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闇雲怪奇譚  作者: くろすけ。
7/13

6 〜トイレの花子さん〜


                6



 「どうぞ、お入り下さい」

 「おっ、お邪魔します」

 出されたスリッパに履き替えながら、裕佳梨は辺りを見渡した。

 玄関を上がった左右に一つずつ扉があり、額縁に入った絵画が飾ってある廊下は、さらに奥に進んでいて、その途中に2階への階段が見えていた。

 外観の印象が崩れる事なく友達の家に遊びに来たような気持ちだ。

 そんな様子の裕佳梨に気づいたかどうか分からない若井は、左側の扉に近付きノックをしていた。

 「光太郎さん、お仕事の依頼者の方がお見えになっていますよ」

 すると室内から男性の低い声が返ってきた。

 「・・・・・・うぃ〜 どうぞぉ〜」

 ————なんか物凄くダラケきった声だなぁ・・・・・・大丈夫かな?

 隣に立っていた若井は、八の字に眉を動かしながらノブに手をかける。

 「ごめんなさい。最初は、ちょっと取っ付きにくいかもしれませんが、慣れると可愛く思えてくるので・・・・・・きっと」

 ————いや、きっと————って!

 一抹の不安を感じながら部屋に入るとそこは、左手の大きな窓から素敵なお庭が見える書斎のような部屋だった。

 窓以外の三面の壁に設置してある巨大な本棚には、沢山の書物が並んでいた。右手奥には、デスクと肘掛けが付いた椅子があり、その上にパソコンなどが乗っているのが見える。

 そんな部屋の中央には、長方形の木のテーブルと、それを挟む形でソファーが置かれているのだが、今はその片方に男が寝っ転がっていた。

 「くっかぁぁあああ・・・・・・かぁあああ・・・・・・」

 「・・・・・・」

 細身の体型に白シャツとブルージーンズのコーディネートはシンプルだがよく似合っていた。ただ、仮にもお客様の前で裸足というのはどうかとは思うが————。

 「ちょっと、光太郎さん! 起きて下さい! お客様の前ですよ!」

 若井が慌てて揺り動かすと、薄っすらと目を開く、その人と見つめ合ってしまった。

 前髪が長めの無造作ヘアに切れ長の目、外国人のように高い鼻。ダラシない感じなのに見た目は超イケメンだ。同級生にはいないタイプなのでドキドキしてしまう。

 そんな裕佳梨が見つめる光太郎と呼ばれた男性は、突然ため息混じりの小さな声を発した。

 「・・・・・・はぁ? 知らねぇよ。勝手に来たんだろ————」

 「えっ?」

 急に言われた言葉に頭を捻る裕佳梨は、若井に促されて向かいの席に腰を下ろした。

 それを見届けると、テーブルの上にあった黒縁メガネを掛けながら、男性は自己紹介を始める。

 「ども、闇雲光太郎です。よろしく女子高生さん」

 「じょっ————あっ、青山裕佳梨と言います」

 お互いの挨拶が終わると若井が、お茶を用意してくると言って、部屋の外に出て行ってしまった。

 緊張している裕佳梨とは対照的に闇雲は目の前で頭をガリガリと掻いていて大欠伸をしている。よくよく見ると、結構若く自分とさほど年齢が変わらなさそうなどと考えていると、向こうから声を掛けてきた。

 「君は、神童学園の生徒か」

 「えっ、なっ、何で分かったんですか?」

 凄い、何かの超能力なのか。そういえば、女子高生と言い当ててもいた————。

 しかし、驚きと期待に満ちていた裕佳梨を、闇雲は残念そうな顔で見つめていた。

 「・・・・・・今、自分さ・・・・・・どんな格好してんの・・・・・・」

 「・・・・・・あっ」

 忘れていた。何て事はない、制服を見れば一発で分かる。

 恥ずかしくて顔を伏せたが、真っ赤になってしまったのはバレバレだろう。

 「もしかして、アホか・・・・・・」

 闇雲の口からボソっと心の声が聞こえてきた————いや、声が出てるから悪口だ。

 見た目はタイプだが中身が最悪! とイライラした裕佳梨だったが、本来の目的を思い出して気持ちを抑え、姿勢を正すことにする。

 「あの、最初にお尋ねしたいんですけど、闇雲さんは目には見えないモノに関するお仕事をなさっているんですよね? それは、幽霊などと思っていいんですか?」

 「はい、そう思ってもらっていいですよー」

 あっさりとした返答に裕佳梨は悩んだ。果たしてこの人物は信用できるのか。いわゆる霊能者と言われる人たちは、後藤静香が言っていた通り、詐欺師などが多いのはテレビなどで知っている。

 簡単に信用してはいけない————。

 「まっ、こう言っても信用できる人間なんて、二割もいないけどねー 君も信じていないんだろ?」

 「・・・・・・」

 「やっぱな」

 こう言うという事は、やはり日頃から詐欺師と疑われているのだろう。確かに信じ辛いが、嘘を付いているとも思えなかった、根拠は無いし、女のカンと言われたら・・・・・・そうだが。

 ————ガチャ。

 「お待たせいたしました」

 先程出て行った若井姫奈が、お茶とお菓子が乗ったお盆を持って現れた。

 「紅茶をどうぞ、それと私の手作りなんですけどマドレーヌも良かったら」

 「わぁ、美味しそうですね。いただきます————」

 ニコッと可愛らしい笑顔で若井はペコッとお辞儀をして、闇雲の隣に腰を下ろす。

 目の前に座る美男美女を見ていると、おしゃれなカフェに来てしまった気分になってしまい、自分が酷く場違いな気がした。

 そんな事を思う裕佳梨の前で二人は、仲良くマドレーヌを呑気に頬張っていた。

 「もぐもぐ・・・・・・ごくっ。それで、どうする? 依頼なら一応コッチも仕事なんで話を聞くけど。俺の事を信用出来ないなら帰った方がいいぜ」

 「・・・・・・」

 まだ、この人のことは、よく分からないが、このまま赤井絵美を殺害したのが誰かも分からないのは絶対に嫌だ。

 少しでも可能性があるなら・・・・・・私は。

 「お願いします・・・・・・私の友達を殺した犯人を見つけて下さい」

 



 闇雲光太郎と若井姫奈に神童学園で起こった、赤井絵美殺害事件と現場で噂されていたトイレの花子さんの話を出来る限り詳しく説明した。

 その話を黙って聴きながら、真剣な表情で何故か闇雲は裕佳梨をジロジロと見つめていた。

 その表情にドキドキしながらも、何とか話を終えた裕佳梨は少し冷めてしまった紅茶に口をつけて一息つく。

 「————なるほどな、まぁまぁ分かったわ。さっきはアホの子かと思ったけど、意外とまとまってて分かりやすかったな・・・・・・ね、姫奈さん」

 「そうですね————って、青山さんに失礼ですよ! 光太郎さん!」

 ————あぁ、もう遅いですよ若井さん・・・・・・もう私の心のライフはゼロです。

 ただ、ちゃんと伝えられたようで良かったと思い、ボロボロになった心に鞭打って、無理矢理顔を上げた。

 「あの、それでどうなんでしょうか? 絵美ちゃんは、その花子さんに殺されたんでしょうか?」

 裕佳梨が質問すると、闇雲は眼鏡を外して虚空を見つめ始めた。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 そのまま沈黙が続いていたが、隣に座る若井は特に気にする様子はなくティーポットで紅茶のお代わりを淹れてくれた。

 「・・・・・・分かんねぇか」

 「はい?」

 しばらくの沈黙後、突然ボソッと声を発せられたので、ビックリして紅茶を吹き出しそうになった。

 「んっ? あぁ、コッチの話だから・・・・・・いや、ソッチの話か————」

 眼鏡をを掛け直した闇雲は、無造作ヘアーを掻き回しながら何かを考えているようだった。

 「————光太郎さん。これが神童学園で起きた事件についての警察の見解です」

 いつの間にノートパソコンなんて出したのだ————と驚いている裕佳梨をよそに、闇雲は隣から差し出された画面を凝視していた。

 「テレビで報道されている情報以外だと、現場から採取された指紋の数は多く、確認にはかなりの時間が掛かるという事と、現場に残されていた無数の傷跡の他に僅かですが〝何かの毛〟のようなものが落ちていたそうです。今は鑑識に回されて調査中ですね」

 あれ? 何で世に出回っていない情報が分かるの? という疑問をぶつけたかったが、若井さんが笑顔で無言の圧力をかけてきたような気がしたので黙る事にした。

 「・・・・・・ふ〜ん。まぁさすがに、これだけの情報だけだと判断は難しいけど————可能性はあるな」

 「ほっ、本当ですか!」

 「もしかしたら、どこかの変態快楽殺人犯の可能性もまだあるが・・・・・・ちょっと気になることもあるし、夜にでも旧校舎に行ってみるわ」

 「えっ! 今夜ですか!」

 いきなり過ぎないかと慌てる裕佳梨を無視して、闇雲は若井にいくつかの指示を出し、それが終わると立ち上がって奥のデスクの方に歩き出した。

 「あ〜と、青山————だっけ? もう帰っていいぞー 何か分かったら報告するからー」

 「はっ? えっ?」

 ————いっ、いきなり呼び捨てって、しかも帰れって。

 「多分、今日の夜にはケリはつく————てか、つけなきゃ・・・・・・このままだと、また犠牲者が出る可能性がある」

 そう言った闇雲の目つきは、さっきまでのボケっとしたものではなく、熱い火が灯ったような鋭さがあった。

 「・・・・・・あとは任せておけ。俺が必ず犯人を見つけ出して、ボコボコにしてやっから」


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