第八話 ランナー
(はっ、はっ、はっ────!)
俺は今ランニング中だ。
最初はまだ新しい体に慣れていなかったため足がもつれていたが、練習を重ねた今ではかなり上手く走れるようになった。
トカゲの体は思いの外速く走れるらしい。
シャァァァ────────
後ろに見えるのは何かって?
蛇を追わせてるんだ、敢えてね。
やっぱり緊張感がないと身が入らないだろ?
適度な緊張感は人間を成長させる。
今はトカゲだけど。
キシャァァアア──────!
(─────って本気でヤバイ!)
現実逃避している場合ではないのだ。
スタート時点でかなりあった蛇との距離は、もうすでにほぼ無くなっている。
(細い脇道はないか?!)
≪周囲に脇道はありません。≫
現実は非情である。
情報開示さんはこんな時も冷静だなぁ。
シャァアア───!!!!
(お前はちょっと黙れや!)
そう心の中で罵倒を浴びせながらも必死に走る。
残念ながら弱者には選択権がないのだ。
(逃げながらステータス確認出来るか?!)
身を捩りながら蛇を一瞥する。
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【名前】なし
【性別】♂
【年齢】0歳
【種族】ブラックスネーク Lv1
No.1 しめつけ Lv1
No.2 毒─────
─────ゴッッッ!!!!
視界いっぱいに広がる開いた口。
驚きで硬直する中、象牙のように巨大な牙が俺の肩を掠めた。
(今のはヤバかった…………)
戦いながらのステータス確認は難しい。
前回そう学んだはずなのに、既に同じ失敗を繰り返している。
知識欲にはなかなか勝てないものだ。
今回は無理な姿勢で振り向いたことが候を奏し、奇跡的に避けることが出来た。
しかしこのままではすぐに補食されるだろう。
冷静に見て向こうの方が速い。
スピードで負けている以上、生き残る手段は限られている。
それでも。
(───────死にたくねぇ!)
理由は単純。
それゆえに純粋で力強い願い。
その想いは今、俺にあって蛇にはないものだ。
全力で走り続ける。
体力など気にしない。
息が苦しい。
足が重い。
心臓が悲鳴を上げる。
すぐ背後から蛇の気配がするが、もう後ろを気にする余裕はない。
疲れきった頭から恐怖や焦りが消え去っていく。
頭の中が真っ白になる中、残ったものはひとつだけ。
速く。
───速く。
──────より速く。
どれだけ走ったのだろうか。
突然にそれは起きた。
クンッ、と。
まるで背中を押されるように。
全速力であったはずの俺の足が、少しだけ速くなる。
決して劇的ではない。
ほんの少しだけの変化。
自分では気づけないが、少しずつ、少しずつ。
蛇との差が開いてゆく。
(うおぉぉぉ─────!!!!!)
そして視界に現れる光。
この体になって初めて浴びるその明るさに目が眩む。
やがてその光は徐々に視界全体に広がり─────
一匹のトカゲがウサギの巣穴から飛び出した。




