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タクトさんは探偵さん(仮)  作者: 山の上の本屋さん
第1章『吉柳探偵事務所編』
9/9

File.3-2「連寺奈緒」

◇◇◇


(クロウ)曰く、警察が司法解剖を行った結果、被害者の身体からは何も出なかったらしい。

事件に関係あると思われる物も、犯人が殺害に使ったと思われる薬物の反応も、まさしく何も出なかったのである。

「とうとう捜査は行き詰まってしまいましたね。

これはもう本格的に無理ですよ。

何も証拠が無いのに調べたって意味ないですよ」

花音はソファに寝そべりながらぶうたれる。

銃鬼も自分の部屋へと行ってしまっていた。

「おいおい鈴音(すずのね)さん、勝手に決めるなよ。

鈴音さんの推理が何の役にも立たなかったからって、クロウの奴の情報から何も得られなかったからって、その程度じゃ行き詰まったとは言えねぇよ。

それにクロウの奴の情報でこの事件はボロマント以外の闇憑きも絡んでいることがわかったし、むしろやる気が出るってもんだよ。

あと、今思い出したがまだ調べてないことが一つだけあるしな」

それは一体、と花音が聞く前に銃鬼が地下から上がってきた。

「タクト君、学校の生徒から『彼』に似た体格の男子生徒を数人、リストアップしました」

「お、サンキュー。流石銃鬼だな、仕事が早い」

「えっ!? どう言う事です?」

戸惑う花音にタクトは嫌味ったらしい笑みを浮かべ説明する。

「鈴音さん、今の段階で一番厄介で、一番有益な情報源になるのが現場にいた『奴』だ。

銃鬼の言った通り、奴がうちの学校に通ってんなら割り出せばいい」

「でもタクトさん、どうやって割り出すのです? まさか本人に聞くのですか。『あなたは闇憑きですか?』って」

「まさか、そんな事しねえよ。もっと簡単な方法がある。

闇憑き同士は闇を感知すると本能的に自分の闇を発動させる――と言っても、ある程度闇の制御が出来れば抑えれるがな。

奴とあの時戦ってみて――戦ったとは言えない感じだったが――奴は自分の闇をさほど制御出来てなさそうだった。

だから俺がこの候補に上がった生徒達に近づいてみて左腕を発動、一瞬でも反応したらソイツは黒ってわけだ」


◇◇◇


結果から言うと候補に上がった生徒は全員白だった。

生徒全員を調べ終わった放課後、タクト達は誰もいない教室にいた。

花音がニヤニヤとタクトを見ながら皮肉を言う。

「あれあれ~? これはとうとう捜査は行き詰まったんじゃないですか~? あんなに自信満々に啖呵切ってたというのに結果はこの有様なんですからね~」

うぜぇ……。

タクトの脳内にこの言葉が浮かび上がる。

銃鬼は張り詰めた空気をなんとかしようと、相変わらず嫌味ったらしい笑みを浮かべている花音を抑え話す。

「それで、実際これからどうします? このままでは迷宮入りは確実ですよ」

「そうですよ。このままだと新たな被害者が出ちゃいま――」

「すーずのーん!!」

横からタックルをくらった花音は一瞬でタクト達の目の前から消える。

奇襲を仕掛けた人物の正体はやはり奈緒だった。

しばらく攻防した後、今回は絞め技によって花音の勝利。

奈緒は立ち上がると身体中のホコリを払ってから元気いっぱいの笑顔で軽い挨拶を交わす。

「こんばん!タッくん、悠っち」

「どうも、連寺(れんじ)さん」

「こんにちは、オレンジさん」

「タッくん身体の怪我は大丈夫?」

「あぁ、ある程度治療はしたからな」

挨拶が終わると早速奈緒は興味津々でタクトたちに詰め寄る。

「それでそれでそれで? タッくん達は放課後の教室で一体全体何の話をしていたのかな?」

目つきが完全に獲物を捉えた肉食獣の目である。

スクープを逃さんとするジャーナリストの目とも言える。

「別に、何でもねぇよ」

適当に流したが奈緒は「ふーん」と相変わらず疑いの目を向けてくる。

花音のように話題を変えることにするタクト。

「ところで、連寺さんこそどうしてこんな所に?

確かファンクラブ解散の謎を追ってたんじゃなかったか?」

「それなんだけど、不覚なことに何もわからなかったんだよねぇ。

新聞部部長として恥ずかしいと思うよ。

目の前のスクープを逃すだなんて」

奈緒はわざとらしく頭をガックリと下げる。

しかし、すぐに頭を上げると

「だがしかーし!!」

と叫び、奈緒は机を叩く。

そして、興奮してきたのか早口になって話し出す。

「新しいスクープが早速見つかったんだよ!

何と、この学校に出ると言われている幽霊が最近学校周辺でも彷徨っていると言う噂が!

しかも目撃証言多数! これはなんとしても新聞部が取り上げなければならないよ!」

「幽霊ねぇ……。ちなみにその幽霊ってどんな奴なんだ?」

「今調べてる途中だけど、何年か前に事故で死んじゃった男子生徒が学校の中を彷徨っているだけらしいよ。

だけど、見かけたからって不幸になるわけでも何かされるわけでもないらしいよ。

いわゆる浮遊霊ってヤツ?」

「なるほど……」

タクトはしばらく何か考えた後、

「連寺さん、その幽霊が具体的にどんな姿かってのもわかるか?」

タクトの質問に奈緒は両手の人差し指をこめかみに当てて「うーん」と考えると

「うんにゃ、まだそこら辺は聞いてない。

でも学校内の事故だったらしいから記録とかは残ってるんじゃないのかな?」

すると、自分の言葉から何か思いついたのか突如奈緒は大声で話し始めた。

「そうだ! 学校で起こった事故について調べれば良かったんだ!

そうとなったらこうしちゃいられない!

すぐにでも調べ始めないと。じゃあね、すずのん、タッくん、悠っち」

話し終えるが早いか、奈緒はすぐに教室を出ていってしまった。

「嵐みたいな娘だよな。連寺さんって」

タクトの言葉に悠も花音も頷く。


◇◇◇


タクト達も帰り、誰もいなくなった教室のドアを一人の生徒が凄まじい勢いで開ける。

奈緒である。

「忘れてた! タッくん達は放課後の教室で何してたの!?

あれ?いない。クソぅ……上手いこと逃げられちゃったよ。まぁいいや、しょうがない。まずは幽霊騒ぎについて調べよう」

奈緒はドアを閉め、教室を後にする。

そして校門前に誰かがいる事に気付く。

「およ? あそこにいるのは――」


◇◇◇


「奈緒のこと置いてきちゃいましたけど大丈夫ですかね?」

学校からそれなりに離れた道を歩きながら花音はタクトに聞く。

「まぁ大丈夫だろ。学校での事故についても調べるっぽいから暫くは学校にいそうだし」

「でも、そうなると帰りが遅くなるって事じゃないですか。

ただでさえ事件解決の手がかりが何もない状態で誰にでも危険が及ぶ可能性があるのに女の子一人を放っておくのはいささか問題があると思うんですけど」

「まぁ確かに。それはご最もだ。しかしよ鈴音さん、少なくとも犯人は長髪の女の子しか狙っていない。

って事は短髪の連寺さんは狙われる心配はないんじゃないか」

花音は暫く考えた後、「あ、そうでしたね」と納得する。

「ところで銃鬼さんは何を調べているのですか?」

「先程オレンジさんが話していた浮遊霊についてですよ。あ、ありました」

そして銃鬼はその事故の詳細を話す。

「その事故があったのは今からおよそ十年前。

暴走した車が正門に激突。その時に一年生の天城 天馬(あまぎ てんま)君が巻き込まれて亡くなったようです。この男子生徒が『彼』って事ですかね?

運転手の方も頭を強く打った事による脳挫傷。だけでなく衝撃によって車の前部分が大きく大破。潰れたように壊れたために車の中で圧迫されるような形となり、折れた肋骨が肺に突き刺さって亡くなったそうです」

事故の詳細を聞いて具合が悪くなってくる花音。

やはりどうしても痛々しい話は慣れない。

一方タクトの方は慣れっこなのか銃鬼と話を続ける。

「それで、その天城天馬君の体格ってどうなんだ?」

「残念ながらこの方は白ですね。

『彼』と比較しても身長が足りないです」

「となると、やっぱり学校の誰かになると言うことですか?」

花音の質問にタクトも銃鬼も頷く。

「それにしても、今回の事件はあのボロマントに引っ掻き回されてる気がするんだよなぁ。

アイツさえいなきゃ簡単に解決できそうな事件なのに――」


タクトが話し終えるちょうどその時、突如、タクトの全身を鋭い痛みが襲う。

「なんだ……この痛みは!?」

どんどん増していく痛みに堪らずタクトはその場に膝をついてしまう。

銃鬼と花音は急いで駆け寄る。

「タクトさん!?」

タクトは苦しそうな呻き声をあげながらも花音に話す。

「アイツに……やられた傷が、また痛み出した……」

タクトの言葉を聞き、銃鬼はすぐさまタクトに巻いてあった包帯を解く。

包帯の下では不可思議な事が起こっていた。

「傷が……治っていっている?」

かなりグロテスクな描写ではあるが、タクトの全身にあったボロマントによる刺傷は、奇妙な蠢きを見せながら、その大きさを小さくさせていく。

そして、傷が完全が消滅すると、

「何だ? 痛みが引いた」

まるで何事も無かったかの様にタクトの身体は正しく無傷となっている。

ほんの些細な傷さえも見当たらない。

「いったい、何が起こったんだ?」


「あなた達、大丈夫?」

後ろの方から女性がタクト達に呼びかけてきた。

三人が振り返るとそこには生徒会長の竜胆 凜が立っていた。


「二年生の吉柳タクト君に、同じクラスの城崎悠君、鈴音花音さん。何かあったの? 先程まで吉柳君が何やら苦しそうにしてたけど」

銃鬼と花音はまず凜のその美しさに魅了された。

透き通るように響き渡る声、スラッと伸びた長い脚。女性でも十分にカッコいいと言った印象を受ける整った顔立ち。

勿論、生徒会長挨拶などで声を聞いたり、見た事はある。しかし、写真で見たり、マイクを通したりせず直接近くでは初めてだった。

フリーズ中の花音と銃鬼の代わりにタクトが凜の質問に答える。

「いえ、特に何でもありません。ところで、何で三年生の先輩が何の接点もない俺達の名前を知ってるんですか?」

「生徒会長なんだから生徒一人ひとりの顔と名前ぐらい覚えるのが当然でしょう」

サラッととんでもない事を言ったような気がするが、タクトは敢えて流しておくことにする。

すると今度は、凜がタクトに聞いてきた。

「それで、吉柳君。先程どこか痛めてたみたいだけど大丈夫?」

「え? あ、はい。別に何にもありませんでしたよ。ただ腕が痛かっただけです」

タクトが平気そうに腕を回すと凜は暫く考えた後、

「そう、何ともないなら良かったわ。でも一応湿布ぐらいは貼っておきなさい」

そう言ってカバンの中から湿布を一枚取り出してタクトに渡す。

湿布を受け取るタクトだが、一瞬見えたカバンの中身が気になってしまった。

「ありがとうございます。ところでそのカバンの中って全部医薬品とかですか?」

「そうよ。医薬品だったらほとんど全部この中に入ってるわ。学校の外で怪我や事故があった場合応急処置程度ならいつでも出来るようにね。一応、人助けに役に立ちそうな資格はあらかた取ってあるわ」

オールマイト過ぎるだろ、とタクトは若干引き気味で思う。

「最近、近くの町の女子高生が殺害されてるニュースが流れているじゃない? うちの学校の生徒にも被害が及ぶかもしれないし、どこかで寄り道してる生徒が居ないかも確認しながら帰ってたところなの」

「なるほど、大変ですね」

と言うか犯人からしたらアンタだって標的になるだろ、と言おうと思ったが、長髪の女性を狙った犯行というのは、一般には出回ってない情報でもあるため自重する。

「さっきまで学校に新聞部部長の連寺さんが居て、ようやく帰した所だし、あなた達もあんまり遅くならないようにしなさいね」

そう言うと凜は帰っていった。


「はわぁ……。かっこいい人でしたね生徒会長さん」

魅了されてた花音がようやく喋った。

「写真からは分かりませんでしたけど実際に会ってみると彼女を神聖視してしまうファンクラブの気持ちも分からなくもないですね。

まぁ分かりたくないのが本音ではありますけど」

銃鬼の方もいつもの調子で話す。

「ま、あの雰囲気からは確かに生徒会長って感じの堅苦しさが感じられたけどな」

タクトは凜から貰った湿布をちゃんと貼りながら話す。


『おい、そろそろ俺に気付けよ』

上からタクト達を呼びかける声がした。

三人が見上げると、電線の上にクロウの烏がタクト達を見ていた。

「なんだよクロウ、いたのかよ。

て言うか気付けと言われても、何の合図も無いんだから無理だろ」

『新しい情報を持ってきた。良い方と悪い方、どっちから聞きたい?』

「無視かよ……。まあいいや、じゃあこういうのは悪い方からで」

『新たな被害者が出た』

クロウの突然の一言に三人は固まる。

『と言っても、被害者の女生徒は何とか一命を取り留めたみたいだけどな。だが意識不明だ』

「それが良い方の知らせってことか?」

『あぁ、それもそうだがまだある。

こっちは、どっちかって言うと最悪なニュースだな』

そして、次のクロウの言葉はタクト達に先程よりも大きな衝撃を与え、事件の謎をより深めるものだった。


『警察官の一人がボロマントを見かけたらしい。そしてそのボロマントの下はセーラー服だったそうだ』


◇◇◇


探偵事務所にて、タクトは今まで上がった証拠や手がかりを整理して睨みつけている。

ブツブツと独り言を言いながら考え込む。

「ボロマントは女子だという情報。だがそうなると俺達が出会ったボロマント、アイツは何だったんだ?」

「ボロマントさんが二人一組とかだったんじゃないですか?」

花音のぞんざいな声が後ろから聞こえてくる。

その花音はと言うと、完全にやる気を無くし、ソファの上で愛を膝に乗せ、愛の髪の毛を編んであげていた。

しかしタクトはそんな花音の言葉には気にとめず、なおも考え続ける。

そして、ある可能性が見つかった。

タクトはすぐ側にある電話をとり、どこかに電話をかける。

「あ、もしもし銃鬼?」

どうやらこの探偵事務所の電話は内線だったらしい。

まぁ当たり前だろう。この探偵事務所に電話してくる人なんて、そうそういないだろうし。

『何ですか? 何か手掛かりを見つけたんですか?』

「いや、何も見つけてない。だけどさっき鈴音さんとの話してちょっと昔戦った闇憑きを思い出してな。

クモ型の闇を使ってた女の闇憑き、覚えてるか?」

『俺とタクト君が出会って、初めて共闘した相手ですからね。嫌でも覚えていますよ』

「ボロマントもその類いの闇憑きって可能性はないか?」

銃鬼はしばらく電話の向こう側で考えると

『確かにそれなら警察の人が見たボロマントと俺達が出会ったボロマントが違う事の証明は出来ますね。

しかし、そうなるとタクト君の全身を切り裂いた呪術系の闇は誰の能力ですか?』

「そこなんだよなぁ。仮に、だぞ。仮に俺達が出会ったボロマントも闇憑きで、あのボロマントの闇が呪術系、警察の方のボロマントが操術系だったら説明はつく」

「『では何故、呪術系の方は操術系の方に協力してるのか?』」

銃鬼とタクトの声がぴったり揃う。

「だろ?」

電話の向こう側でも得意そうな顔をしてるのが分かるほど、皮肉った声でタクトは言う。

「これに関しちゃ仮定の話で言える事だから断言は出来ないが、多分身体だけでなく精神も支配できる闇だとか、そう言う闇憑きの死体を操ってるとか色々あるな」

『つまり結果的には?』

「警察の余計な発見のせいで更にめんどくなった」

『ですよね』

電話の向こうで銃鬼は苦笑する。


◇◇◇


翌日の放課後、タクトと花音は相変わらず何一つ謎が解けてない今回の事件について話す。

「とりあえず女のボロマントは体格がいまいちよく分からないから調べようにも調べられない」

「ではどうするのですか?」

「とりあえず銃鬼に生徒会長さんの見張りをして貰ってる」

花音は首を傾げる。

「何故、竜胆生徒会長さんをわざわざピンポイントで?」

「生徒会長さんが犯人とは思わないが、生徒会長さんは今回の事件に何らかの繋がりがあるように感じてな。

それに生徒を早く帰らせる為とはいえ、一人でいるのは危険だし」

「思ったのですが、なぜ生徒会長さんは狙われていないんですかね?」

花音の言葉にタクトもまた頭を抱える。

「そこなんだよ。いちばん狙われそうなのに何故か未だに襲われていない。

そこが今回の事件の真相に迫る上で、重要になりそうな気がする」

「なるほど。

と言うかタクトさん。サラッと忘れてますけど、タクトさんの傷が治っていた謎についてもまだ解けてませんよ」

そう、タクト達が最初にボロマントに出会った時にタクトは全身に刺傷を作り出される呪術を受けた。そして、昨日その傷が突如消失したのである。

「それに関しちゃ別に忘れてはいねぇよ。

治ってラッキー位にしか思ってねぇし」

タクトが話し終える終わるほぼ同時に、タクトの携帯が鳴る。

「もしもし銃鬼? どうした、ボロマントが出たのか?」

『いえ、竜胆生徒会長がカウンセラーの相談所に入っていきましたがどうしますか?』

「前に話してた事か。

まあとりあえず外で待っててくれ」

『了解です』

通話を終え、タクトは携帯をしまう。

「タ~っくん!」

背後からかなり強力な一撃を肩に食らうタクト。

振り返るとやはり、そこには奈緒がジャーナリストモードの目でタクトを見てた。

「よぉ連寺さん。いつもみたいに鈴音さんに奇襲しないでなぜ俺に?」

「だっていつも隙のなさそうなタッくんが隙だらけだったんだもん。それに教室のドアに背を向けてたのはタッくんだったからね」

「一般女子高生の奈緒に一発貰っちゃいましたね。タクトさ――ハブァ!」

耳元でニヤニヤしながら囁いてくる花音の額にタクトはデコピンを食らわす。

「ホントにすずのんとタッくんって仲が良いよね~。

何々何々? 二人はもしかして親密な仲なのかな?」

「フェッ!? そそそんな理由ないでしょ」

額を痛そうに摩っていた花音だったが、奈緒の思わぬ言葉に動揺を隠せなくなる。

「そうそう、鈴音さんはいわばボケで、俺がツッコミみたいなもんなだけだって」

一方タクトは何食わぬ顔でサラリと奈緒の言葉を流す。

「ふーん。そうなんだ。面白い記事になりそうだったんだけどな~。

ま、いいや。それでタッくん、最近放課後に残って悠っちやすずのんと何か話してるみたいだけど何の話?」

先程までの様子から一変してまたもやジャーナリストモードに入る奈緒。

「特に何でもねぇよ。テストも近いし勉強してたってのと最近、ここら辺で起こってる事件について話してただけだよ」

「あー、あの女子高生が狙われてるって事件?

確かに怖いよね。それもあるからなのかな?

竜胆凛生徒会長が全校生徒に早めに帰るよう言ってるのって」

「でもたまに軽い声掛けで済ます日とかあるよな」

「それは最近駅前に出来た有名なカウンセリングの先生の相談所に通ってるからなんだって。雑誌とかでも特集組まれたりする有名な先生で色んな悩みを解決してくれるらしいよ。

と言っても女の子限定なんだけどね」

「へー。凄いな連寺さん、色んな情報持ってんだな」

「フフン、新聞部を舐めてもらっちゃあ、困るよタッくん」

腕を組み、ドヤ顔で話す奈緒。

花音は何となくタクトと奈緒が似てるように見えていた。

自分に自信を持っている所だろうか。

「と言うか連寺さん、本題は何なんだ?」

「ん? いや特に何でもないよ。忘れ物取りに来ただけ」

先程までのジャーナリストモードはどうした!? とタクトは心の中で奈緒にツッコむ。

「それじゃあタッくんとすずのんも気をつけて帰るんだよ~」

「連寺さんもな、さっきも話したけど女子高生が狙われてんだから」

「大丈夫大丈夫。()()()()()()()()

そう言って奈緒は元気いっぱいの笑顔で教室を出ていった。

「確かに、奈緒は短髪ですから犯人に狙われる事はありませんでしたね。いや~すっかり忘れてました」

花音はタクトの方を向く。

するとタクトは何か考えている様でその目は真剣そのものだった。

「あの~タクトさん? どうしたんですか?」

花音は不安そうに尋ねる。

するとタクトは顔を上げ、確信を持った声で言った。


「ボロマントの正体がわかった」


◇◇◇


竜胆凛は悩んでいた。

自分はいつも生徒会長。それに関しては文句はない。

誰かを正しい方向へと導くことは苦ではない。

しかし、凛は常に生徒会長はこうあるべきだと言う姿を自分で決めつけてしまっていたため、本来の自分はどうありたいのかを見失いかけて悩んでいた。

また、最近は自分を慕ってくれている生徒の一部の問題行動も悩みの種であった。


「どうしたの?凛ちゃん」

目の前に紅茶の入れられたカップが置かれる。

凛はカップを運んできた男を見る。

細身の長身、長い手足、髪の毛はサッパリとした短髪。

目は優しそうな暖かみを帯びている。

心視(ここみ)先生……私、自分がどうありたいか分からないんです」

「知ってる。だからワタシの所に通っているのでしょう?」

紅茶を運んできたその男、心視 真斗(ここみ まなと)は凛の向かい側に座って優しく微笑む。

「アナタは真面目すぎて硬くなってるだけよ。

少し位肩の力を抜いて、誰かと遊ぶようにしなきゃ折角の美人も勿体ないわよ」

「でも、私は学校ではしっかり者の生徒会長でなければいけませんし」

「それも知ってる。それにしても、最終的にいつもこんな感じの会話になっちゃうわね。ワタシまで自信なくなって来ちゃうわ。

この町で最後の相談相手になるんだからしっかりと解決してあげたいのよねえ」

凛は紅茶のカップを口から離し心視に聞く。

「どういう事ですか?」

「ワタシ、この町をそろそろ離れるの。

居づらくなっちゃって。だから凛ちゃん、ホントはアナタの悩みを解決させた上で出ていきたかったんだけどね」

すると、凛の視界がだんだんボヤけてきた。

「あれ、どうしたんだろう……。身体が熱くて、痺れて……動けない……?」

「ウフフ、ようやく薬が効いてきてくれたみたいね」

心視の言葉に凛は耳を疑う。

「先生……どういう……。私に……何を……」

身体の熱さが治まらない。寧ろどんどん熱くなっていく。

「大丈夫、別に命に害はないわ。

ちょっとした催淫作用を含んだ薬、どんな感覚も快楽になるってだけよ。

それにこの薬、効果は長続きするけど薬自体は全身にすぐに溶け込んで、体液と同化するから検出されにくいのよ。

今までの女の子たちは恐怖が高まった時の髪の毛だけしか切らなかったけど、アナタの髪の毛は特に美しいから色んな状態で保存したいのよ」

「何を……言って……」

「まだ分からないの? アナタは賢い娘だと思ったのに、まぁいきなり過ぎて頭の整理が追いつかないのも無理ないわね」

「まさか……先生……?」

「そう、ワタシこそ、今話題の事件の連続殺人犯よ」

「何で、先生……」

「ワタシはね。女の子の長くて美しい髪が好き。

髪を見ればその娘がどれほど手入れをきちんと行っているか分かるんですもの。

髪の毛が美しければ美しい程、その女性自体もより美しくなるのよ。

ワタシは相談に来る女の子の髪の毛の美しさに気づいた。

今まで色んな女性の相談に乗ってきたけど、女子高生が一番美しい髪をしているのよ。

だから殺して、切ってその美しい髪の毛をコレクションしているの」

凛は心視が話している間も、心視の言葉が聞き間違いではないかと疑う。

しかし、心視がスーツの内ポケットから取り出した()()が真実であることを凛に突きつける。

巨大なハサミである。

「凄いでしょう、これ。これで今まで何人という女の子を殺してその子達の髪の毛を貰ったのよ。

そして今日、ワタシが出会ってきた中でダントツ一位のアナタの髪の毛を貰うわ!」

心視はそう叫んでハサミを振り下ろす。

心視の振り下ろしたハサミは凛の右耳近くの髪の毛を切り裂いた。

「『生きている時の髪の毛』ゲットぉ」

凛はもう目の前にいるのは自分がいつも相談していた先生で無いことを受け入れた。

今、自分の目の前にいるのはただの連続殺人犯だと。

「さて、それじゃあ次は少し傷が付いた時の髪の毛を貰おうかし、ら!」

ザクッと凛の左腕にハサミの刃が刺さる。

叫び声を上げそうになるが身体が麻痺している為、叫ぶことが出来ない。

また痛い筈なのに痛みがない。寧ろ身体に何か今までに感じたことのない感覚が走る。

「お薬が順調に回っているようね。いい調子よ、その内恐怖の感情すら快楽に感じてきちゃうから。

その凛とした表情が崩れて、完全に壊れきった凛ちゃんを見るというのも面白そうね」

そう言って心視はハサミをもう一度構える。

そして、振り下ろす――前にドアベルの音が鳴る。

「もう、折角いい所だったのに」

凛は助かったと思う反面、今この店に来た人に急いで知らせないと、と思った。

しかし、身体が思うように動かない。

「いらっしゃーい。どんな相談があって来たのかしら?」

心視がエントランスに出るとそこには、


ボロマントが立っていた。

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