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原田 舞【告白:4回】



「……本当に、やめても良いんだぞ?」


「それだとやめてほしいように聞こえますよ」


「……」


「次は誰です?」


「……原田 舞。クラス委員長だ」


「あぁ、知ってます。俺みたいな奴に、良く話しかけてきてくれますよ」


「ああ、そうだな。次は彼女だ」




 今までは初対面からやらなければならなかったから苦労したが、今回は一応の面識がある相手だ。今までよりはやりようもあるだろう。


 そう、思っていたのに……




「……どうしてこうなった?」


「身から出た錆びってやつだよね。自分の胸にでも訊いてみたら良いと思うよ?」




 丹羽さんが容赦なく返して来る。先ほどから全く聞く耳を持ってくれない。まぁ、当然っちゃ当然だが……




「……それを言いたいのはこっちだよぉ……」


「す、すまん……いや、マジでごめん」




 一方の原田さんはずっと半泣きである。彼女にしてみれば降って湧いた災難というか、泣きっ面に蜂というか……


 そう。二人は友達だったのである。そしてなお悪い事に、情報通の丹羽さんはここ数日の俺の悪業の数々を耳にしてしまった。


 さらに最悪な事に、原田さんはなぜか俺に惚れていた。確かにやたら絡んでくるとは思ったが、完全に意表を突かれた気分だ。


 丹羽さんは今回の件で原田さんを当事者とみなして、自分の事を含め全てを話したらしい。そこへ何も知らない俺が割って入り、不穏な空気に慌てて校舎裏に呼び出して今に至る。


 原田さんにとっては突然の傷心確定の上、想い人と友達、その他数名のクラスメイトまで噛んでる修羅場に放り込まれたという訳である。そんな状況に置かれたら俺でも泣きたい。


 ただ、今現在の俺も目下最大の危機的状況にある事は間違いない。少なくともこれじゃあ告白どころではないからな。まずは彼女が俺に惚れた背景を知る所からなのだが、取り合ってもらえないのでは仕方がない。


 どうするか……諦めて落ち着くまで時を進めるか? しかし、いつ気付かずに地雷を踏んで取り返しの付かない事になるかも知れない。やはりここは1分で何とかするしかないか……











「……丹羽さん、原田さん、聞いてくれ。俺には好きな人がいるんだ!」


「いすぎるのが問題なんでしょうが!」


「いやそうじゃなくて、告白した人達とは別に、本当に好きな人がいる」


「……おいちょっと一発殴らせろ」




 まずい……丹羽さんの目が据わってる……! 俺は慌てて弁明する。




「ち、違う! 何も遊びで告白しようって訳じゃないんだ! 詳しくは言えないけど、好きな人に認めてもらうために、必要だったからやったんだ! だからその……後でちゃんと謝るつもりだった」


「……謝って済む訳ないでしょ? こっちはいきなり告白されてびっくりしたけど、それでもわたしの事ちゃんと見てくれてるって思って嬉しかったのに……ほんとは好きじゃなかったとか、そんな、の……っ」




 や、やばい! 今度は丹羽さんが泣きそうだ! 一体どうすれば……!?




「……でも、千里くんが美羽ちゃんのこと、よく見てたのは本当の事なんでしょ? だったら、そんなに怒る事でもないんじゃないかな? 千里くんもきっと、好きな人のために必死で行動しただけだよ」


「……うんっ」


「原田さん……!」


「それに、美羽ちゃんは見てもらえてただけ良いよ。私なんて、完全に眼中になかったみたいだし……」


「い、いや! そんな事はない! 俺だって本当は原田さんの事が気になってたんだ!」


「…………」


「……」


「……すまない、嘘だ」


「……ねえ千里くん? このままじゃ私、千里くんも千里くんの好きな人も千里くんが告白した人も、みんな殺しちゃいそうだよ」




 原田さんの瞳のハイライトが消える。あっ、これダメなやつだ。俺は時間を戻した。











 やはり真実をそのまま口にするのは、いくら何でもまずいか。本当の想いを伝えたら、好きじゃないと分かった上でキスまでしてくれた踵沢さんって、かなり凄い人だったんだな……


 いや、この状況で話し合いに応じてくれているだけ相当有情か……改めて考えるとクズそのものだな、俺……




「なあ、原田さんはなんで俺の事を好きになったか、訊いて良いか?」


「い、今それを訊くの!? あんたどこまで最低のクズ男なの!?」


「……ううん。良いよ。千里くんが私に興味を持ってくれて嬉しい。前に私が日直だった日の放課後、さぼって帰っちゃったもう一人の人の代わりに手伝ってくれたでしょ? あの時から、私は……」


「え、そんな事で……」


「もちろんそれだけじゃないよ? でも、そういうこと。千里くんは誰かが一人で頑張ってると、絶対に見過ごさずに助けてくれる。とても、優しいんだよ」


「いや……大した事じゃないし、無視した方が寝覚めが悪いだろ。誰だってそうするよ」


「それが、違うんだよ。私、知ってるよ? 千里くんは、みんながそうだって言うことに対してはつい否定から入っちゃう。ちょっとあまのじゃくで、不器用な人」


「……」


「……良いところだよ? だからこそ、周りのことを本当はすごく気にしてる。みんなが放っとくことを、放っとかない。みんなが嫌いな人を、嫌いにはなれないんだよ」




 原田さんは真っ直ぐに俺を見て言う。




「……霞さんが、好きなんだよね? 分かるよ。ずっと、見てたから……」


「別に、霞さんが嫌われてるから好きになったんじゃない」


「それも知ってる。ただのきっかけ、だよね? でも千里くんと霞さん、相性ばっちりだと思うよ。天下のはぐれ者と優しすぎるあまのじゃく……ね?」




 原田さんはそう言って笑う。優し過ぎるのは彼女の方だ。俺は捻くれ者で倫理観に欠けたクズではあれ、優しいなんて事はない。俺には俺の行動規範があるだけだ。


 それなのに勝手に惚れて、手酷く裏切られて、哀れな奴だ。同情はしない。彼女の事を好きにもならない。俺は、彼女を好きじゃない。




「俺に振られたんだから、俺より自分の事を心配しろよ」


「私のことはもう千里くんが心配してくれてるでしょ? だから私はそれでいいよ」




 彼女を見る。俺を見透かすような苛つく目付きだ。悲しいのに、にっこりと笑って……




「私はもうそれで、いっぱい……!」




 俺は時を戻した。











「聞いてくれ。丹羽さん達に言った事に嘘はない。俺は丹羽さんが好きだ。それ以外の子もみんな好きだ。それに実は原田さんの事も好きだったんだ」


「よっしゃ! 殴るね!」


「ああ! 殴って気が済むならいくらでも殴れ! 俺はみんなが好きだ! 誰か一人なんて選べる訳ない!」


「くっ、また開き直ってクズ男の戯言を……」


「何とでも言うが良い! お前ら全員、最後は俺がちゃんと幸せに……」




 俺は思い出す。霞さんは言っていた。彼女達には何もしない、ただ何も告げず去ると。俺には彼女達の誰一人として幸せにする事はできない……いや、元々逃げるつもりだったんだ。今更何を躊躇っているんだ……!


 俺は……!




「……俺は、お前らみんなが……好きだ……!」


「…………」


「……嘘を吐くなら、せめてもう少しマシな顔で言いなよ。騙されようとしたって無理だよ、それじゃ……」


「いや、嘘なんかじゃない」


「そんな顔でよく言えるね……私たちよりあんたの方が泣きそうじゃない……! ……ねぇ、なんでこんなことしたの……?」


「……丹羽さん、好きだ」


「……もういいよ……」


「原田さん、好きだ」


「うん……」




 ……駄目だ。これでは……とにかくこんなんじゃ駄目だ。もっと、俺の言葉を聞かせて、彼女達の話を聞いて、納得の行く答えを探さなくては……もう一度、やり直さなくては……!




「……ねぇ、千里くん」


「なに、原田さん?」


「私、嬉しかったよ。好きだって言ってくれて……嘘でも、嬉しかった。私も千里くんのことが好きだよ」


「……ありがとう」


「ううん。告白、しそびれちゃったから。ちゃんとできてよかった……」




 そう言って笑った。


 俺は……時を巻き戻せなかった。いくら俺が本当は彼女の事を好きでなかったとしても、この告白を無かった事にするのは絶対にしてはいけない事だ。


 だから俺は自分の納得のために、ただ一人自分だけのために、少しだけ素直になる事にした。




「……君が好きだ」




 金曜日の放課後、俺の事を好きな女の子を泣かせてしまった。

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