あの香り、再び
「おぎゃーおぎゃー」
「ハァ…ハァ…生まれたわ」
「よく頑張ったな」
この感じ、少し前にも味わった事がある。
肌寒さ、ぼやける視界、動かない体、喋れない口。
ザ・赤ん坊。
そして口に含まれるアレ。
吸う。
『うぉぇッ!! 生臭ぇ…』(心の声)
ゲホッゲホッと咽る僕にあらあらと背中をトントンする母親。
いくら早熟とはいっても生まれた直後に母乳とか無理じゃない?
人間はそこんとこどうなんだろ…。
ぼんやりとしか見えないが、恐らく生き返った訳でなく本当に転生なんだろう。
生臭い乳の味の違い、母ゴブと父ゴブの声、しなびたキュウリじゃないもうちょっと張りのあるおっぱい。
これらの要素が「前と違う」という事を如実に感じさせてくれた。
『今回は…見えない目でも分かる。洞窟じゃない。外だ…陽の光…木漏れ日かな?』
肌に当たる光は暖かく…っていうより暑くね?
洞窟は温度がほぼ一定だったから過ごしやすかったけど明るい分だけ暑い!
「おぎゃーおぎゃー!」
「お腹すいたのかしら?それとも眠いの?」
「よくわかんねぇなぁ……任せるわ」
「おぎゃー!」
おっぱいを吸わせてもすぐに吐き、腹が減っては眠れぬ。
暑さも相まって眩暈とか吐き気とか頭痛もしてきた…あれ、これやばくね?
熱中症的なアレでは?
「おんぎゃ……おぎゃ……」
「なんだか声が小さくなってきたわ、眠くなった?」
「やっと静かになったかよ…ふあぁ…」
この糞父ゴブリンめ、もうちょっと世話しろよ!
母さんだけにやらせるな!
そしてどう見ても第一子って感じで扱いに慣れていない二人だな?
周りにサポートできる家族も居なさそうだしもうだめじゃん…
「おぎゃ………」
僕の意識はそこで闇に落ちた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「はははははははは!!wwwwwwww」
「笑いながら草生やすな」
「ひぃーwwwwひひひひひひひwwwwwだってwwwww転生して数時間でwwwww死ぬとかwwwwww」
「せめて草は3個までにしておけよ…」
早々と燃えないゴミとして再度この神様(糞ガキ)の元に帰ってきてしまった。
これは僕だって想定外だよ。
死にたくて死んだわけじゃないし。
「はぁー…腹痛いわ。まぁあの親は外れだね。部族から抜けて放浪の末に君を出産。援助も経験も無ければ子供は難しいだろうねー。死んだと分かれば明日か明後日にもう一度励むんじゃない?」
「早熟、多産ってのは分かるけどさぁ…」
「後は炎天下ってのも悪かったね、本来胎児に直射日光有とか焼き殺すのかって感じだし」
「…最初の所は恵まれてたんだなぁ」
「どうする? このまま抜かずの2回戦いっちゃう?」
「…場所とか選べないの?」
「飲み終わった缶をどこにポイ捨てするかなんて気にしないでしょ」
うわー、血筋とか家柄とか生まれた瞬間勝ち組とかあるけどさぁ…。
転生先がポイ捨てで適当に決められている身にもなってみろよ。
「やだよ。神は死んでも神にしかならんし」
「だから心読むなっつーの」
「生まれガチャならリセマラでもなんでもしてやるわ!」
「んじゃ、ポイっとね」
「もうちょっと特別なイベントっぽくやr――――
「おぎゃー…」
2度ある…のほうか、3度目の…か。
ひどく陰鬱な顔の赤ん坊がここに産声を上げた。
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