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タクトさんは探偵さん(仮)  作者: 山の上の本屋さん
第1章『吉柳探偵事務所編』
7/9

File.2-3「不屈の王心(ライオン・ハート)」

◇◇◇


「凄い……あれが銃鬼さんの能力(ちから)ですか。

でもそれ以前に……」

花音は銃鬼の見た目をもう一度よく見て言った。

「誰!?」

今の銃鬼の姿は全くの別人となっていた。

あの輝く銀色の髪は少し金色が混ざった茶髪となっている。

肩の辺りまで伸びていた長い髪も後ろの方が短くなり前の方を少しバックにしている。

そして何より両の腕がもはや人としての形など無くなってしまっている。


左腕は変わらず義手のままだが見た目が違う。

黒色の光沢のあるメタリックなデザイン。

そして右腕。こちらが銃鬼の言っていた『武装系の能力』なのだろう。

肘から手首までは鎧のような物が覆い、指先が鋭い爪のようになっている手甲。また手首からはライオンの口を開けた顎の形のように牙が手を覆っている。

そして驚くべきはその色。右腕の装備――と言っていいのかは分からないが――全体が金色に輝いている。


「ヒドイな花音さん。確かに雰囲気は変わったかも知らねぇけど人格(なかみ)は全然変わってねぇよ」

口調も変わっている。そしてよく聞いてみると声も少し違っている。

これでは完全に別人だ。

「おいおいおいおい、アンタら僕を忘れてんじゃねぇよ!」

斬翔がそう叫びながらナイフを花音や銃鬼に向け投げる。

しかしそのナイフは全て銃鬼の左腕によって撃ち落とされた。

「ちっ……ウザったいなー。撃ってるだけじゃなくてその右腕で戦えよ」

「相手の能力も分かってねぇのに突っ込んでいくバカがどこにいると思ってる」

そう言いながら銃鬼は斬翔に向け再び発砲する。

「だったら教えてやるよ。僕の能力は僕の名の通り『斬翔(スライス・ダンス)』僕の投げたナイフは全て僕の意のままに操ることが出来る。つまり! この部屋においてアンタは既に包囲されてる状態なんだよ!」

そう言うと斬翔は右手の指先を、鍵盤を弾くようにしならせる。

すると周囲に落ちていたり、様々な方向へ飛んでいったりしていたナイフが全て統率のとれた部隊のように銃鬼の方を向く。

「死んじまいな、気味の悪い仮面野郎」

そのまま斬翔は右手をグッと握った。

全てのナイフが銃鬼に向け飛ばされる。

しかし銃鬼は四方八方から飛来するナイフを、一つも当たらずに躱す。

そしてわずか1秒にも満たない時間で銃鬼は斬翔の背後まで移動する。

「さっきからやたら余裕だなと思っていたがまさかただ油断してただけだとはな。

戦闘中に自分の力に自惚れるとは、普通に戦うにしても下の下だぞ」

そのあまりにも一瞬すぎる動きに斬翔は反応が遅れる。

すぐさま振り向くが、銃鬼の姿を確認する前に、自らの千切れとんだ左腕が斬翔の視界に入る。

「――――!!」

斬翔は叫び声を上げたが声は出なかった。

「なるほど。お前自身は発声機能が無いのか。

だからあんな風に頭を使う必要があったのか」

「――――。――――!」

斬翔は隠し持っていたナイフを逆手持ちし銃鬼の顔面を切りつける。

しかし銃鬼はその攻撃を紙一重で躱す。

そしてそのまま斬翔の右腕を掌底打ちでへし折る。

「お前の能力はその指先に引っ付いてる糸を使ってナイフを操ってるだけだろ。

だったら両腕使えなくすればいい。

んなもん能力とは言えねぇ。ただの技術だ。

お前、闇憑きじゃねぇな?」

「――――!!!!」

いつの間にか咥えていたナイフで斬翔はまた銃鬼の顔面を切りつける。

また紙一重で躱す銃鬼。しかし斬翔はその最後のナイフを投げた。遠心力を利用して口から離した。

そしてそのナイフは確かに銃鬼の顔面を捉える。

しかしここは銃鬼の運が良かったと言わざるを得ない。

ナイフは銃鬼の仮面にヒビを入れただけだった。

「お前の武器の欠陥は接近戦に弱いという事だったな。

だがこれで終わりだ」

「――――――――――!!!」

銃鬼は右手の拳を握る。すると獅子の顎も牙を閉じた。

「『獅子王咆哮(レオーネ・ルジート)』!」

ライオンハートの拳が斬翔の胴体を貫く。


「フゥ…… 二人共無事でし――」

ライオンハートを解除したと同時に銃鬼の体は床に倒れ伏した。

愛と花音が急いで駆け寄る。

「銃鬼さん、大丈夫ですか?」

見ると、斬翔に刺されたナイフの傷跡から大量に出血している。

「花音さん、避けてください。私がご主人様(マスター)の傷を癒します」

そう言うと愛の背中から巨大な燃え盛る翼が生えた。

多分、愛の能力なのだろう。


しかしタクトや銃鬼のような禍々しい見た目ではない。

一言で言うならそれはとても美しい。

片方で少なくとも愛の身長と同じくらいの大きさ、煌びやかに輝き、翼からは小さな温かみを帯びた光の玉や羽根が舞落ちている。


「って愛ちゃん、能力使っていいの? 銃鬼さんが使うなと言っていたのに」

ご主人(マスター)はなるべく私に能力を使って欲しくないと思ってますからね」

愛が祈りの姿勢をとると、翼が銃鬼の身体を優しく包み込む。

ご主人(マスター)は私が戦って傷付く事を嫌がるから使わせないように言っておくんです。

でも私は傷つくご主人(マスター)を見たくありません。

だから戦いの後はいつも勝手に能力を使って傷を癒しているんです」

「銃鬼さん大分無茶してるからね」

「そうですね。だからこそ私が癒してあげるんです」

すると愛は「エヘヘ」と照れくさそうに微笑む。

「まぁ能力を使ったことに関してはいつも怒られますけど。

でもその後にお礼と一緒に頭を優しく撫でてくれるのが嬉しいんです」

花音は愛の頭に手を乗せ優しく撫でる。

「うん、愛ちゃんは偉いよ」

「えへへ、嬉しいです」


◇◇◇


タクトの脊髄を捉えたはずの薬師寺は何故か床に寝転がっていた。

「な……どういう事だ」

「簡単だよ。アンタの腕を切り落としたからアンタはそのままの勢いで床に突進したってこと」

「クッ……ふざけるな。その程度で勝ったと思うな。

私はまだ戦える」

薬師寺は飛び起きるとタクトと向き合う。

タクトはいつの間にか左腕をあの悪魔のような腕に変えていた。

「なるほど、それが君の能力か……。

一目見ただけでわかる。その腕には素晴らしい力が秘められているな。

なんとしてでも頂こう」

すると薬師寺の左腕の断面から腕が生えた。

「先程の薬、あれは身体機能を上げるだけではない。

人間の能力を限界まで引き上げる薬だ。

治癒力も格段と跳ね上がり、腕を切り落とされてもこの通りすぐさま治る。

この薬を使えるのは私だけ。東堂でさえこの薬を使うと自我が保てなくなるらしいからな。

そこを含めても私はとことん完成されたクローンだ」

自慢話を終えた薬師寺は得意気な顔でタクトの方を見る。

タクトは時々カクっと顎を落としながら寝ていた。

完全に船をこいでいる。

「んあ? 終わったか?

なるほどな。その薬が化物化するための薬なのか。

そーなのかそーなのか。納得納得。

ところで化物化って面白いよな。上から読んでも下から読んでも化物化」

適当な相槌を打つタクト。

それを見て薬師寺は少し怒りを込めて話す。

「〈ホームズ〉君。私の速さに付いてこれて、なおかつ腕を切り落としたからと言っていささか余裕すぎるのでは無いかな?」

「あれ? 余裕そうに見えた。悪い悪い最近働き詰めで疲れてんだよ」

「それがどうかしたか? 大人になればそんな事は日常茶飯事だ」

「おいおい、説教ならやめてくれよ。

あんまり説教にいい思い出ないんだよ」

適当に手を振りながらタクトは薬師寺の言葉を遮る。

薬師寺は少し怒りを覚えたがすぐに落ち着いて、

「そうか。では――


続きを始めよう。


今度は先程のようにはいかない」

その言葉と同時に薬師寺の姿は消えた。

「さっきよりも速くなってんな。まぁだからといって追いつけない訳では」

部屋中を駆け回る薬師寺の前にタクトは瞬時に移動し

「ないけどな」

「何!?」

突如目の前に現れたタクトの姿に驚いた薬師寺だったがすぐに後方に飛ぶ。

しかしその時蹴り出されたタクトの足が薬師寺の鳩尾(みぞおち)に入る。

薬師寺は「ぐぅ……」と思わず声を出すが、後方に飛んでた分、衝撃を殺すことは出来た。

「フフフ……なかなかやるじゃないか〈ホームズ〉。

だが君は一つミスを犯した。私の切り落とした腕はすぐに処分するべきだったな」

「はあ? どういう事――」

次の瞬間タクトは背後から強力な一撃を後頭部に当てられた。

そしてそのまま床に叩きつけられる。

タクトを後ろから殴打した人物はそのままタクトの腹に着地。間髪容れずにタクトの全身に連打を開始した。

連打の衝撃で床に亀裂が走り、床が徐々に崩壊しつつあったがそれでもその人影は連打をやめない。

そしてトドメの一撃なのか両手の指を組んで作った拳をタクトの胸あたりを狙って振り下ろす。

その衝撃で床は遂に崩壊し、タクト、薬師寺、そして謎の第三者は下の階に落下する。


落下の際にタクトは何とかその人物から離れ距離をとる。

そのまま顔を上げその人物が誰なのか確認する。

「おいおい……流石にこれは予想してなかったぞ」

そこにはもう一人薬師寺が立っていた。

しかしこちらの薬師寺は様子がおかしい。

目はギラギラと赤く血走り、オマケに薬を投与した薬師寺よりも全身の筋肉の膨張率が高い。

「なるほどな。アンタの治癒能力の仕組みも分かった

アンタの治癒能力、プラナリアをベースにしてるな」

「よく分かったな〈ホームズ〉くん」

オリジナルの方の薬師寺が言う。

「その通り。私の治癒能力はプラナリアを元にしている。そのため、切断された箇所は元通りに再生、切り落とされた腕からも身体が生える。君は結果的に敵を二人に増やしてしまっただけだ。

まぁ薬を投与してからもう一人を生み出すとここまで薬の影響で暴走するものとは思ってもいなかったがね」

するとけたたましい咆哮と共に、暴走薬師寺がもう一度タクトへ突っ込んでくる。

「凶暴性が高いと扱いが難しいが結局は私の分身。

すぐに行動を読むことが出来る。

そのため巻き添えを喰らうことなく私達二人で君を殺すことが出来る!」

完全に袋叩きのタクト。

しかしオリジナルの薬師寺は少し違和感を覚える。

(何故だ……徐々に手応えを感じにくくなってきた。

確かに私一人の時に私の速さに付いてこれてはいたが、今は二人の人間から同時に無数の弾丸のように拳を打ち込まれている。

それなのに彼はそれすらも躱してきているというのか)

そして()()()()に拳を繰り出した瞬間タクトは左手で暴走の方の拳を、右手でオリジナルの方の拳を受け止めた。

「オーケー、()()()()()()()()()()()()()

そしてタクトはそのまま二人の薬師寺の拳をガッチリと握り、思いっきり振り回して投げ飛ばした。

「〈ホームズ〉! 今の言葉はどういう意味だ」

凄まじい剣幕で薬師寺はタクトに問いかける。

「アンタが自分で言ってたじゃないかよ。

『自分の分身だから行動は読める』って。

んで実際に感覚研ぎ澄ましてアンタら二人の行動パターンを分析してみた所、息遣い、拳を繰り出すタイミング、間のとり方、その他諸々全部全くもって一緒だった」

「何? つまり私が抱いた違和感、あれは君が徐所に我々の行動を読めてきていたからということか?」

「ご名答。流石社長さん。

さて、よくもボコスカ殴ってくれたな。

次はこっちの番だ」

タクトがそう言い終えた瞬間、暴走薬師寺が吹っ飛んだ。

そのまま上階の天井に激突。

「まぁ俺はあんまし連打ってガラじゃないし、それに長引かせるとこっちの方はメンドイだろうから」

そう言いながら左手を強く握りしめる。

「一発で決めてやる、よ!」

そして暴走薬師寺の顔面を思いっきり殴る。

すると魔法陣が現れ、暴走薬師寺の身体は爆発的した。

「爆発させるとは。〈ホームズ〉くん、君はよほどの馬鹿なのかな? また増えるだけだぞ」

得意げに笑みを浮かべる薬師寺だがその目に映った次の光景は薬師寺から余裕という言葉を消した。

爆発した暴走薬師寺の身体が全て一瞬で蒸発したのだ。

「アンタが言っただろ? 『切り落とすだけとはミスを犯したな』って。だから今度は後始末までしっかりとしたぜ」

タクトは落下しながら皮肉的に笑う。

「さて、あとはアンタだけだけど……別にいいや。

もう勝ったも同然だし」

そう言うとタクトは振り返ってドアの方へと歩き出す。

「罠だと分かってて突っ込むと思うか?」

「あ? 別に罠じゃねぇよ。どうせもうオレが勝ったし」

すると薬師寺の鳩尾に魔法陣が展開された。

「何!? まさかあの時」

「そう、最初の一撃で既に勝敗は決してたってわけ。

あぁ言っとくけどさっきみたいに爆発するやつじゃないから」

「だったら君は一体私に何を――」

次の瞬間薬師寺の腹部が()()()()消失した。

だが薬師寺の治癒能力ですぐに再生する。

「フッ。まさかこれが私を殺す手段だったのか?

忘れたのか私は常人の何倍もの治癒力がある。

この程度の傷何ともないのだよ」

「ふーん。じゃあいくら千切れても穴が空いても溶けても潰れても再生は効くのか?」

「当たり前だろ。私の治癒力はプラナリアを元にしている。いくらやっても同じことだよ」

話している間にも何度も薬師寺の身体には穴があき、千切れ、溶け、潰れる。


「プラナリアだって再生できる限度がなかったか?」


タクトのその質問で薬師寺はやっと気付いた。

自分の身体に傷ができる箇所が徐々に増えていた事に。

「しまった。そういう事か。

だが、プラナリアよりも大きさが何倍もある人間の私が再生不可能になるまで時間はかなりかかるだろう。

その前に君を殺してあげよう」

そう言って薬師寺はもう一度タクトの脊髄に向けて左手を突き出す。

すると左手が砂のようになって消えた。

「フン、こんな傷すぐに再生する!」

しかし傷は再生しない。

「どういう事だ。なぜ回復しない」

見ると身体のあちこちの傷も徐々に治らなくなり、砂のように消えていく。

「〈ホームズ〉! 貴様何をした!?」

「何もしてねぇよ。俺はただ一回目を打ち込んだだけ。

その現象について言うなら多分、アンタの治癒能力の限界が来たってことだろ。

限界を超えた場合ってのは大抵その体自身も持たなくなるんだろ」

「有り得ない。傷の処理の限界の前に治癒能力の限界が来るだと? そんなもの有り得ない!

私はクローンから生まれた完璧な人間だぞ!

己の身の方が持たなくなるなど絶対に有り得――」

最期の言葉を言い切ることは出来なかった。

薬師寺の全身が砂のようになり崩れ落ちる。


「最終的にはアンタも、アンタがバカにしていた東堂純哉と同じ人間だったって事だな。さて――」

タクトは戦闘中に落ちてしまっていたソフトハットを拾い上げ、ホコリを払う。

「依頼完了だな」

ソフトハットを被り直し、位置を少し整えるとドアを開け部屋を出た。


◇◇◇


夕方頃、【リバイブ】本社の建物には多くの警察関係者が出入りしていた。

そして、最上階では一人の刑事が破壊し尽くされた部屋を眺めている。

ボサボサとした髪。つり目の三白眼。口の周りにはヒゲを蓄えている。

連城(れんじょう)アランである。

連城は火のついていないタバコを咥えて呟く。

「今回は派手に暴れたらしいな」

そこに連城の後輩刑事、片峰 正義(かたみね まさよし)が駆け寄る。

「連城警部、もしかしてこれも〈ホームズ〉の仕業っていうんですか!?」

「いや、知らん」

「…………」

「何だよ。流石にここまで化物じみた事できる訳ないだろ」

「いやまぁそれはそうですけど……」

「それで、なんか見つかったのか?」

「はい。実は地下に巨大な研究所が発見されました。

それで研究所内を詳しく調べてみた所クローンだったり、違法薬物だったりの研究をしている事がわかりました」

「そうか。ひとまずこの会社の実態は掴めたから良しとするか」

「何かまた〈ホームズ〉に良いように扱われた気がするんですけど……」

「仕方ねぇな。いつまで経っても〈ホームズ〉の方が一枚上手だってことは癪だけどな」

「言えてますね」

片峰は苦笑し、連城は黙ってタバコをポケットにしまった。


◇◇◇


依頼結果報告・・・

東堂 純哉からの依頼、「薬師寺 慶介の身辺調査」は無事完了。

今回の依頼自体、東堂純哉による〈殺し屋探偵ホームズ〉の抹殺を狙ったものだった。

薬師寺慶介、東堂純哉共に死亡。

警察の立ち入り捜査でクローン製造が明かされた【リバイブ】は解体。

しかし今回の依頼で一つ謎が出来た。

薬師寺慶介、東堂純哉の取引先は分からないままで終わってしまった。

また地下研究所で銃鬼が出会った謎の少年〈斬翔(キリト)〉。

取引先の組織と斬翔に何らかの関係があると考えていいだろう。

・・・以上結果報告終了

タイプライターで報告書を作り終えるとタクトは椅子に体重をあずける。

大きく息を吐き、気付いた。

「あれ?鈴音さんと銃鬼どこいった?」


◇◇◇


花音は銃鬼の部屋に来ていた。

丁度愛のメンテナンス終わりのようで愛の部屋の前で銃鬼に会い、

「えっと、あの……銃鬼さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「別に構いませんが?」

という流れで銃鬼の部屋にいる。

特に何も無い部屋。

パソコンと愛のマザーコンピューターが部屋の奥にあり、右の方の壁にはたくさんの工具が置かれた台がある。

左の方に探偵事務所と同じようなソファとテーブルがあったのでそこに銃鬼と向かい合って座る。

「それで花音さん。話とは何ですか?」

「実はあの斬翔という男の子を倒した後、銃鬼さんも倒れちゃいましたよね? その後のことって覚えてます?」

「え? いや、覚えてないですね……」

「えっと、実は愛ちゃんが銃鬼さんを治療してる時に――」


◇◇◇


「それにしても、この斬翔という男の子一体何者だったんですかね?」

花音が斬翔の死体のある方向を向くとそこには血だまりもなければ死体もなかった。

「愛ちゃん!」

花音が愛の方を向いて叫ぶ。

そこには既に斬翔の姿があった。

天井から落下し、愛の後頭部目掛けて踵の部分に仕込まれていたナイフを振り下ろす。

思わず目を閉じる花音。ゆっくりと目を開けると


そこには愛の前に立ってナイフを左腕で防いでいる銃鬼の姿があった。


「言ッタはずだ。愛二手を出したラ、許サナいと」

銃鬼は不自然なほど不格好な発音で言う。

否、これは銃鬼ではない。悠でもない。

するとその()()の右手の顎が開く。

見るとそこに銃鬼の手はなく、本物の舌と喉があった。

次の瞬間その右腕が斬翔の胴体を喰らい、落下してきた肩から上の部分をもう一度喰らった。

そして何かが喰らったことによって斬翔がなぜ胴体に穴を開けられていても生きていたか花音は理解した。


その断面には肉も骨もない。金属のパーツだけがあった。

「ロボット……?」

「そのようですね。しかし私とは違う、殺戮のためのロボットのようです」

愛が花音に近寄りながら話す。

少し震えている。

いきなり殺されそうになったのだから当たり前だ。

花音は黙って愛の頭に手を置き撫でる。

「大丈夫だよ愛ちゃん。

銃鬼さんが守ってくれたんですから」

そう言って花音は銃鬼を見る。

そこで花音は斬翔の死体が消えていた時以上の衝撃を受けた。


銃鬼の仮面が割れ、顔が見えていた。

精悍な顔つきで悠の時の様な優しい雰囲気ではなさそうである。

しかしここで花音に衝撃を与えたのは銃鬼の素顔ではなく銃鬼の顔に()()()()()()()()と顔の左半分を覆うほどの()()()()()()()である。


◇◇◇


「銃鬼さん、あれは銃鬼さんでも城崎君でもないですよね?

だったらあれは誰、いや、何だったんですか?

それにあの顔の傷と火傷跡、あれは何なんですか?」

「花音さんは随分鋭く、また好奇心が強いですね。

知りたくない事は聞くべきではないですよ」

「いいえ、私は知りたいです。

タクトさんが戦う理由も銃鬼さんが戦う理由も。

それに愛ちゃんとの関係も」

「この話題において愛は関係ないと思いますけど」

「いいえ、何で愛ちゃんをあそこまで大切にしているのか、ただのアンドロイドとメンテナンスする人の関係ではなくまるで家族のように接しているじゃないですか」

「花音さんはとことん深くまで物事に関わりたいようですね。

ではお答えしましょう。あとで後悔しても良いのなら」

そして銃鬼は話し始める。


◇◇◇


まず、斬翔を殺した時に見せたその姿、それは俺がライオン・ハートの力を飲み込んで暴走しかける前の姿でしょう。

強い殺意を持った時、闇憑きは力を呑み込んで暴走するか、力に呑まれて暴走します。

殺意が強ければ強いほど力を呑み込み、殺意が弱ければ力に呑まれやすくなります。

闇はいつだって闇憑きの心のスキをついてくるのですから。


次に俺と愛の関係性は簡単に言えば家族のようなものですよ。

以前、俺のせいで二人、身近な大切な人が亡くなったと話しましたよね。

しかし実際の所、俺のせいで亡くなったのはその二人だけではありませんでした。

その話はまた今度にしましょう。

今は簡単に愛と出会った経緯を話しましょう。

そこから俺が闇憑きになった理由とあの顔の傷に付いても説明できますしね。


そもそも俺は親と言える人がいませんでした。

孤児だったんです。

それで養子として引き取ってくれたのが白崎という父親と母親、そして姉妹二人の計四人の家族でした。

それなりに幸せに過ごしていましたがある時、ある事件のせいで俺の家族と言える白崎家の皆さんが殺され、家と家族を失いました。

それで、家が燃やされた時に俺は、火事と家の崩落に巻き込まれて顔と全身にあの様な傷を負ったという訳です。


そして未だ見つかってない犯人をこの手で殺すために、俺は闇憑きとなりました。


事件の翌日、俺は自分の荷物で唯一無事だったノートパソコンを持って事件現場を後にしました。

そして街を出る際に行き倒れていた愛を見つけました。

その時は普通に女の子が倒れていると思い助けたんですが、住処にしていた工場跡で詳しく見てみたらアンドロイドだとわかり、メンテナンスを行いました。

それで翌朝、プログラムが初期化されていたのか、愛が俺の事をご主人だと思って懐いてきました。

家族という存在に飢えていた俺は愛を妹の様に可愛がることにしました。

そしてしばらく一緒に過ごしている内に俺も愛を一人の家族として扱ってたという理由です。


◇◇◇


「なるほど……そんな事があったんですか」

花音は感慨深そうに聞く。

「何か壮絶な人生だったんですね……」

「俺はまだ甘いほうだと思いますよ。

そもそも闇が深ければ深いほど扱いが難しくなります。

それに俺の場合は純粋に力を望んだだけですからね。

タクト君の様に複雑な闇は過去に何らかの、関係が深いことがあったようですね」

「つまりタクトさんは……」

「えぇ多分誰よりも人を殺し、己を殺し、何もかもを壊してきたのでしょう」


◇◇◇


薄暗い部屋。

一人の男がモニターを眺めている。

その映像は斬翔と銃鬼が戦っているものだった。

男のもとへ少年が歩み寄り話す。

お父様(マスター)、キリの戦闘データの解析が終了しました」

「そうか……ご苦労。

試験機を一つ失ったが得られたデータの価値は大きい。

東堂純哉の犠牲も無駄にはならなかったな」

「元はと言えばお父様(マスター)が命令なさったことではありませんでしたか?」

「あぁそうだったな」

そして男は不敵な笑みを浮かべる。


「これからが本当の始まりだ」



多くの謎が残った今回の事件。

この事件の水面下で既に物語は始まりつつあることを誰も知らない。


To Be continued...

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