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おしどり夫婦へ  作者:
18/22

第18話 誰とも比べられない

「孝介・・・?孝介!」

 はっとして顔を上げると、僕は我に返った。一瞬、自分がどこで何をしているのかわからなかった。しばらくして、ようやく僕の家で美咲と一緒にいることを思い出したとき、彼女が不思議そうな顔で僕の顔を覗き込んできた。

「どうしたんだよ。ぼーっとして」

「や、なんでもない。ごめん、考え事してたんだ」

 高見学に美咲を好きだと宣言されて2日たつ。この頃の僕はそのことを考えてばかりいる。まさか結婚まであと3ヶ月というときにライバルが現れるなんて思ってもみなかった。たぶん、美咲が感じていた視線というのも高見だったんだろう。

 結婚しても美咲を束縛する気はないので、誰と遊びに行こうがいちいち気にすることではない。しかし、相手が美咲を好きなら話は別だ。

「そういや、美咲、タイに知り合いがいるって言ってたよな?それが高見さんのことなの?」

 内心の不安を悟られないようにして、僕はなるべくいつもどおりに話す。

「学もだけど、学のお姉ちゃんにも会いたいんだ。(しのぶ)っていうんだけど、あの人もいい人。キョーダイだけど、同じ学年なんだ」

 言いながら、美咲は僕のことをじっと見てくる。たまにくるこのまっすぐな視線になぜだか照れくさくなる。だけど、今日はより一層にらむように見てくるような気がする。

「え・・・?何、か?」

「誤解すんなって言っただろ」

「してないよ」

 僕はそっぽを向く。この態度を不審に思ったのか、美咲はなぜか僕の首を絞めてくる。いや、苦しいんですけど・・・

「なんもねーよ!誤解すんな。されたら困るんだよ」

「わかってるよ。わかってっけどなー・・・」

 そのとき、僕は美咲の髪の毛に白い糸くずがついているのに気づいた。なにげなく取ろうとして手を伸ばすと、彼女の耳に触れた。と、美咲は急にびくっとなって縮こまってしまった。僕は糸くずを彼女の目の前に差し出す。

 美咲は驚いたような顔で固まっていた。

「何もしないから大丈夫だよ」

 苦笑して僕が糸くずをごみ箱に捨てるのと、美咲が後ろから僕に抱きついてきるのはほぼ同時だった。

「違う・・・孝介だったら・・・・・だー!恥ずかしいんじゃ!言わすな!ボケェ!!」

 そのまま僕の体を放り投げ、僕は空を飛んだ。気がついたら、美咲は怒ったからか羞恥心からか僕の部屋から飛び出してしまっていた。僕はというと、背中を思いっきり打ち付けてしばらく動けないでいた。


 久しぶりに大学のサークル室を訪れると、珍しく誰もいなかった。なんだと思いながらなにげなく黒板を見ると、『葉山先輩、結婚おめでとうございます!』とかヒューヒューとか書いてあった。明らかに三田と思われる字で、『子供ができたら報告しろよ』とも書いてある。

「あ・・・葉山先輩!」

 驚いて振り返ると、今まで少し避けていた木下愛の姿があった。

「春休みになったらみんなで先輩の結婚祝いをしようって話し合ってたんですよ!でも先輩全然来ないから・・・」

 ブーツをこつこつと鳴らしながら、木下は僕に駆け寄る。

「先輩・・・ううん。こーちゃん。結婚おめでとう」

 つきあっていた頃の呼び方で呼ばれて少し驚いた。でも、今だから言えるのかもしれない。僕も素直に笑い返すことができた。


「今だから言うけど、こーちゃんは私が今までつきあってきた人の中で1番最低でした」

 しばらく2人で話し合っていたとき、ふいに木下がそんなことをつぶやいた。もちろんわかっていたことなので、僕は苦笑いをしてうなずく。

「だって俺疲れたような顔してたんでしょ?」

「うん。初めてこーちゃんを見たときに若々しさより10歳年とっちゃったカンジ」

 ()けたのか・・・確かにジジ臭いと自分で思う。

「ねぇ・・・今幸せですか?」

 僕はその質問に一瞬言葉をつまらせた。普段の僕だったら迷うことなく幸せだと答えるのだろうが、高見の出現以来おもしろくないことが続いている。どうしてもそのことが気になってしまって、情けなくなってしまう。

「何かあったの?」

 心配そうに覗き込んでくる木下。僕は少し笑った。

「なんつーか・・・ライバル登場ってやつで、俺、今どうすればいいかわかんないんだよ」

 本当に情けない。昔の彼女に何を言っているのだろうか。それでも僕は木下に返事を求めていた。こんなふうに相談できる相手なんて、僕にはそんなにいないのだ。やがて、木下は口を開いた。

「そんなの私だって知らないよ。自分で確かめてみるのが1番早いんじゃないの?」

 その通りだ。当たり前すぎる答に僕は笑えてしまった。木下がきょとんとしたような顔で見てくる。ようやくすっきりしたよ。美咲に会って、彼女の気持ちを確かめてみよう。

 今日はサークル室に来てよかったと思う。木下とも話ができたし、自分の気持ちにも整理がついたから・・・・・


 週の後半の木曜日、僕は事前に美咲に電話をしておいて、彼女の家に向かうことになっていた。表向きは結婚式の準備のためだったが、僕の真意は別にある。

 ちなみに、お互いに自転車通いをしていた。車を使ってもいいのだが、美咲の家はともかく、僕の家には停める所がないのと、二酸化炭素削減のために地球に優しくいこうと美咲が言い出したので、僕はいつも超ハイスピードで自転車をこいでいる。

 その日も、学校帰りに自転車を走らせていたとき、彼女の家のすぐ傍にある公園に見知った人の姿を見た。

「高見・・・何してんだ」

 相手がいないと敬語を使わないどころか、さん付けもしなくなる。とにかく高見が公園を散歩しているのだ。あまり乗り気ではなかったが、後を追ってみることにした。

 そして、信じられない光景を見た。

 それはあまりにもゆっくりな光景で、高見が美咲を抱きしめたのだ。

「ずっと好きだった!」

 はっきりと耳に残る高見の声。

 そのとき、僕が飛び出してしまいそうになるほんの少し前、美咲が思いっきり高見をぶっ飛ばしているのが見えた。僕は思わずその場で固まった。

「ごっごめ・・・いきなりだったから・・・」

 美咲が慌てて高見に駆け寄る。腹を押さえて彼は起き上がった。

「そんなに嫌われてるなんて思ってなかった・・・・・」

「ち・・・違う!学のこと嫌いなわけないよ!・・・でもそういうんじゃないんだ。私は・・・誰とも比べられないくらい好きな人がいて・・・ほんとに孝介が好きだから・・・だから」

 これ以上僕が聞いてはいけないような気がした。僕は自転車を引いてその場を離れた。


 ここから先は後になってわかることだ。

「はぁ!?俺がいること知ってて告白したのか?」

 僕の家に遊びに来た高見はそんなことをけろりと言ってのけた。おどおどしている様子はなく、むしろ楽しんでいるように見える。

「はい。美咲ちゃんが好きなのは昔の話です。今はタイに恋人がいるんです。でも、彼女に話しかけるのはやっぱり緊張します。それほど美咲ちゃんが大切だったんです。だから、葉山さんを試しました。美咲ちゃんをちゃんと守れるのかどうか・・・」

 そう言って、くるりと僕のほうを向いた。

「美咲ちゃんには葉山さんが必要みたいだし」

「・・・・・・俺にも美咲が必要なんです」

 僕は照れることなく答えた。そして、後ろにいた美咲に顔を向けた。彼女は挙動不審にしている。どうやら、あの告白のときに僕がいることを美咲は知らなかったらしい。

「そんなに俺が好きだったんだ」

「うるさい!!」

 嬉しくてがばっと美咲に抱きつく。しかし、次の瞬間、僕は数秒間空を飛ぶことになった。僕には決して謝らなかった。


 誰とも比べられない。僕も美咲が大好きだ。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

物語はそろそろ終わりに近づいてきました。

どうか最終回までもう少しお付き合いください。

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