皆殺s…サブタイではネタバレは控えようね
人間が攻めて来た。
数は不明。
僕と母さんを含めて20人…体?が族長の部屋に避難していた。
みな怯え、子供らは母にしがみ付いていた。
そうだよな。
誰だって怖いよな。
「父さん、大丈夫かな?」
「きっと大丈夫よ。父さんはこの巣で一番の雄だもの」
「へー」
族長が部屋に戻って来た。
いつもは持っていない剣…お世辞にも良い物ではないと思う。
鎧も使い古しなのか、人間から奪ったのか穴あきだ。
「みな、聞いての通り人間が攻めてきている。相手の数は分からんがここまでくる可能性もある。今のうちに避難を始めてくれ」
「ほら、坊や。いきましょう」
「はい」
広場の奥に小さなわき道があり、別の部屋へ繋がる通路。
全員が出たらここを岩か何かで塞ぐのだろう。
こんな子供だましで見逃してもらえればいいけど。
息をひそめて何時間経っただろう。
微かに響く喧噪は徐々に近づいている気さえした。
泣き出す子も出始めるが母親が口を塞いで抱きしめ、声を漏らさないように必死だ。
もし鳴き声でここの存在がバレれば只では済まないだろうし。
2時間か3時間か、一晩か。
いつの間にか喧噪が消えていた。
子供たちは疲労からか寝息を立て、母親たちも緊張からか疲れた顔の者が多い。
と、ズズズ…と岩を退ける音が聞こえた。
その音は良く響き、寝ている子らが起きる。
母親たちもその音が戦いが終わったものと思い、出口に向かう。
「…扉を開けたのに族長とかの声が聞こえない」
「え…?」
「母さん、みんなを呼び戻さないと。扉を開けたのは人間かも知れない」
「まさか――」
そのまさか、が即座に現実のものとなった。
「ギャッ!」
「ギィィィ…」
「キィー…」
「%*$AF#D*E/!!」
「&?A##EA=」
「EC-D#=-*E=!」
言葉は分からないが、直観的に理解できた。
「見つけた」「居た」「殺せ」的なニュアンスだ。
松明に照らされたその顔を見れば嫌でも納得できる。
剣から滴る赤い液体。
動かない子供。
転がった頭。
ここは隠し部屋だけに袋小路だ。
逃げ場はない。
意を決した母親たちが襲い掛かるが、無手に加えて人間とゴブリンの体躯の差が立ちはだかる。
刺され、蹴られ、潰され…僕の母もあっさりと首を切られて動かなくなった。
人間だった頃を忘れた訳では無い。
ゴブリンになったつもりもない。
でも、親として愛情を注いでもらった事を忘れるほど人でなしでも無い!!
「よくも母さんをおおぉぉぉ!!!」
母ゴブよりも更に一回りも小さい僕が何か出来るとは思わない。
何か、一矢報いるにはと思った時には飛び出していた。
相手はこちらに背を向けている30代くらいの男。
もう子供しか残ってないと慢心した所に飛びかかる。
「@EFC=?&!!」
背中に飛び乗り頭皮に人間よりは若干鋭い爪を突き立てる。
絶対に離すもんか!と両足は首に回し、まるで肩車をされているようだ。
「#*+&$/#CA!!」
相手は人間、人間だと思う。
で、あれば弱点や急所も同じはず。
肩車状態のまま、こめかみを何度も殴る。
非力なゴブリンの力でも急所であればあるいは……――
「あ…? 背中…熱――」
次に感じたのは衝撃、痛い…天井が見える。
耳鳴りが酷い。
体が動かない。
「*E!*/C*=%$C@AD$?FC#$!!」
ああ、寒く感じるのは血が流れているからだ。
頭もあまり働かない。
何か喚いているが恐らくは「この糞ゴブリンが!」といった所だろう。
振り上げた剣は僕の胸に突き立った。
熱い。
脇目に見えるのは僕の蛮行に触発されたのか他の子らも果敢に立ち向かう姿だった。
どの子も何もできずに殺されている。
あぁ、ゴブリンになっても死ぬのは…怖いんだなぁ…。
寒いと暗い。
最後に感じたのはその二つだった。
プロローグとしてはこんなもんでしょ(妥協