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2.テストプレイヤー

 「明人、どうした」

 あれ? 気が付くと、いつもの酒場。

 「いや、何でもない」

 今日は五人。加奈と修の他に、魔術師のレイと、僧侶の童夢。

 「これだけいれば、例のクエストの続きができそうね」

 前回がああだった為、今日の加奈は機嫌がよさそうだ。

 「そうですね」

 童夢がポツリと言う。この男はいつもこの調子だ。

 「ねえ……」

 レイが何か言いかける。

 「どうした?」

 レイはしばし硬直している。……外部と何かやっているのか?

 「この子なんだけど……」

 レイの硬直が解けると同時に、傍らに見知らぬ少女が出現した。

 「誰?」

 ヒロインの座が危ういとでも思ったのか、加奈が食って掛かる。このパーティでは加奈が紅一点だった。実際、女性の参加者は少ない。もっとも、音声がある程度変換可能になっている事もあり、本来とは反対の性を演じる人も少なくは無いのだが。だが加奈は以前それを否定しているし、俺もそう信じていた。

 「この前、皆がいない時間にソロシナリオをやってたら、介入してきたんだ」

 介入? 只でさえパーティ外からの干渉がし難いこのシステムで、更にソロシナリオで?

 「事情を聞いたら、どうも内容に関連のある別のソロシナリオをやっていたらしいんだ。で、彼女、パーティに入ってないらしいんで、うちへ誘ったんだ」

 成る程。そういう事もあるのか。

 「あ~ら、レイったら、いつから明人みたいに軟派になったの?」

 加奈が突っ込む。こらこら、誰が軟派だ。

 「いやぁ、姐御がつれないから」

 レイも軽く躱す。

 「……あの……」

 少女がおずおずと口を挟む。

 「ご迷惑でしたら、あたし……」

 あ、まて。

 「いやぁ、迷惑だなんて。歓迎しますよ!」

 あわてて俺が間に入る。

 加奈が冷ややかな視線を送ってくる。前回、ちょっと仲良くなりかけてたのに……。失敗だったか?

 「ふふっ。別に反対なんかしないわよ。ちょっとからかっただけ。あたしは加奈。剣士よ」

 よかった。あまり気にしていないようだ。(本当か?)

 「俺は明人。俺も剣士。一応このパーティのリーダーという事になっている」

 「私は童夢。僧侶」

 「俺、修。盗賊です」

 皆それぞれOKのサインとして自己紹介。

 「あっ、あの、あたし、エリー、です。あの、召喚師です……」

 召喚師……? そんな職業、実装されていたか?

 「初耳ね。どういう事?」

 加奈がまた突っ込む。あぁ、やっぱり気にしているのかなぁ?

 「俺がパーティに誘った理由はそれさ。新情報だろ」

 レイが得意げに言う。

 「あの、魔物を呼び出して、代わりに戦わせる、っていう、新職業のテストプレイヤーなんです」

 ほう! それは面白い。一般公開前の職業が拝めるとは……。

 「ふぅん、そうなの」

 加奈は明らかに府に落ちない、という態度だったが、言葉では理由を聞いたらあとはどうでもよさそうにしている。……あぁ、どっちなんだ? 俺はここではこんな性格だが、女の子の気持ちを推し量った経験は皆無だ。経験だけは、どうしようもねぇ!

 「で、今日はどうするの? やるんでしょう?」

 加奈が俺に凄む。……あぁ、そうか。リーダーの俺が決めるまで動けないか。

 「もちろん、やるよ。……加奈、前回までのクエストをエリーに説明してくれ」

 毅然として、席を立つ。なんか、ええかっこしいやね。

 「OK」

 加奈は満足げに肯く。よしよし。

 「では、出発!」


 「……で、その村を襲ってきた泥竜を撃退したんだけど、今度はその根城を叩くってわけ」

 移動しながら、加奈がエリーに状況を説明している。

 「……その、泥竜は何匹くらいいるんです?」

 「さあ? 村を襲ったのは二匹。片方はこの前倒したから……、三~四匹ってとこかしら?」

 説明しながら、他の者に同意を求めてくる。残念ながら、『魔物知識』技能を持つ者がいない為、詳しい事は解らなかった。

 「そんなとこだろう」

 ミッションの規模から言って、それぐらいだろう、と判断。ギルドの募集要項では四人から、という事だったので、そう多くはいないはず。多少はこちらの規模に合わせて増減はするだろうが……。

 そろそろ、根城と目している岩山に辿り着く。

 「レイ、『探知』たのむ」

やつらは、地面が土だろうが岩だろうが、関係なく潜る。そういう特殊能力を持つモンスターだ。

 「OK」

 レイが術を使って地中の泥竜を探す。

 「……おい、七匹もいるぜ!」

 レイが青くなる。前回、五人掛かりで二匹相手でさえ苦労している。

 「どういう事?」

 加奈が俺を見る。推察は間違ってはいなかったはず、と俺に同意を求めているのか。

 「いや、それより、どうするか、だ」

 俺は決め付け、加奈を遮る。

 「……おびき出しましょう。あたしに任せて下さい」

 エリーが前に出る。岩肌に屈み、何か呟く。

 「おお!」

 岩肌から、巨大な人型のものが二体、せりあがった。

 「ゴーレムか!」

 エリーは自分を召喚師と言ってたっけ。

 これなら十分戦力にも囮にもなる。

 「よし。いくぜ!」

 俺の号令のもと、全員根城へ突入した。


 まず、囮として、俺の両サイドをゴーレムで守る形で突っ込んだ。

 根城の中央まで進んだところで、泥竜共が一斉に鎌首をもたげる。数は……7匹全部いるな。

 一斉に、俺に向かって踊りかかってきた。ゴーレムは眼中に無いようだった。ゴーレムが割って入り、俺は正面だけ相手にする体勢を取った。他のメンバーは根城の入口付近から遠距離戦だ。加奈は術者のガードの為に入口で構える。

 「アースバインド!」

 僧侶の童夢が神の戒めを唱える。地面に潜る泥竜だが、その地面そのものを結界にして相手の動きを押さえる。完全に動けなくなるわけではないが、暫くは潜れないはず。

 「よし。今度は俺の出番だ。リーフブリザード!」

 レイが相剋である木属性の攻撃呪文を叩き込む。

 入口付近の数体が巻き込まれる。そいつらは、俺の方から入口の方に向かう。こっちは他の数体を押さえるのがやっとで身動きが取れない。

 「まかせて!」

 加奈が迫り来る泥竜を食い止める。だが、こいつらは剣の攻撃が効き辛いのだ。俺も加奈も、剣戟を喰らわせてはいるが、どれほどのダメージになっているかは定かではなかった。

 「暗殺剣!」

 加奈の影から、修が飛び出す。盗賊は、攻撃力自体は低いが、相手の防御力を無視するという特性をスキルで持っている。

 修の一撃で手前の一体が倒れた。

 「よし、その調子だ!」

 俺も持てるスキルを駆使して残りの泥竜の注意を引く事に専念した。

 後は、この調子で各個撃破して無事全部倒す事に成功した。これも、ゴーレムによる抑止力のお陰だろう。でなければ、数体倒す間に俺も加奈も、童夢の回復呪文では追いつかずに倒れていただろう。ゴーレムのお陰で俺達はたいした被害も無く、泥竜を退治できた。ミッションをクリアしたのでまた酒場へ戻る。

 「やったね! レベルアップ!」

 清算で、思いのほか経験値が入った。まあ、あれだけの相手を倒したんだ。当然か。

 「召喚師、強いじゃん」

 レイがエリーを称える。実際、エリーが召喚師でなければ、このミッションはかなり難しかっただろう。

 「でも、強過ぎない?」

 別に文句があるわけでも無いのだろうが、加奈が一応突っ込む。

 「……そんな事、無いですよ。大雑把な戦いしかできませんから……」

 確かに。魔術師が肉弾戦で無力な様に、召喚師も召喚以外は特に何もできないらしい。これでは、ミッションによっては向き不向きがでる。

 「役割としては、十分」

 童夢が相変わらずポツリと言う。

 「そうそう。パーティ向きの職業だね」

 修も認める。

 「まあ、これで、うちのパーティに必要だ、って事が証明されたわけだ。これからもよろしく」

 エリーの背中を軽く叩く。皆も肯く。加奈だけはちょっとだけ不満そう。

 「ありがとう、皆さん」

 エリーがにっこりと微笑んだ。

 俺は、ちょっとドキッとした。それと共に、ちょっと違和感。何だろう、この感覚は……。

 他の皆も感じているのだろうか、と伺う。レイと修はちょっとたじろいでいる。童夢は何も感じていない様子。加奈だけ、ちょっと訝しんでいる様な感じだった。

 「では、これで」

 童夢が早々に去る。

 「そうだね。じゃ、また」

 修も去る。

 「またね」

 レイも去った。

 俺は、先ほどの違和感が気になって、まだ残っている。加奈も、なのか?

 「あの、それじゃ、あたしも、これで」

 たどたどしくエリーも挨拶を残して去った。


 「ねぇ、明人、気付いた?」

 残った加奈も、やはり何か感じたようだった。

 「ん……、妙な違和感を覚えたが……」

 加奈は、はっきりとは把握していない俺を小馬鹿にするように鼻を鳴らした。

 「表情よ、表情」

 ああ、そうか。やっと俺にも解った。エリーの表情が異常なまでにリアルに感じたことが、俺の違和感。

 「このゲームで、あれだけシンクロできると思う?」

 確かに。この世界では、予め用意された体のパーツの組み合わせで肉体を現す。そのため、顔に出る感情はごく僅かである上、パターンも限られている。長くゲームをやっているので、それに馴れていて、特に問題は感じていなかっただけだ。

 「イメージネット本来の機能を使えば、話は違うけど」

 そう。このイメージネットは、本来利用者の頭の中で描いたイメージを相手に見せるものである。だが、このゲーム中では、システム上の処理の問題と、ゲームとしての割り切りの為、その機能は間接的にしか使用されてはいない。利用者の描くイメージをシステムで翻訳し、それをゲーム中のキャラクターに描写する。そのため、どうしても表情はぎこちなくなってしまう。

 「明人はどう思う?」

 「単に、シンクロ率の高い端末を使っているだけかも。テストプレイヤーだって言っているし……」

 別に、エリーを擁護しているわけでは無いのだが、他に思い付かなかった。

 「それだけかなぁ……?」

 加奈は納得がいかない様子。それだけこのシステムに精通している、ということか。

 「まあ、どうでもいい事さ。俺達には……」

 「それは、そうだけど……」

 加奈はまだ言っている。気になる事があると寝付けなくなるタイプか?

 「ふん、まあ、いいわ。じゃ、あたしも帰るね」

 加奈も去ったので、俺もログアウトした。


雑記:当時、オンラインゲームと言えば、ウルティマとかディアブロが有名でした。プレイしたことはありませんが、どちらもPKが酷いと噂で聞いた覚えがあります。銀行か何かの前では死屍累々だったとかw

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