1 〜トイレの花子さん〜
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赤井絵美は、神童学園高等部の二年生であり、なおかつ軽音部に所属する女子高生だ。
生徒たちの癒しの時間であるお昼休みには、軽音部の部室である音楽準備室で仲の良いメンバーと昼食を取るのが日課になっている。
いつも通りの馬鹿話をしている中、一年生の後藤静香が不気味なトーンで、ある噂話を語り始めた。
「皆さんは知っていますか? この学園に出る花子さんの話を————」
その場にいた全員の目が後藤の方に向く。
「・・・・・・花子さん? 誰それ?」
絵美は、右手に持っていた焼きそばパンを頬張りながら問いかける。
「えぇー 絵美先輩知らないんですかー? 花子さんですよ、トイレの花子さん! 学校の怪談の定番じゃないですか!」
「あぁ、聞いた事あるわー。小学生の時に流行ってたかも。でも最近じゃ、めっきり聞かないじゃん・・・・・・あ〜ん、もぐもぐもぐ・・・・・・」
右手の焼きそばパンの最後の一切れを食べ終え、今度は左手に持っていた卵サンドにカブリ付く。
「あ〜ぁ。何か勿体無いですよね、絵美先輩って。そんなに美人なのに食べている物が可愛くないです」
そう言って後藤静香は、微妙な表情をしたまま自分の弁当に手をつけた。その可愛らしいピンクの弁当箱には、何やらカラフルな色の野菜などが入っていて、いかにも華の女子高生と言った感じだった。
「うっ、うるさいわね! いいのよ、私はこれが好きなんだから!」
自分の女子力の無さに、若干絶望しつつも絵美は話題を戻す事にした。
「それで、そのトイレの花子さんがどうしたって?」
「おっと、そうでしたね。 今、一年生の間で噂になっているんですけど・・・・何でもこの学園にある旧校舎3階の女子トイレには、花子さんがいるらしんですよ。」
えぇー 何か胡散臭い。本当? などと、他のメンバーは信じられないと言った空気だった。
「信じられないかもですけど、花子さんを見た女子生徒もいるんですよ!」
絵美は昔から怖い話だったり、お化け屋敷の類は平気な方だった。むしろ、実際にはいない物を信じて怖がっている人を見て、不思議に思ってたくらいだ。
「分かった、分かった。 とりあえず見たって言ってる、その女子生徒の話を聞かせてよ」
卵サンドを食べ終え、机の上に置いておいた紙パックのオレンジジュースにストローを刺しつつ、絵美は話を促した。
「いいでしょう! 驚かないで下さいよ! 話は、その女子生徒が先週の金曜日の放課後に、部活で使っていた道具を旧校舎に片付けに行っていた時に起きたんですけど・・・・・・」
「ちょい、タイム! 旧校舎に道具を片付けにって、その子どんな部活に入っているのよ」
旧校舎はこの神童学園の北西の隅にある、木造三階建ての建物。
元々は、特別教室用の建物として機能していたが、平成に年号が変わる時に、現在私たちが使用している新校舎が建てられ旧校舎は、ほとんど物置になってしまっていた。
普段は鍵が掛かっており、スポーツ系なら部室棟の横に倉庫が。文化系なら新校舎での活動が主なので道具類は空き教室とか準備室とかに置いてある。
「その子、演劇部なんですよ。ほらっ、うちの演劇部って歴史が古くて、元々は部室も旧校舎にあったんで、舞台とかで使う小道具とか音響機材とかは全部、旧校舎に置いてあるらしくて」
————ほぉ、そうなのか。
飲み終わった紙パックをゴミ箱へ放って、「少し食べ過ぎたなー」と絵美がお腹をさすっていると静香は改めて話し始めた。