鍵山 京とハーレムのヒロイン達
月曜日の朝、僕は諸々の準備を済ませ、部屋を出た。本当に久しぶりに、学校へ行くためだ。おあつらえ向きなチート能力も授かった事だし、ここは一応約束通りに登校しないと話が進まない。
正直気は進まないが、そう悲観する事もないだろう。きっと今に曲がり角でパンをくわえた女の子とぶつかるはずだ。それが主人公って奴だからな。世界が自分中心に回っているというのは、実に気持ちが良い。
とはいえまずは、最低限の義理は果たさなきゃいけない。5人もの女の子のアフターケアを、僕一人が頼まれているのだ。
ま、はなっから真面目にやる気はないが。この能力と僕の天性のセンスがあれば、女の子の恋の弱みに付け込んでたらし込むなんて訳ない事だ。
ゆくゆくは5人全員捕まえて、いけ好かない男どものいない、僕だけのハーレムを作る。僕の壮大な野望が、今始まる……!
「あれっ! 京ちゃん!?」
「ひっ、ひゃいっ!?」
「え、嘘……!」
「やっぱり京ちゃんだ! やっと学校来る気になったんだ……よかった……!」
「な、なんだ丹羽と原田か、驚かすなよ……ただの気まぐれだ。今日はそういう気分だったんだよ」
「……ううん。今日の京ちゃん、今までと違う目をしてるよ。ひょっとして京ちゃんも……」
原田は昔から、こういった事にやたら鋭い。一瞬で僕があの男に会った事を見抜いたようだ。その瞬間、丹羽の顔がわずかに曇ったのを僕は見逃さない。まずはこいつらからだな。
「安心しろ。あの人でなし野郎には僕がしっかりお灸を据えておいた。もうあいつが誰かを誑かして不幸にする事はない」
「す、すごい! さすが京ちゃん!」
「その割にはしっかり部屋から引きずり出されてるよね……」
「原田黙れ。それと、あいつと霞はしばらく学校を休むってさ。どうせ今頃は二人でよろしくやってんだろ……まったく、えらく爛れた駆け落ちだぜ……」
「あ、あのクズ男、逃げたか……!」
「千里君……」
「しばらく楽しんだら帰ってくるって言ってたし、放っといてこっちで楽しもうぜ」
「また京ちゃんはそうやって……相変わらずなんだから……」
「別に良いだろ。お前らが好きなんだよ。二人とも可愛いんだから、好きになるのは普通の事だろ?」
「……へんたい」
「原田黙れ。僕は変態じゃない。男が嫌いな分女の子が好きなだけだ」
教室に入ると、隅の方で話している二人の女子が目に入った。確か、千里が誑かした5人の内の二人だったはずだ。丹羽と原田をその場において、二人に近付く。
「えっと……山川と米戸、だよな? 僕は鍵山だ。千里 走馬の事で話がある」
「…………」
「…………」
え、何だこの沈黙は……何か間違えたか? やり直した方がいいのか?
「……あなたも、あの人に告白されたんですか?」
「えっいや、されたと言えばされた……かな?」
山川の質問に曖昧に答える。確か僕を好きだとは言ってたな。まぁ、一種の言葉の綾って奴だ。
「……千里 走馬が本当に好きなのは……あなた……?」
「あ、それは違う。あいつが好きなのは霞だ。それで、二人はしばらく学校に来ないって伝言だ」
続いて米戸の質問に答えた。瞬間、山川の目に暗い光が灯る。
「そう……霞、霞 沙都香……ふふ、探し出して、あの人と一緒に、血祭りに上げて差し上げます……」
「お、おい……確かに千里と霞はクズだが血祭りはやめてやれ。できる限りの埋め合わせは僕がするから」
その過程で君ともしっぽりよろしくするから。と、山川が取り乱す一方で米戸は随分落ち着いている。千里が本気じゃないって知ってたのか……?
「……千里 走馬は、愛する人と……幸せになれたの……?」
「ああ。告白は成功したらしい。今頃は二人で……いや、何でもない」
「……そう……よかった……」
良いのか……米戸は何を考えてるか分からない。山川はなんか怖いし。この二人の攻略には時間を要しそうだな。ともあれ、説明責任は果たしたし、今日の所はこんなものだろう。
先ほど教室に入ってきた神道がしきりに目配せしてくるので、今度はそちらに向かう。まだハーレムを作ってもいないのにこの忙しさは割に合わないな。後で千里のやつに文句の一つでも言っておこう。
「千里の事だけど」
「知っています。私にも連絡が来ました。お話ししたいのは別の事についてです」
「ああ……」
神道とは以前から知り合いだが、僕としては苦手なタイプだ。丹羽しかり神道しかり、向こうのペースに巻き込んでくる奴は得意じゃない。ただ、そういう奴が不意に見せる弱った所は好きだ。彼女もすぐに僕にメロメロにさせてハーレムに加え入れてやろう。
「変な事を訊くようですが、千里 走馬がなぜかあなたの事をよく知っていたり、未来を知っているというような台詞を言う事はありませんでしたか?」
「……いや、心当たりはないな。ただ、千里が言ってたぞ。霞 沙都香には妙な能力があるって」
「やはり、そうですか……」
千里曰く、神道はこの能力の出自に関わっているらしい。彼女の前でボロを出さないように注意しなきゃな……それにしても、千里は一体どうやってこいつをオトしたんだ……? 文句を言うついでに、後でヒントも聞いておこう。
チャイムが鳴り、担任の教師が入って来る。席に着くと、前の方の席から丹羽がこっちに視線を寄越し、柔らかく微笑んだ。これからもよろしく、って所だろう。
そう、千里と霞の関係も、僕と5人のハーレムも、まだこれから始まる所なのだ。だからさしずめこれは……
「……僕たちの戦いはこれからだ、って奴だな」
フられた俺がタイムリープで7人オトす〜fin〜
打ち切りではないです。完結です。
最後は千里君がヒロインみたいになってましたが、元々は偉大な先駆者の方々の作品に感化され、チート主人公が様々な制約の下で女の子をオトしまくる話が書きたいと思って始めたものです。こんな稚作ですが、それらの伝説の作品群を思い出すきっかけにでもなれば幸いです。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。