎士団長が噂の二人に嬉々として料理を振る舞う姿は複数の侍女に目撃されたのだった。


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