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つわものたちの夢の跡(30日目)

翌日…俺にしては久々に8時なんて早起きした。


ま、迎えは10時半てことなんでまず本気でかる~く朝飯食って(…ってのも多分祝賀会ってからには旨いもんくらいは出すんだろうから、朝食い過ぎたらマジそのごちそう食えないし)シャワー浴びて普段着に着替える。


今日が正念場…だよな。


ネットゲームは完全に終わったわけだから、今日を過ぎたら自分からアクション起こさないとアオイと会うきっかけがなくなる。

電話ではよく話したけど実際に会ったのはあの事件の日、たった一回きりだからなぁ…。


なんて切り出そう…。

コウに言ったみたいにまた皆で遊びに行こう…が無難なのかな、最初は…。


そもそも…姫がどんな子なのかわからんよな。

あの…美少女キャラは…まあコウの一件もあるからありえんとは断言できんのだけど、あの天然お姫様キャラそのままっていうのは普通にありえんだろうし…。


顔わからないより性格わかんないってのがちと怖いよな…。

あの天然っぷりが思いっきり演技で実はうちの姉貴並みとかだったらどうしよう…。

一緒に遊ぶどころじゃないよな。


まあ…その場合はコウ頑張ってくれってことで…俺はアオイと…。


…なんて外道な事をあれやこれや考えているうちに迎えがきた。


なんつ~かご立派なハイヤーだったりするんで、親兄弟びっくり。

一応…三葉商事が開発したゲームのテスターのバイトやってて今日打ち上げって話にしておいた。


そしてどこ行くかもわからないまま拉致られる俺。

そのまま俺ん家から車で15分くらい。普通のマンションの前で止まる。

そのマンションの前ですでにスタンバッてるのは…アオイだっ!ここアオイん家だったんだ~!!


「おはよっ、アオイ」

と俺が車の中から手を振ると、アオイも笑顔で手を振って車に乗り込んでくる。


そのまま二人で他の面々のリアルの姿を想像しながら盛り上がってると、俺らを乗せた車は都心の某有名ホテルに入って行く。


背広の男に案内されてそのままエレベータで上に上がり、主催が用意してる広間についた。


中に入ると一番奥に壇上があって、広間の中央には丸テーブル。

それをグルっと囲む様に、食べきれないほどのごちそうの乗ったテーブルが並んでいる。


俺達は一番乗りみたいで、主催の会社の人間達以外には誰もいない。


「中央テーブルにかけてお待ち下さい。」

と、背広の男がうやうやしくお辞儀をして下がって行った。


席に落ち着くと妙にモジモジしてるアオイ。

「どした?アオイ」

と、俺がちょっと眉をよせると

「う…うん。もうちょっと…マシな格好してくれば良かったな~なんて思って」

と少し気まずそうに苦笑い。


あ~そういうことね。

女の子だなぁ…なんて微笑ましく思いつつも俺はフォローをいれる。


「なんだっ、そんな事。

それ言ったら俺も一緒だって。

正装なんてもってないし…。

どうしてもって言われたら…制服くらい?」

「制服の存在…忘れてたよ…」

俺の言葉にがっくり肩を落とすアオイ。


でもさ、普通学校行くんでもないのに着ないよな。

しかも今日は祝賀会なわけで…


「でも祝宴て事は絶対にごちそう出るしっ。

制服じゃ思いっきり食えないっ!」

と、思い切り断言すると、

「それもそうだよねっ。」

と、アオイがようやく笑った。


そんな話をしてたのに…きっちり制服で来た奴いるし…。


名門海陽学園の制服の半袖のシャツにズボン。

ご丁寧にネクタイまできっちりして手には多分それは私服の薄いジャケット。


「コウ…制服で来たんだ?」

俺が吹き出すと、コウはしごく真面目な顔で

「この規模の企業が用意する会場にTシャツにジーンズとかで来る度胸は俺にはないぞ。

とりあえず…制服ならどんな場所でもそれなりのTPOは保てるからな」

と答える。

コウらしいっつ~かなんというか…。


ま、むしろ私服のジャケットの方がらしくないのか。

「でも上着は私服?」

と聞いてみると、奴はきっぱり

「一応…この季節のホテルとかはクーラー効きすぎてる可能性高いが、制服の冬服のブレザーだとさすがに暑すぎだから」


うあ…もうさ、こういう場所来慣れてますか?

もう…ほんっと今更なんだけどな、頭と顔良くて名門進学校の生徒会役員で主な武道の有段者…の後にもう一つお坊っちゃまって情報追加。


んでもってだ…何故かその後ろから

「…そんな可能性…全然考えてませんでした…。

そいえばそうですよね。

廊下はそうでもないけど、部屋の中ってちょっと寒いかもです…」

って、どこかで聞いたようなめっちゃ可愛い声がするんですが?


こいつ彼女つきで来やがったのかっ!

自慢かっ?

自慢なのかっ?!


と思って後ろに目をやると、まあ…自慢したくもなるだろうな…。

もう…あのコウのイケメンぶりに負けず劣らないくらい一般人から遥か宇宙の彼方までかけ離れたような、目を見張るような超美少女いたりしますが…。


想像した通りふわふわっとした雰囲気の癒し系の、うちのお姫様にちょっと似た感じの…でもそれを超えた華奢なその美少女に、コウは当たり前に

「俺言ってくるから、とりあえずこれ着とけ。」

と、自分のジャケットをソっと羽織らせて壇上の方へと駆け出して行く。

大切な大切なお姫様なわけね…。


サラッサラの黒のロングヘアのその美少女はそれを見送った後、その澄んだ大きな瞳で俺達を見てニッコリする。

なんつ~か…あれだけの出来過ぎ君が溺愛してかしづくだけはあるわ、これ。

…と思ってると、同じく隣でぽか~んと彼女に見とれてたらしいアオイがいきなり口を開いた。


「フロウちゃん…だよね?!」


へ??

思ってもみなかった台詞にポカ~ンとする俺。


でも彼女の方はそれを裏付ける様にホワンって可愛い笑みを浮かべて

「はいっ。アオイちゃん、ですよね?」

と答える。


………え~っと………

…ようは…つまり…コウの彼女って本当にうちのお姫様だったってこと??

いつからっ?

もとからっ??


コウに電話かけて姫の声とか聞いてないアオイは当然、全く疑問は感じてないわけで…。

どこまでばらしていいものかわかんないから突っ込みもいれられない。


でも…俺がコウと会った時点では二人はもうかなり親しい…つ~か、家族ぐるみの付き合いみたいな感じしたから元からなのかっ?!

すごい偶然で彼女のとこにもディスク届いてたとか?

んで途中でなんか似てるなとか思ったら実は本当に彼女だったとか言うラブコメのようなパターンか?!


「言ってきた。

ちょっと冷房弱めるって。

だけどまあすぐに変わらないだろうから、それまでそれ着とけ。」


戻ってきたコウが姫にそう言って、当たり前に彼女のために俺とは反対側のアオイの隣の椅子をひいた。

そしてそれにニッコリ微笑んで礼を言って優雅な仕草で腰をかける姫の隣にコウ自身も座る。


そのやり取り見てる限りは…全てがお互いに取って当たり前って感じで…やっぱ古いつきあいな気もした。


そんな事を考えつつ会話に参加してると、扉の方からいきなりすごいハイテンションな女の子の声が聞こえてきた。


「やっだあぁぁ~!!

コウ君だよねっ?!

マジ?その制服って海陽学園の制服だよね?!

すっご~~い!!

おぼっちゃま&超頭良い人だったんだね~!!!」


ズダダダダ~っ!!!って音がしそうな勢いで、コウの隣の席にダイブしたのは、見かけは意外に普通のポニテの女子高生。


「もう、期待以上で超嬉しいっ!

あ、でもネクタイちょっと緩めない?

ついでに第2ボタンくらいまで外してくれるとすっごぃ嬉しいんだけど…。

写真撮っていい?」

コウが思わずガタっと立ち上がって後ずさった。

顔が恐怖にひきつってる。


これは…誰だ?

ノリとしては…シャルルか?!

あ~こいつもしかしてあれか、腐女子とかか?!

ほんっといまさらだけど。


「…やめときなよ、あきら

コウ君怖がってるよ…。」

その子と同行した大人しそうな男が言って、彼女に席を勧める。


んで落ち着いたところで、あらためて聞いてみると、女の方はやっぱりシャルルで男の方はなんとあのメルアドスルーのヨイチだった。


んで、シャルルこと映の行動の理由は…単に自分の美少年キャラとコウの美形キャラを絡ませてみたかったという…まあ腐女子的発想だったわけで…。

俺の予想は当たったらしい。

てことは…残りはイヴか…。

アオイもそう思ったらしく

「あのさっ…」

と切り出しかけた時、主催の偉いさんが来て、祝賀パーティーが始まった。


通り一遍の挨拶のあと、配られたジュースで乾杯。


その後一億円の授与だったんだけど、これはどう考えても自分が受け取るべき物じゃない、とどめのわずかのHPを削ったのは自分だったんだけど、倒したのってどう考えてもコウじゃない?と、アオイが賞金受け取りを拒否った。


まあ…俺も秘かにそうは思ったけどね…。

他人事なんで口を出さずに黙っておく。

んでもって…コウの方もそこで、ああそうですかって素直に受け取る奴であろうはずもなく…もめてる。


俺的には…道義的にもほとんどいただけの俺らより、魔王に辿り着くまで全部必要な事調べて俺らを守って魔王まで連れて行って、魔王戦でもほとんどの魔王のHP削ってたコウが受け取るべきだとは思う。


そもそもコウがトドメさせなかった理由ってのも、誰も気付かず、もしくは反応できなかった後衛の側の横沸き処理で魔王の攻撃をいったん中断したって事だから、自分のポカじゃないしな。

むしろ完璧に正しい行動。


んでもって道義とは別の意味でも俺はコウが受け取った方が良いと思ってるんだけど…。

どう考えても…5人も殺される奴でるほどのやばい金だからね。

受け取った事で下手すると今度はその現金巡ってリアルで危険になる可能性が高い。

そんな時にアオイじゃ危機回避できないの目に見えてるし…

逆にコウならその辺上手くなんとかするだろ。


それ…こっそりコウに言った方がいいのかな…

アオイが受け取ったら多分アオイが危険になるって…と思ってると、いきなり映がでかい声で話し始めた。


「なんかさ~、人殺してもお金欲しいって奴もいたと思ったら、もらえる人間は要らない合戦しちゃうって笑うよね」


もう、それこそ会場中に聞こえるんじゃね?ってでかい声で、不謹慎とも思える様な発言で、隣のヨイチが焦って止めてる。

しかしその後、映はしごく建設的な提案をした。


「ね~、どっちでもいいんだけどさ~、公平って言うんならそのときパーティー組んでた4人で分けちゃえば?

敵のHP削んなくてもプリーストとか貢献度高いっしょ?

いないと絶対に魔王倒せないのにほぼもらえる可能性もないのってそれこそ不公平じゃない?」


あう…他人事じゃなくなってるよ、これ…。

アオイはすっかりその気で

「それじゃだめ…ですか?」

「それでいいんですか?」

「私はそれがいいんだけど…」

てな会話を主催側の司会と繰り広げてて、それがぎりぎり譲歩ラインだと思ったんだろう、コウも

「しかたない…そのかわりもらったものはどう扱おうと自由だよな?」

と主催に確認して了承した。


ということで、もうここまで来ると強制参加。

主催の側の司会者がうなづくと、係の男が消えてやがて黒い漆の箱を持って戻ってくる。

そこで順番にキャラ名を呼ばれてそれぞれ額面2500万の小切手を受け取った。


2500万…やばくね?


今回の一連の出来事なければ小躍りするとこなんだけど…大金巡ってボロボロ殺人事件起こってるのを目の当たりにしてきてると素直に喜べない。


隠しておこうにも、俺ら4人はそれぞれ他人事じゃないから示し合わせて言わないっていう事もできるけど、映あたりから色々漏れて、下手するとゲームのテスターで2500万とかで取材来ちゃったりとか一気にやばい事で有名人。


んでもって…2500万なんて高校生が持つ物じゃ~ってうちは当然全部親没収だと思うんだけど、それでもダチとかは金持ってんだからとかそんな感じで…マジ友人なくすんですが…。

それどころか下手すれば強盗殺人っすよ?

金っていう意味ならミッション達成金70万入ってるし、当分それで充分なんだけど…。

楽しく夢見れない空気読め過ぎちゃう自分が悲しいね。

そんな事を考えてると、


「じゃ、そういうわけでっ」


と、いう声と共に、ボ~っとしてる俺らの横でいきなりビリビリっと音がした。


へ??

音にまずびっくりして顔をあげて、音の方に目を向けて音の原因にまたびっくりした。


コウが…もらったばかりの小切手をビリビリに…

ほんっとにもう粉々くらいの勢いでビリビリに破いてる。


最後に2500万の小切手の紙吹雪を掌に乗せて、フゥ~っと吹き飛ばした。


ヒラヒラと舞う小切手の紙吹雪。

呆然とする主催側。


そりゃそうだ…2500万だよ?


「あ…あの…」

言葉がない主催側の司会者をコウはビシッと指差して

「高校生をなめるなっ!」

と言う。


「国家レベルの影響持つ大企業だかなんだか知らないがお前達のくだらない保身のせいで、俺の仲間は死ぬとこだったんだぞ!俺はそんな仲間の危険を放置させた企業の金なんか受け取る気はないっ!」


「うあ…コウ君カッコいいっ!!!」

それだけ言ってクルリと背を向けて席に戻るコウにシャルルが拍手喝采を送る。


「あ~でもそれは俺の主義にすぎんからっ。お前らは迷惑料にもらっとけよ」

ストン!と椅子に座ってそういうコウ。


すっげえな…マジ。

要らんと思ってても俺にはそこまで思い切った行動取れない…っつ~か、思いつきもしなかった。

なんていうか…最後まで勇者だよ、こいつ。


んで、その彼女様はと言うと、

「そうですね♪お金に罪はありませんし♪」

と、あっさりのたまわる。


この空気の中その言葉が出て来るのが、さすがあの出来過ぎ男の彼女様。

と思ってると…いきなりお姫様、主催の司会の方へと一歩進んだ。


「というわけでっ、これお願いします♪」

へ?

小切手をいきなり差し出された主催の司会者はポカンと口を開けている。


「えっと~、たぶん広い世界には私よりもこのお金必要な方がたくさんたくさんいらっしゃるので…ユニセフに寄付お願いします♪」


ニッコリと天使の微笑みでそれをさらに差し出す姫からコックリとうなづいて恐る恐る小切手を受け取る主催。


うあ~なんつ~か…彼氏同様すっげえらしい幕のひき方。

なんて感心しながらチラリと隣のアオイを伺うと、小切手握ったまま硬直してる。

たぶん…アオイもこれ受け取りたくないんだろうな…。

俺はそんなアオイの手をぎゅっと握って言った。


「アオイも…たぶん俺と同じ事考えてる…よね?」

「…うん…たぶん…」

そうアオイが答えて来るので、俺はアオイの手を握ったままアオイを司会者の側に一歩うながして、自分も一歩進む。

んで俺らは同じタイミングで司会者に自分達の小切手を差し出した。


「俺達は…別に良識とか人類愛とかそんな立派なものじゃなくて…

単に身の丈に合わない大金を意味もなく手にしちゃうのがすごく怖い事だってわかったので…。」

と、俺が言ってそこで少し言葉を切ると、今度はアオイが続けた。

「でも捨てちゃうのも怖いので、私達の分もユニセフによろしくお願いしますっ!」


二人揃って小切手を差し出しながらお辞儀をすると主催は驚いた顔のまま、それでも小切手を受け取った。


ということで、こうして結局誰一人賞金受け取らず、授賞式は終わった。



「ま、これで全員の顔も見たし、言うべき事もやるべき事も終わったんで、俺は帰るぞ!」

俺らのその行動を見届けたところで、コウが立ち上がった。

こいつ…もしかして賞金受け取るアオイに色々注意しようと思ってここ来たんだろうか…。

俺みたいにごちそう目当てじゃない事は確かだし…と思ってると、壇上に一人の老人が上がって

「待ちたまえ」

とドアに向かいかけるコウに声をかけた。

ピタリと足を止めるコウ。

俺を含めた参加者全員が一斉にその老人に注目する。

誰だ?このジイさん。


「このゲームの主旨を聞かないで帰ってもいいのかね?」

老人の言葉にコウは大きくため息をついた。

「圧力とか大人の事情とか大好きそうだから、言う気もないと思ってた。

一応説明する気はあったのか。」


コウの皮肉に顔色も変えず、老人は

「言わないと意味が無い。まあかけたまえ」

とうながす。

その言葉にコウは仕方なく再度腰を下ろした。


全員また席についたところで、老人が軽くうなづくと司会はお辞儀をして壇上から去る。


「まあ自己紹介から始めよう。

この企業のトップ、葉山総一郎だ。

68歳妻は5年前になくなり、子供なし…と、ここまで言えば何を言いたいのかわかるかね?」

なんか妙に面白そうな爺ちゃん。


「知るかっ!養子を探してるとでも言いたいのかっ」

コウ吐き捨てる様に言うと

「おお~!正解だっ!賞金でも出すかね?」

と、手を叩いた。ノリの良いじっちゃんだ。


「ふざけるなっ!言う気ないなら真面目に帰るぞ!」

からかわれたのが勘に触ったらしく立ち上がりかけるコウに

「まあ待て。まずその短気を直さんと人の上に立てんぞ」

と、ゆったりとした口調でじいちゃんが言った。

「誰も冗談でいってるわけではない。」


いや…充分冗談に聞こえるよ、じいちゃん…


俺の心の声はおいておいて、腰をあげかけたコウがまた座り直した。

「で?冗談じゃないとすると、それがこのくだらないゲームとどう関係するって?」

「聞きたければ中座しないで欲しいんだが?」

「……わかった、続けろ」

ムスっとコウが返すと、老人は話し始めた。


「結論から言うとさっき言った通りだ。

私には子供がいないのでこの企業を背負って行く跡取りを捜している。

ただし誰でも良いというわけではない。


三葉商事は今でこそ日本随一のシェアを誇るPC製作を始めとして様々な物を扱っている総合商社ではあるが、元々江戸時代の商家から始まって今に至るまで代々血族が引き継いできた会社だ。

私の代でその血筋を絶やすのは非常に心苦しいのだ。

だから私の直系でなくてもいい。

遠縁でもなんでも一族の血を引く者に継がせたいと思っている。


では一族の血を引く者なら誰でも良いかと言うと、それもそうとも言えない。

一商家だった江戸時代とかならともかく、今や日本を代表する大企業だ。

当然それを率いて行ける器というものが必要になってくる。


金に惑わされず、常識にとらわれず、目先の危険を見逃さずそれでいて他人を率いて行ける人材。

そういう人材が欲しいのだ。


もちろん実際に跡を任せるまでに社長に必要な知識というものも教え込まないとならないから、なるべくならまだ若い者がいい。


ということで、もう気付いていると思うが、君達がそのどこかで一族の血が入っている跡取り候補の若者だ。

そして多額の賞金という餌を下げ、情報が全くと言ってない先の見えないゲームの中で、目的に向かって進む過程での行動からその可能性を観察させてもらう事にしたという訳だ。」


「…ふざけるなっ!そのために5人も死んでるんだぞ!」

コウがバン!とテーブルを叩くが、老人は相変わらず冷静な様子で壇上からそれを見下ろした。

「その目先の危険をなんとかクリアできた人間だけがここに集まっているという事だ。」


それも…計算のうちって事…なのかよ。

呆れる俺の隣でアオイが青い顔で震えてる。

俺はテーブルの下で、大丈夫、と、その震える手を握った。

それに気付いてアオイが少し笑みを浮かべる。


「むろん必要なのは一人で…その一人が誰なのかは生き残った参加者全員がわかってるとは思うんだがね…」


ま、そりゃそうだよな。

俺とかに跡取りになられても困るのは確かだ。

もう…社長が指してるのが誰なのかは丸わかりなわけで…俺を含む全員の目がコウに向く。

全員の視線が自分に向くのに、コウは顔をゆがめた。


「俺はごめんだぞ。

こんな薄汚い企業の片棒担ぐなんてまっぴらごめんだっ!」

「汚い…か。確かにある程度黒を白にすることも逆にする事もできる力があるが…その力を行使するか否かの選択ができるぞ、上にいれば。

今回思い知らなかったかね?

末端にいれば不正を不正と知っても拒絶する権利すら与えられない。

止められる悲劇も止める術を持てないということだ。」


「………」


「まあ…考える事だ。

私はとりあえず80までは生きようと人生設計してるから…

社長修行につきあってやれるのは75くらいまでか。時間はあと7年ある。

一ヶ月に一度は連絡をいれるから考えておいて欲しい」


こういう言い方されると…コウの性格からして義務感で会社継がざるを得なくなりそうで怖いな。

上手くスルーしてくれりゃいいんだけど…。



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